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3-11.続く友情

 燁華(ようか)が目覚めると、視界の端に見慣れた男の姿が映った。


 ——趙普(ちょうふ)だ。


 静かに座ってこちらを見つめている。

 それだけで、胸がぎゅっと苦しくなる。


 ……なんで、ここにいるんだ……

 苦しいほど好きだった男。

 諦めると決めた男。


 頭がずきずきと痛む。二日酔いだ。

 ゆっくりと上半身を起こそうとすると、はらりと胸を覆う布が落ちた。

 ふと胸元の締めつけがないことに気づく。

 慌てて手を伸ばすと、晒しが緩んでいた。


「……これ……お前がやったのか?」


 問いかけに、趙普は微かに眉を動かし、うなずいた。

「ああ……苦しそうだったから、布をほどいたんだ」


 燁華の心臓がバクバクと波打ち始める。


「……見たのか?」

 そう問う声が、かすかに震える。


 趙普は正直に答えた。

「見てない……いや、正確に言うと——膨らみは見た。けど……先端は見ていない」


「バ、バカッ!!!!!」

 顔が真っ赤に染まり、思わず手近にあったクッションを投げつけた。

 それでも怒りと恥ずかしさはおさまらず、次々と罵声を浴びせる。


「最低! 助平! 変態!!」


 趙普は一切反論せず、ただただクッションと罵声を受け止めた。


 ようやく言葉が尽きたころ、燁華は肩で息をしながら、趙普を見る。


 彼は、燁華を見つめたまま、そこに立っていた。先ほどまであんなに暴走していた怒りが少しずつ収まっていく。


 燁華は、自分の手元を見つめたまま、ぽつりと呟いた。


「……ずっと、騙していて悪かった」


 その声には、どこか諦めが混じっていた。


 ——嘘ばかりの自分に、趙普は愛想を尽かしてしまったに違いない。苦しさに、目をギュッと閉じる。


 だが。


「……騙してなんか、いないさ」

 趙普は微笑んで、そっと燁華の手を取った。彼は寝台の横に(ひざまず)き、彼女を見上げる。


「男でも女でも、あなたは……俺の親友だ」

 趙普は黒く澄んだ目でまっすぐに燁華を見つめる。

 揺らがないその視線に、燁華の胸は熱くなる。


「秘密は守るよ。誰にも言わない。……だから、もう一人で抱え込むな」

 肩にそっと腕が回り、抱き締められる。

 彼の胸の鼓動が近くで聞こえる。


 それは、友情の証であったのだろう。


 趙普の香りに包まれて、さっきまでの刺々しかった心が落ち着きを取り戻していく。

 肌を見られた恥ずかしさも、すでに彼の体温に溶かされてしまった。


 ……


 いつまでそうしていただろう。


 趙普の声に、そっと体を離す。

「……なあ、本当の名前、なんていうんだ?」


「……燁華」


 趙普は、ふっと表情を緩めるとこう言った。

「——綺麗な名だな。あなたに、とてもよく似合ってる」


 その言葉に、また胸が高鳴る。



 ——ああ、忘れるなんて無理だ。

 私の心は、すっかりこの男に絡め取られてしまったのだ。




ここまで読んでくださって、ありがとうございます❤︎

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