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前世が人気声優だった私は、完璧に悪女を演じてみせますわ!  作者: 桜咲ちはる


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1.見覚えのある姿


「セイヴァン様!私のどこが劣ってると言うのです!セイヴァン様にふさわしいのは私しかいないわ!」


 涙を堪えて訴えかける。「黙れ」と低く冷たい声がする。私は言葉を失い、彼女が床に座り込むのをじっと見つめる。そんな行動を取るなんて、プライドが高い彼女からは到底考えられない。本当に、彼女はセイヴァンを愛していた。


「レイン・アルバドール。貴様との婚約は、この場をもって破棄とする!」


 拍手喝采が起こる。レイン・アルバドールは誰からも嫌われる悪女だった。だが、この数ヶ月彼女を誰よりも見てきた私は、レインの気持ちもわかるような気がした。


「カット」


 声がかかり、息を吐く。周りにいる共演者の顔を見てホッとした。


「レイン・アルバドール役、茅野麻衣さん。クランクアップです!」


 拍手と共に花束を渡される。レインのイメージカラーである赤色の花束を、そっと抱きしめる。次のシーズンがあったとしても、悪女レインはもう呼ばれないだろう。私は深々とお辞儀をした。


「レインに出会えて幸せでした」


 挨拶をし、ひと足先にマネージャーの車で帰宅する。明日からは別の作品が始まる。ゆっくりお風呂に入って寝ようと考えていた。家の鍵を開け、中に入った。その時だった。がくんと体が傾く。気づいた時には私の体は落ちていた。


 ドサッと誰かに受け止められる。爽やかな香水の香りが鼻を掠めた。


「あ、ありがとうございます」


 お礼を言い顔を上げる。私は息を呑んだ。キラキラと透き通る銀色の髪に、深いけど澄んだ青い瞳。この世のものとは思えない美しさに見惚れていた私に、彼は眉を顰める。


「レイン嬢、お怪我はございませんか?」

「レイン……嬢?」


 レインと言ったら、レイン・アルバドールだけどその役はもうクランクアップしたはず。夢を見ているのだろうか。思えば目の前にいる人は、セイヴァンが現実にいたらこんな顔だろうって感じ。それに肩が重い。私はそっと自分の服を見た。


 女の子らしいフリフリのデザインに派手な赤い生地。ふわっと広がるスカートはおとぎ話のお姫様みたいで、私は目を見張った。


「レイン・アルバドール……?」

「はぁ、あなたの名前は存じておりますが」


 ちょっと待って、待ってほしい。これはいわゆる転生というやつなのでは?私は両手で耳を押さえてしゃがむ。


「嘘だよ嘘だ……。そんなことありえるわけ、帰り方は……?帰りたいよ……」


 これは夢なのか。いや、でも頬をつねると痛い。現実?現実にこんなことが起こり得るのだろうか。急いで記憶を辿るけど、どう考えても家に帰宅しただけで何かにぶつけたとか襲われたとかそんなことはありえない。


 そう考えて、ふと思う。物語のヒロインはみんなすごいんだと。すぐに順応して、異世界で生活を始める。でも私は、仕事も順調だったし最近は帰れてなかったけど大切な家族もいた。簡単には割り切れない。


「レイン嬢、落ちる時に頭でも打ったのか?」

「大丈夫です。1人にしてください……」


 ふらふらと歩く私に「こっちです」と侍女が部屋を案内してくれる。それから三日三晩、私は寝込んだ。


「頭を打ったら戻れるかもしれない、そうよ!鏡に呪文を唱えてみるのは?それともやっぱり高熱を出すしか……」


 四日目、考えられるありとあらゆる手を試してみる。でもダメで、この手しかないのだろうかと部屋の窓から下を見下ろす。背に腹は変えられない。私は窓を開け、足をかける。大体こういうのは、死んだら元に戻るのだ。


「お医者様に滞在してもらってたからよかったものの、下手したら死んでる可能性だってありました」


 庭師に発見され、お医者さんが治癒魔法をかけ。再び自室へと連れ戻された私は、抵抗する気力もなくベッドに潜り込む。心の病だと診断され、警備が増やされるものの両親はこの数日一度だって部屋には来なかった。


 私の家族と違いすぎる。お母さんだったら何も言わず抱きしめてくれて、弟だったら怒ってくれる。お父さんは私の好きな物を買って慰めてくれる。主役じゃないレインの家庭環境は詳しく描かれることはなかったけど、レインのことを思うと胸が締め付けられた。


「帰りたい……」


 ずっとそのことだけが頭に浮かぶ。私は死んだのだろうか。でも記憶ではただ家に帰っただけ。もう向こうの時間は経過してしまってるのかな。今頃音信不通になった私を、マネージャーさんは必死に探してくれてるのだろうか。申し訳なさで胸がいっぱいになって、膝をかかえて蹲る。


 この世界には、レインを心配する人もいない。身の回りの世話をしてくれる侍女も、淡々と仕事をこなすだけで一つも会話はなかった。


「ねぇ、あなた名前は?」


 ドアの横でじっと立ってる侍女に話かける。ビクッと彼女は肩を震わせた。ああそうか、レイン・アルバドールは悪女だ。使用人たちにも常日頃から酷い扱いをしていたのだろう。怖がられるのも当然だった。


「何もしないわ。ここ最近の記憶が曖昧で、あなたのこともわからないの」

「お嬢様……」


 同情するような眼差しで私を見つめ、彼女は口を開いた。


「ステラです……」

「そう、いい名前だね……」


 そう言うとステラは目を見張って驚く。それだけでレインの人となりがわかって自嘲した。

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