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花車とひまわり

管理室に戻ると、一緒に日雇いのアルバイトをしているインド人が大きな目を見開いて私をじっと見つめていた。


まるで何か言いたげな様子だった。


いや、どうせ見るなら軽く会釈くらいしてもいいじゃないかと思った。


それに、言いたいことがあるなら言えばいいのに、何を言うべきか迷っているように見つめてくるのがちょっと癪だった。


そんなことを思いながら素っ気なく見返すと、彼はずっと私を見つめたまま通り過ぎていった。


何だよ、と言いたかったが、赤ちゃんがいたので我慢した。


すると、後ろからクスクスと笑う声が聞こえてきた。


「お前が仕事を早く片づけるから、俺があいつにもう帰っていいって言ったんだ。」


やっとのことで出そうになったため息を押し殺した。


家に行ったり来たりして、わざとゆっくりやっていたつもりだったが、基本的にのろい人間には敵わないらしい。


そして、あの太った白人のおじさんは、自分が移民たちに・・・もちろん私は書類上では移民ではなかったが……。


とにかく、自分が与える仕事で有色人種同士が争うのが可笑しくて仕方なかったのだろう。


彼は恩着せがましくこう言った。


「まあ一人でやれば、働く時間も増えるだろ? そうすればオムツ代くらいは稼げるんじゃないか?」


私はサインをもらった明細書を差し出し、2時間分の時給を受け取った。


本当に、30ドル稼ぐのも一苦労だ。


それでも、ここに1時間ほど上乗せして、1日3時間、週5日働けば月に1,000ドル稼げる。


インド人の彼がいなくなったから、少なくとも1時間は増えるだろう。


そんなことを考えていると、トニーが思いがけない提案をしてきた。


「なあ、来週だけフルタイムで働けないか? 500ドル出すよ。」


私は素早く計算した。


フルタイムなら9時から5時、昼休みを除けば1日7時間。


「35時間なら、500ドルじゃなくて525ドルですよ。」


「お前、細かいな。今日みたいにちょこまか動き回らず、25ドル分くらい適当に休めばいいだろ。子どもを連れて上がってオムツでも替えてさ。」


私は少し腕を組んで彼を見た。


実際、すぐに500ドルが入るのはとてもありがたいことだった。


ベビーカーや木材、工具などを買うのに予想外の出費が多かったからだ。


さらに、私は今マニトショッピングを通じて500ドルの生活費で1,000ドル分の物を購入することができた。


とにかく生活を整える立場としては、マニトアプリを使ってお金を使うほど得だった。


私はトニーと、彼の汚れた事務所、そして今日何度も出入りしたゴミと物が混ざった乱雑な備品室を思い出し、堂々と交渉を始めた。


「昼休み込みで40時間分として600ドルください。前払いで。」


トニーは「こいつ正気か?」という目つきで私を見た。


彼は来週の間私に仕事を任せて、どこかで一発当てるつもりなのは明らかだった。


手にしていた競馬雑誌には、サンタ帽をかぶった馬が走っていたから、どこかでクリスマスイベントでもあるのだろう。


20年選手の管理人であるトニーは、ホリデーシーズンになるとオフィスの人たちも休みに入るので、管理室に気を使わなくなるのを知っており、堂々とサボるつもりだった。


週に数回、1日2〜3時間ほどのパート代はオフィスに請求するだろうが、こうしてまるごと抜ける分は報告せず、自分の時給から払うことになるから悩むだろう。


もちろん、表には出さず、少し訴えるように、彼が聞きたがるであろう話をした。


「来週はクリスマス前の週じゃないですか。赤ちゃんに何かしてあげたくて。昼休みの間に備品室とこの事務所も全部整理しておきますよ。私ほど整理整頓が得意な人はいないって知ってるでしょ?」


そしてこの言葉が効いた。


すでにギャンブル場へ逃げてしまったのか、今日一度も姿を見せないもう一人の管理人アンディも、トニーも、とにかくだらけた人たちだった。


二人はいつも備品室の整理を後回しにして、上から監査が来ると聞いて初めて慌てて掃除をするタイプだった。


「どうせ払うお金だし、どうせやる掃除だし、先に済ませておくと思ってください。1週間しっかり休んで戻ってくれば、溜まっていた仕事も終わってるし、掃除もきれいに終わってるので、何の心配もいりませんよ。」


トニーはとても乗り気な表情を隠そうとしたが、失敗した。


彼はしばらく考えるふりをした後、しぶしぶといった表情で、引き出しから札束を取り出した。


そこそこパンパンになった財布とともに、にこにこしながら家に戻ると、玄関前には見ただけでも重そうな宅配便が届いていた。


木材が届いたんだ!


急いで中に運び、ワクワクしながら箱を開けた。


きれいなウォールナットの木が姿を現した。


「わぁ……?」


光沢のある木を木目に沿って撫でると、その感触がとても良かった。


ウォールナットは木質が硬く、湿気にも強いため、高級家具に使われる木材だという。


普通、木工初心者や趣味でやる人は、自分の技術とコスパを考えて、安いMDFや合板を多く使うものだ。


そして、完全な初心者の私も安い素材を使うべきだった。


でも、赤ちゃんのための家具だから、少し高くても良い木材を注文したかった。


見れば見るほど、ウォールナットの柔らかくて温かみのある色が気に入った。


もし大きな家具だったら、もう少し明るい色の木の方が良かったかもしれないが、将来的に子どもが大きくなったらインテリアとしても使える収納家具になるかもしれないと思って、少し濃い色味を選んだ。


