3-1.運命の出会い
翌朝、やわらかな陽が郭威の屋敷を照らす頃、燁華(男名:趙匡胤)は再び呼び出された。翠琴も帯同する。
清められた庭先の一角、質素だが手入れの行き届いた縁側に郭威が座っていた。
「紹介したいやつがいる」
郭威はそう言って、傍らに立つ若者を振り返った。
「柴栄だ。妻の甥でな、昔から柴氏が育ててきた。最近、俺が養子に迎えた。今じゃ名実ともに俺の息子ってわけだ」
現れたのは、若々しい精悍さをたたえた青年だった。切れ長の目に、引き締まった輪郭。静かながらも芯の強さを感じさせる佇まいだった。
「お前と同じくらいの年だ。これからは、柴栄を軍事面で支えてやってくれ。お前の力を、存分に活かしてほしい」
郭威の言葉に、燁華は驚きながらも身が引き締まる思いでうなずいた。
柴栄は一歩進み出ると、まっすぐに燁華を見据えて頭を下げた。
「ご一緒できること、光栄です。新しい中華を、ともに築いていきましょう」
その言葉に、燁華は再び深くうなずいた。
そして、もう一人。郭威が軽く合図を送ると、柴栄の後ろから長身の男が現れた。
「そしてこっちが、趙普。現場で培った経験と、鋭い直観には幾度も助けられている。この体格で、武術はからっきしなんだが——」
ガハハ、と郭威が笑いながら言う。
「頭のキレは、中華一だ」
その姿を見た瞬間——燁華の視線は一点を見たまま動かなくなった。
視界の端がゆらぎ、音が遠のく。まるで世界が靄に包まれたかのように、彼だけが鮮やかに浮かびあがってみえた。
すらりとした長身、広い肩幅。
凛とした佇まいには威圧感がなく、ただ静かに空気を支配していた。
彫りの深い顔立ちに、切れ長の黒い瞳がまっすぐに射抜くような眼差しをたたえている。
その目が、まっすぐこちらを見つめた瞬間——
ぎゅっと胸が締め付けられる。
男であるのに、美しい。
——いや、性別を超えて、ただ美しいとしか言いようがなかった。
——見惚れていた。
すぐ隣では翠琴が、燁華の顔をじっと見ていた。
(……え?そんな顔、見たことない)
お姉さまが、誰かに一瞬で心を奪われるなんて。
たくさんの男たちに囲まれながら、いつも涼しい顔をしていた姉が——
今はまるで、春の陽にとける花のように、心のままにほどけていた。
その変化を、翠琴は息を呑むような思いで見つめていた。
趙普は、穏やかな笑みを浮かべて一礼した。
「お褒めいただき、光栄です。趙匡胤殿と力を合わせ、志を共にできることを、何より嬉しく思います」
その声は、低く、落ち着いていながらも透き通るように美しかった。
まるで風に鳴る鈴の音のように、燁華の胸の奥深くに静かに響き渡る。
燁華はまだ目を逸らせぬまま、わずかに口を開いた。
「よ、よろしく……」
——胸の高鳴りがうるさく、自分の言葉すら輪郭がぼやけていた。
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