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3-9.衣の下の真実

 屋敷では遅くまで宴が続いていた。酒が進むにつれ、笑い声と歌声が天井を揺らすように響く。


「こんろこそ、きったんのやつら……ひとりも、かいほーに、いれないんらからな……!」


 ろれつの回らない声で悪態をつきながら、燁華(ようか)は卓に肘をついてふらついていた。


「はいはい、もう部屋に帰るぞ」


 冷静そのものの趙普(ちょうふ)は、呆れたようにため息をつくと、酔いつぶれた燁華を背負った。背中からは、酒と香の混じった香りがほんのり漂ってくる。


 途中で、燁華の小さな寝息が聞こえはじめる。どうやら完全に眠ってしまったらしい。


「まったく……酒が入ると人が変わるんだからな」


 部屋に着くと、慎重に布団へと横たえる。帰ろうとしたそのとき、背後からかすれた声が洩れた。


「……う、ううっ……」


 振り返ると、燁華が苦しげに眉をひそめている。


「なんだよ……世話の焼けるやつだな」


 しぶしぶ戻り、帯に手をかけて衣をゆるめる。だが、指先に触れた感触に、趙普は眉をひそめた。


「……なんだ、これ?」


 衣の下には、胸元から腰にかけて、きつく巻かれた布が何重にも重なっていた。汗を吸った布は固くなり、まるで鎧のようだ。


「なんで、こんな……?」


 戸惑いながらも慎重に布をほどいていく。身体を締めつけるそれを、少しでも楽にしてやりたい一心だった。


 だが——あと少し、というところで、趙普の手が止まった。


 目の前に現れたのは、しなやかで細い腰。そしてその上の、決して男のものではない、やわらかな曲線。


 趙普は、瞬きを一度だけして、静かに息を吸った。


「……」


 やがて、ゆっくりと息を吐き、露わになった肌を隠すように、丁寧に衣を整えた。


 視線が、眠る燁華の顔に吸い寄せられる。


 ——語り合い、未来を描いた仲間であり、憧れの人。

 その人が、ずっと隠してきたもの。


 趙普は、そっとその場を後にした。


 廊下に出ると、夜風が火照った頬を優しく冷やしてくれた。


「……そういうこと、か」


 誰に届くでもなく、独り言のように小さく呟いた。


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