6-3.未来を抱いて
若くして帝位に就いた柴栄は、まさに五代随一の名君として、歴史にその名を刻むこととなった。
即位後、彼はまず内政に力を注いだ。
減税、土地の開墾、農業の振興──
民の暮らしを豊かにすることが、国の礎となると信じていた。
一方で、軍の再編にも着手した。
それは、軍人勢力の抑制と皇帝権力の集中を意味していた。
寺院から財を国庫に取り込み、軍資金を調達する廃仏政策すら断行した。
そして、兵を挙げる。
後蜀を討って、秦州・成州を奪い、
南唐を攻めて、長江以北の領土を割譲させ、
さらに北漢・契丹との戦いにも挑み、南部三州三関を奪還──
かつて唐が滅びて以来、分断されてきた中国大陸は、再び「統一」という夢に近づいていた。
そのすべての中心に、柴栄がいた。
冷静沈着にして果断。
理想家でありながら、現実主義者。
時に厳しく、だが確かに民と未来を想う皇帝だった。
◇
初夏。
高家の庭には、白木蓮の若葉が風にそよいでいる。
その庭先では、翠琴の子──懐徳の長男と、柴栄の幼い皇子たちが、きゃっきゃと笑いながら遊んでいた。
「待てーっ」
「こっちだよっ!」
燁華と趙普は、縁側に並んで座り、その光景を見守っていた。
初夏の光に照らされる、無邪気な子どもたち。
「……子どもって、いいな」
ぽつりと、燁華が言った。
「好きなのか?」
「うん。あの表情を見ていると、心が和らぐ。……子どもたちが、安心して生きていける国を、作りたい」
趙普はふと、隣に座る彼女の横顔を見つめた。
子どもたちを見守るその顔からは、優しく温かいものが滲み出ている。
「……子ども、欲しい?」
茶化すように言ったつもりだったが、言葉にすると、急に現実味をもったものに感じる。
燁華は一瞬、驚いたように彼を見て──
頬を赤らめながら、ぼそりと呟いた。
「……趙普との子なら」
「……いいのか!?」
瞬間、趙普は思わず立ち上がって、彼女をがしりと抱きしめた。
「い、いた! いたい!! 離せ、バカッ!!!」
慌てて燁華が暴れる。
「え、なになに〜?」
庭から、にこにこと近づいてきたのは翠琴だった。
彼女の腹はふっくらと膨らみ、二人目の命を宿している。
「いや、俺たちの子どものことを……(モゴモゴ)」
うわっ!バカ!言うな!!!
燁華が慌てて趙普の口を塞ぐ。
「うふふ。子ども生まれたら、うちで育ててあげるわね! バンバン産んでいいわよ?」
高家は今や、半ば保育所と化していた。
柴栄の子たちも、懐徳の子も、翠琴が愛情深く面倒を見ている。
「よしっ、なんかやる気出てきた!!」
「バカバカバカバカ」
燁華は趙普をポカスカ叩いた。
アハハハハ
翠琴の明るい笑い声が、青空の下にこだました。
その穏やかな光景を、どこか遠くから見守っているかのように──
高木の枝を風が揺らし、柔らかな葉の影が、静かに揺れていた。




