輝く金色
「うわああん!」
「……うん、大丈夫、大丈夫。」
私はなかなか開かない目を無理にこじ開けて赤ちゃんを抱き上げた。
二、三時間ごとに起きてルカのミルクを用意していると、いつの間にか朝になっていた。
哺乳瓶をくわえさせたままうとうとしていると、小さくて温かいルカの手が私の手にそっと触れた。
閉じていた目をぱっと開くと、赤ちゃんの大きな瞳がこちらを見つめていた。
「うん、パパはここにいるよ。」
哺乳瓶を飲み干す前にまたうとうとしてしまう様子が愛らしい。
ルカを再びベッドに寝かせ、私は伸びをした。
赤ちゃんが寝ている間に急いで食事とシャワー、そして家事を済ませなければならなかったから。
静かに、でも手早く用事を済ませていると、玄関でノックの音がした。
「どなたですか?」
返事がなかったので宅配かなと思ってドアを開けてみると、やはり荷物が届いていた。
荷物は、昨日ポイントで注文した工具セットだった。
ポイントで購入した商品がすぐに届くのは確かに早い。
まだ木材が届いていなかったので今すぐ使う場面はなかったが、久しぶりに何かを新しく買ったからか、満足感があった。
各種ドライバービット、ハンマー、ペンチ、スパナ、木工用ノコギリ、メジャー、懐中電灯、レンチ、ナイフ、ハサミなどなど。
ピカピカの工具を一つずつ取り出して触ってみるのが楽しかった。
「……」
しばらく工具をいじっていたが、だんだん自分が恥ずかしくなって、つい苦笑してしまった。
道具を手にしたとき、何か神秘的な感覚でも味わえるかと少しだけ期待していたのに。
「職人の熟練度」というのは、やはり良い道具を買えばその価値があるという意味だったのだろう。
確かに「道具に頼る力」というのも、ないとは言い切れない。
早く木材が届かないかと思いながら、新しく手に入れた工具たちを、今まで一度も使ったことのない空き部屋に丁寧にしまっておいた。
そうしてまた二日が経った。
どうやら注文製作だったせいか、木材の到着には時間がかかっているようだった。
だが、赤ちゃん用のベビーカーはすでに届いていた。
赤ちゃんと向き合って乗せられるタイプで、カバーを閉じると外気を遮断できるベビーカーだった。
「どう? 快適?」
ふわふわの小さなブランケットをもう一枚敷いてルカを寝かせると、ルカはまるで自分の新しい乗り物を確かめるように、頭をちょこちょこ動かした。
かわいい。
薄暗いアパートの中でも日がよく差す場所までベビーカーを押していって写真を撮っていると、メッセージの通知音が鳴った。
送り主は管理人の一人、トニーだった。
― 今日の四時から六時、空いてる?
時間を確認すると、もうすぐ二時になろうとしていた。
随分と急な連絡だな。
それでもちょうどベビーカーが届いたところだったし、比較的早く仕事が決まったことに感謝して、すぐに「可能です」と返信した。
ベビーカーを押して管理室に着くと、トニーは挨拶もなく顎でベビーカーを指しながらぶっきらぼうに聞いた。
「それ、なんだ。」
何って……本当に知らなくて聞いてるのか?
「メッセージでも言いましたが、うちの子です。お腹が空いてなければあまり泣かずおとなしいので、仕事に支障は出ないと思います。」
トニーは鼻で笑った。
「それでしばらく姿見せなかったわけか。」
今まで来なかった理由は、最低な作業環境のせいだったが、わざわざ言い直す気にはなれなかった。
この辺の人間とは、話せば話すほど気分が悪くなるだけだったから。
だが、トニーは簡単には嫌味をやめなかった。
「子どもができたから、金が必要になったってか?」
「はあ……」
「子ども産む前に考えて、もっと貯めとけばよかったのにな。」
「そうですね。」
「母親は逃げたのか?」
今回は返事をせずに、じっと彼を見つめた。
答える価値も、反論する理由もない質問だったから。
とくに、自分にとって無意味な人間にエネルギーを使う気もなかった。
「ふん。」
無表情で立っていると、つまらなくなったのか、トニーはクリップボードから修理指示書を二枚抜いて渡してきた。
「3棟103号室の玄関センサーライトを取り替えてくれ、201号室は網戸を交換しろってさ。網戸は廊下の壁に立てかけてあるから、小部屋の窓にあるやつと取り替えればいい。予備のセンサーライトと工具は備品室にあるの、知ってるだろ?」
よりによって3棟103号室とは。
あの家には、このアパートが建った当初から住んでいそうな、二人の高齢の女性が住んでいたが、彼女たちは骨の髄まで人種差別主義者だった。
だが私は特に何も言わず、指示書を受け取って備品室に行き、必要な物をそろえた。
予備のセンサーライトと折りたたみ式の脚立、ドライバーが数本入った工具バッグを持って、指定されたアパートへと向かった。
