11.2人の関係
セイヴァンが紅茶を淹れてくれる。その間にミンハルたちは椅子を引っ張ってきて、私を囲んだ。
「レイン嬢、どうやってセイヴァンを惚れさせたの?」
「えっと……」
ここで詰まるのはらしくない。けどストレートに言われると照れるものがある。セイヴァンはテーブルにカップを置いてから、ミンハルを叩いた。
「変なこと言うな」
「だって不思議じゃん。女に興味を示さなかったお前が急に優しくなるなんて」
どこが好きなの?とミンハルがセイヴァンに聞く。私もセイヴァンを見上げた。
「リリーの恩人ってだけだ」
無表情に答える姿は照れ隠しにすら見えない。”恩人ってだけ”は事実だというのに、胸がずきんといたんだ。
「へぇ、リリーちゃんの恩人」
「レイン嬢がねぇ」
見定めるように凝視され、居心地が悪い。私はセイヴァンが淹れてくれた紅茶を飲んだ。周りを見ると書類や本がたくさんあって、生徒会室だとわかる。学生時代、真面目とも言い切れなかった私はきっと場所も相まって居心地が悪いのだろう。私はカップを置いて立ち上がる。
「体も温まったのでもう行きますね」
「だーめ。もっとお話ししよ」
手首を引っ張られて椅子に戻される。セイヴァンばかりに気を取られてたけど、3人も当然顔がいい。この中で選ぶとしたら、誰が良いだろう。ミンハルなら後腐れないだろうけど、女好きキャラは攻略が難しいって決まってる。
「レイン嬢はセイヴァンのどこが好きなの?」
「ヒロインを溺愛するところです。あと常にかっこいい」
色々あるけどまず最初に出たのがそれだった。「ヒロ……?」と3人がキョトンとするから口を抑える。気を抜くとすぐに小説の話をしてしまう。
「「「あはははは」」」
3人が口を大きく開けて笑う。そんな面白いこと言っただろうか。
「セイヴァンが溺愛って」
「見てみたいなぁ、それ」
はっ、今のセイヴァンはヒロインと出会う前だから氷の公爵モードだった。パコンとセイヴァンが3人を順番に叩き、私を見下ろす。私は愛想笑いをして肩を竦めた。セイヴァンは私の椅子の背もたれに手をついて目を細める。
「溺愛って、君にはそう見えてるのか?」
「いや、私にじゃなくて……」
慌てて否定するとセイヴァンは目を丸くする。それから私の頬を両手で掴んで潰した。
「君以外誰がいるんだ」
「こ、言葉のあやですわ。この私が愛されないなんてありえないですもの」
セイヴァンの手から抜け出し、手の甲を口の横に持ってきて笑う。悪女ってなんて疲れるんだ。
「では私は殿方との用事があるのでこれで」
「殿方?」
一瞬にして室内の温度が冷え、体を震わす。セイヴァンが魔法を使った……?何もおかしなこと言ってないのに私は狼狽える。
「え、ええ。私のような美人は人気者ですの」
「レイン嬢、それ以上は止めた方が……ひぇ」
3人が青ざめた表情で私を見る。セイヴァンの顔を見るのが怖いけど、私は悪女。この先もっと恐ろしいことが待っている。気にしないように振り返ってドアに向かうと、二の腕が掴まれる。
「レイン嬢、自宅療養がまだ必要ではないか?心の病が悪化してるぞ」
耳元でセイヴァンが言う。息がかかって耳が熱くなる。私はセイヴァンの手を振り払った。
「余計なお世話ですわ」
これ以上は私の身が持たない。私は急いで中等部の校舎に入った。クラスは胸につけてるブローチの色でわかる。レインはブルークラスだった。机にはそれぞれ魔法で家紋が判で押されていてすぐにわかる。わがままを言ったんだろう。レインの席は窓側の一番後ろだった。
少ししてクラスに人がやってくる。最初に入ってきたのは眼鏡をかけた、ザ・優等生の男子。仲良くなったら勉強教えてもらえそうだし、話しかけてみよう。私は立ち上がって、椅子に座ろうとする背中に抱きつく。
「うわ、何……」
バッと振り払われ、机にぶつかる。尻もちをついた私を彼は見下ろした。
「アルバドール様、悪趣味ですよ」
「だってー、あなたの背中が魅力的だったからつい……」
諦めず立ち上がって、首に腕を回す。
「あ、あなたにはフォールス公爵がいるじゃないですか」
「あの人ったら私に全然優しくないの。勉強教えてくれるだけでいいから、ダメ?」
自分でも恥ずかしさに悶えるくらいの誘惑を仕掛ける。「それだけなら」と頷く彼の頬に軽くキスをする。彼はラーデル・ニーベルト、伯爵子息らしい。こんな簡単で彼は大丈夫なのかと思うけど、悪女の道に一歩近づいたことにほっとする。机の下で手を繋ぎながら、勉強を教えてもらっていた。
「あらあら、レイン様ともあろう方が勉強なんてらしくないですわ」
出たな。取り巻きたち。他のみんなはこの状況に何も言えないでいるのに、彼女達は違う。てか第一声がそれなんだ。セイヴァンと婚約してるのはみんな知ってるだろうに。
「私、誰からもなめられないように力をつけることにしましたの」
立ち上がって腕を組む。取り巻きと言っても仲は悪いみたいだ。
「でも人目は考えた方がよくってよ。公爵様に呆れられてしまうわ」
「ご忠告どうも」
私は荷物を持って、席に戻る。私の前に座る男子の肩にすれ違い様に指を滑らせた。この美貌を持ってすれば大半はレインに惚れるだろう。悪女になるためには恥を捨てなきゃ。
「いっけなーい、遅刻遅刻〜」
しんとした教室に一際高くて甘い声が響いた。ピンクのふわふわ巻いた髪に三つ編みのカチューシャ。白い花飾りを頭にまとい、金色の瞳をした彼女と目が合った私は目を見張った。