「さあ、始めよう。どうかうまくいきますように……。」


***


数時間働いて溜まった疲れはすでに吹き飛んでいた。


並べてある新品の工具たちを見ていると、得体の知れない自信が湧いてきた。


業者が注文サイズに合わせた引き出しの組み立て順序を添付してくれていたので、最初は簡単だった。


まずはベビーベッドと車輪の間の中心になる引き出しを作ることにした。


「外側の箱から始めようか。」


外に見える引き出しの外箱となる木材に、木ネジを水平に合わせて打ち込み、箱の内側の両側面には引き出しのスライド用レールを取り付けた。


外箱の中に入る内引き出しも、順に各面を繋げ、レールの位置が外箱のレールとズレないよう注意しながら作業を進めた。


引き出しを開けても完全には抜け落ちないようにする固定枠を、内引き出しの後ろ下部と外箱の前下部にそれぞれ作れば、基本の引き出しは完成。


インターネットで調べてみると、取っ手の取り付け方もいろいろあった。


引き出しの前面に穴を開けて指で引っ張る最も簡単な方法もあるが、クラシックに取っ手を付ける方法で仕上げた。


四角い木の板をつなげて作る、一見簡単そうな作業だが、他の人のブログを見ると最初はいろいろ失敗もするらしい。


私はそれなりに見栄えのする引き出しを満足げにあちこち回して眺めた。


しばらく完成した引き出しを誇らしげに眺めた後、片側にきちんと片づけておいた。


引き出しの場合、ほとんどDIYキットを購入したのと変わらず、難易度が高いとは言えなかったが、それでも出だしが良かったので自信がつき、そのまま次へと進んだ。


今度は引き出しの上に置くベッドを作る番だった。


まず、赤ちゃんが落ちないようにマットレス全体を囲むガードを作ってしっかり固定した。


フェンスのような形をしたガードは、一本一本すべて上下のフレーム材に固定してビスを打ち込まなければならず、単純で反復的な作業がなぜか頭をスッキリさせてくれるようだった。


何かを手で作る趣味を持つ人たちは、この瞑想のような集中状態に中毒になるのかもしれない。


フェンスを作った後には、ベッドをトロリーのように押せる取っ手も取り付けた。


新しく購入した工具セットに入っていた電動ドリルは比較的安価なブランドだったが、ブレることなくしっかりとネジを固定してくれた。


「……本当にポイントで買って実力が上がったのか。」


そんな言葉が思わず出てしまうほど、四面が完璧に対称で水平に仕上がったのが、とても誇らしかった。


どれだけ簡単な組み立てでも、この一連の工程が自分でも驚くほどスムーズに進んだ。


睡眠不足と2時間の労働、そしてこの作業まで加わって、さすがに腰が少し痛んできたが、確かに楽しかった。


もしかして自分には木工の才能があるんじゃないかという、くだらない考えを浮かべながら、完成した天板と引き出しを裏返してキャスターを取り付けた。


既製品として届いたキャスターと、サイズを合わせて注文した接続棒を組み合わせ、引き出しの底板に取り付ける作業はとても簡単だった。


既製品から少し外れたデザインのため、最初の設計は難しかったが、きれいにカットされてサンディングまで仕上げられた木材を注文して組み立てるのは思ったより難しくなかった。


むしろ遊びのようだった。


普段あまり何かをしていないせいかもしれないが、とても楽しかった。


とにかく初めてやる作業としては思ったより混乱もなく、短時間で組み立てを終えることができた。


赤ちゃんは平均して一度寝ると3〜4時間は寝るので、できれば起きる前に終わらせたかったが、本当にちょうど3時間で終えることができた。


軽すぎず安定した重さと、しっかりとした仕上がり、そしてスムーズに動くキャスター。


赤ちゃんの手が触れる部分は最後にもう一度丁寧にヤスリがけをして仕上げのサンディング処理を施し、バーニッシュを塗ってからそのまま一日しっかり乾燥させた。


翌日。


「わあ、これすごくいいじゃん?」


完成したベビーベッドは、スケッチよりも、頭の中で描いていたものよりも、実物の方がはるかに可愛かった。


本当に花束をいっぱい詰め込んでも全く不自然に見えないほどきれいに見えた。


バーニッシュが完全に乾いたのを確認してから、乾いた布で丁寧にもう一度拭き、最後の仕上げとしてラテックスマットレスを入れた。


わあ、完璧すぎるじゃないか。


どうしてもこぼれてしまう、ちょっと間抜けな笑みを浮かべながら、ベビーベッドを何度も見つめた。


「さあ、赤ちゃん、入ってみよう。」


ついにソファベッドから脱出する時だぞ、息子よ!


ルカをベッドに寝かせる前に、まず子どもにベッドを見せてあげた。


「これからここで寝るんだよ。どう?」


私の言葉が終わると、ルカがにっこりと笑った。


うちの赤ちゃん、もうパパの言葉が全部わかるのかな!


もちろんそんなわけはないけれど、自分のベッドだと分かっているかのようにニコニコ笑うルカが、たまらなく可愛く見えた。


ルカをベッドに寝かせると、なぜか感動してしまった。


1週間近くソファベッドで不便に寝かせていたのが申し訳なくなった。


……いや、違うか? 窮屈に体を丸めて寝ていたのは私だけだったのか?


とにかく、少し前まで殺風景だったグレーの空間に、色が宿った。


濃いウォールナット色のベッドと、その中にある金色の髪をした命を見て、胸が熱くなった。


ルカの出生届には、初冬に生まれたと書かれていたが、広い夏の空と、今まさに昇り始めた太陽のような子だった。


まるで花車の中にひまわりが一輪、にこにこと笑っているかのようだった。



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