古谷陸②
「久しぶりにゲームやってみるか」
気分転換に、ゲーム機を手に取った。
けれど、タイトル表示の画面で、心は踊らなかった。
小学生の頃にドはまりしたゲームも、なんだか熱が入らない。
ゲームをプレイしていても、全然楽しくない。
(なんでだろう……勉強もゲームも、何もやる気になれない……)
時間をかけて上げたレベルも、集めたアイテムも、仲間たちとの絆も、所詮、電子のゴミ。
そう考えてしまって、ゲームにすらやる気が湧かず、楽しさを見いだせなくなっていた。
夜も寝られない。でも、明日は学校でテストの続きなので、早く寝ないといけない。
「死にたい……」
俺は初めて、その言葉を口にした。
生きていても、つまらないからだ。
もっと正確に言えば、死ぬのは苦しいから嫌で、誰にも知られずひっそりと消えたいという感情が湧き起こったのだ。
――正直、生きるのも死ぬのも嫌だ。
(生きるって、コスパ悪くないか?)
生きているだけで金がかかる、時間を浪費する。心配事は尽きないし、将来へのぼんやりとした不安とやらが蔓延っている。
「なんか、生きるのダルいな……」
夕暮れ時に自宅へ向かって自転車を漕いでいるときに、ふと、そう思った。
俺は、高校の通学路の途中にかかる陸橋の上から真下を見下ろした。
目下には、硬い地面が見える。
(ここから飛び降りれば、全部終わりにできる。成績とか、就職とか、友達とかカノジョがいないこととか……なにも考えなくていい。【マジメくん】を演じなくていいんだ……)
死の魅力に憑りつかれた俺は、橋げたに足をかけた。
しかし、すぐに元に戻って、自転車に跨った。
「いや、何考えてんだ、俺は……」
自転車に乗って、その場を後にした。
明日は数学のテストだ……数か月後、数年後の自分のために今日も仕方なく生きようと思う。
そんな鬱屈とした日々が続いていたとき、幼馴染の海と再会した。
いや、正確に言えば、海と3年ぶりぐらいに話したのだ。
きっかけは、担任の先生が俺に届け物をお願いしたことだ。
「悪いね、古谷くん。プリントと書類が入ったこのファイルを、宮本さんの家まで届けてくれないかな?」
俺は、先生から職員室に呼び出されて、書類が挟まったファイルを手渡された。
俺は海の家に書類を届けた。
そして、海に半ば強引に家に連れ込まれて、いろいろ話をした。
――海なら、共感してくれる気がした。
いざとなったら死ねばいい、という理論を展開した海を表面上は非難しながら、心の中では深く共感していた。
「苦しくなったら死ねばいいから」
それな!!
生きてるだけで金と時間がかかるって、バカげてるよな!?
というか、なんで生きてるのが正義なんだよ!
人はいずれ死ぬんだから、死について話したって、考えたっていいだろ!
なんでみんな、死ぬことをタブー視するんだよ!?
死ぬことについて話してくれるのは、海しかいないよ!
「私の人生の主人公は私なんだから、自己中心のマインドで生きるべきだよね」
マジでその通りだと思う!
俺の人生なんだから、俺の思う通りに生きて何が悪い!?
交差点で踊ったりしたっていいじゃん!
たまには学校サボったっていいじゃん!
「みんな頑張り過ぎなんだよ。全部投げ捨てて、私みたいに自由になればいいのに」
俺も、海みたいに自由になりたいと強く思った。
未来を捨ててもいい。
【マジメくん】じゃなくてもいい。
ただ、確かにある今を、全力で楽しみたかった。
海は、みんなが声に出さないことを堂々と言ってくれる。
海が引き出してくれた共感が、海と俺を繋ぎとめてくれたのかもしれない。
海の考えに、心のどこかで惹かれていたから、海のことが好きになってしまったのかもしれない。
♦
「何が起こるかも、そもそもあるかどうかも分からない未来よりも、確かにある今を大切にしたいです」
担任の先生との二者面談のとき、先生にそう伝えた。
俺の成績は、めっちゃ落ちた。
赤点ギリギリだ。
けれど、後悔はない。
すべては、海と遊ぶため、海と仲良くなるため、海と【今】を全力で楽しむためだ!
「海、また来たよ」
そして今日も、俺は学校をサボって海の家に遊びに行った。
「学校おサボりして、遊んでばっかで、私たち、共犯だね」
そう言って、海は笑ってくれた。
海の太陽みたいな笑顔につられて、俺も笑顔になった。




