4-7.新たなる春
郭威は後周の初代皇帝として即位すると、速やかに文官・武官の再編に取り掛かった。
先の粛清により有能な臣下の多くを失った今、郭威は自ら信頼する者たちを政の中枢に据え、再出発を図った。
柴栄は澶州節度使に、高懐徳は禁軍(近衛軍)将校に、趙匡胤(燁華)は禁軍行首(近衛軍の中堅幹部)に任命された。
潘美と曹彬もまた、禁軍に編入された。
趙普・韓珪は文官として、政の柱を支えた。
刑罰の緩和、自作農の育成、税制の不公平是正──
これらの施策は、疲弊した民の心を救い、中原の復興へと道を開いた。 やがてそれらは「善政」と称えられ、後世に語り継がれることとなる。
◇
──春。
満開の梅が咲き誇る中、高懐徳と翠琴の婚儀が華やかに執り行われた。
翠琴は、緋色の着物に身を包んでいた。
上着には金糸で牡丹と鳳凰が精緻に刺繍され、柔らかな絹地は春の光を受けて淡く煌めく。
髪は高く結い上げられ、珠玉と翡翠を散りばめた飾り簪が、さざ波のように揺れていた。
薄紅に染めた頬。伏せた睫毛の影。
そして、そっと懐徳を見上げるその瞳には、深い喜びが宿っていた。
懐徳は、目を細める。
目の前の花嫁は、息を呑むほど愛らしく、美しかった。
◇
羨ましい──
燁華は、ため息をそっと飲み込んだ。
ふと隣を見ると、趙普が杯を傾けながら、どこか安らかな微笑を浮かべていた。
……私も着飾れば、少しは女性らしく見えるのだろうか。
そんなあり得ない想像に、慌てて首を横に振る。
◇
一方、曹彬はというと、懐徳にべったりだった。
「兄貴! かっこよすぎるっす!!」と、少年のように目を輝かせ、何度も繰り返していた。
庭には満開の梅が咲き乱れ、白い花びらが春風に乗ってはらはらと舞い落ちる。
酒の香と、梅の芳香。
それらに包まれ、皆の頬は赤らみ、美しい琵琶の音色と笑い声が、途切れることなく続いた。