一瞬、自分の工具を持ってくればよかったかなとも思った。
ベビーカーのカバーをしっかり閉め、脇には脚立を抱え、団地を横切っていった。
3棟103号室の前に立ち、深呼吸をしてからノックをした。
トントン。
ドアの向こうから何かが動く音がしたが、ドアは開かなかった。
返事もなかった。
ため息が出そうになるのを堪え、もう一度ドアをノックした。
トントン、トントン。
やはり沈黙のままだ。私はわざと隣の家にも聞こえるように声を張った。
「センサーライトを交換しに来ました。今やらないと明日は週末なので来週に持ち越しになります。」
そのときになってようやく中からぶつぶつ言う声とともにドアが開いた。
私を見て何か言おうとしていたおばあさんが、ベビーカーを横目で見ながら言った。
「仕事に赤ちゃんを連れてくるなんて、どういうこと?」
私は玄関のドアストッパーを下ろしながら簡潔に答えた。
「玄関のセンサーライトだけ交換するので、赤ちゃんは家に入れません。」
「じゃあ、この寒いのに玄関のドアを開けっぱなしにしろってこと?」
「どうせ私が来ると臭いって、毎回玄関開けてたじゃないですか。」
これには言い返す言葉もないのか、おばあさんは口を閉じた。
「違う」と言ってしまえば、私が臭くないってことになってしまうから気に入らなかったのだろう。
私はさっと中に入り、脚立を広げてライトに手を伸ばした。
「3分で終わります。少々お待ちください。」
錆びついたように固いネジを外し、古いセンサーライトを交換するのは本当にあっという間だった。
作業が終わって署名をもらおうとメモ帳を差し出したとき、ルカがぐずり始めた。
急いで作業用の手袋を外して後ろポケットに突っ込み、カバーを開けた。
「うん、パパここにいるよ。泣かないで。」
顔を近づけて目を合わせると、幸いルカはぐずるのをやめ、少し笑いながら手足をバタつかせた。
もし不快で激しく泣き出したらどうしようかと思っていたが、助かった。
ただ、その後ろで聞こえてきたおばあさん二人の会話にはあきれた。
「最近は東洋人でも白人を産むのねぇ?」
「そんなわけないでしょ。どうせ補助金目当てで里親してるのよ。」
「じゃあ警察を呼ばなきゃいけないんじゃない?」
いったいどんな思考を持っていれば、ここで警察を呼ぶべきだなんて話になるのか理解できない。
ただ、何でもいいから言いがかりをつけたいだけなのだろう。
感謝の一言も期待していなかったが、本当に人の気分を悪くさせるのが得意な人たちだった。
意地の悪い人たち。
腹の底が煮えくり返りそうだったが、私は表情を整えて振り返り、彼女たちに手を差し出した。
「署名したなら、明細書をください。」
署名したおばあさんは、ひどく不満そうな顔で私に紙を渡し、私はそれを受け取るとすぐに脚立を片付けてその場を去った。
エレベーターに乗って2階へ上がり、201号室の前で網戸を叩いていた子どもたちを追い払い、ノックをした。
この家にはパキスタン人の家族が住んでいる。
「赤ちゃん?」
その夫婦も挨拶は省略し、ベビーカーを指さしたが、事情を話すとただ頷いて問題なく私たちを中に入れてくれた。
網戸の交換にかかった時間は5分ほど。
古い網戸を廊下の倉庫にしまい、修理明細書に署名をもらって出てくると、その家の夫が「奥さんは逃げたのか」と聞いてきた。
私は軽く首を横に振って答え、それで家を出た。
このあたりでは、このくらいの反応なら上品な方だった。
トニーのところに戻り、さらに数枚の修理明細書を受け取り、足早に移動を始めた。
2棟101号室に行って蛇口を交換し、その隣の家ではトイレの換気扇を取り外して新しいものに付け替える作業を終えた。
103号室のおばあさんたちのように文句を言いたそうな人がいれば、適当に無視した。
幸いなことに、ほとんどの人は赤ちゃんがいるのを見てまで、ひどいことを言おうとはしなかった。
久々の労働で、時間が経つにつれて肩と腰がだんだん痛くなってきた。
作業も作業だが、必要があれば脚立を脇に抱えてベビーカーを押して棟と棟の間を動き回っていたのだから、それも当然だった。
今日は特に仕事が多いと感じた。たぶんトニーとアンディのあの二人が、寒くなったからといって仕事を後回しにしていたに違いない。
住民には「忙しい」と言って、仕事をどんどん後回しにしてきたのだろう。
「はあ……」
自然とため息が漏れたが、実のところ彼らが怠けていたからこそ、私に仕事が回ってきたのだと考えれば、あまり文句を言うことでもなかった。
それでも、彼らが固定給を受け取っているという事実には少し腹が立ったけれど。
ただ、いくら早く作業を終えてもお金が増えるわけではないので、仕事自体は早く終わらせつつ、合間に家へ戻って赤ちゃんの様子を見てミルクをあげ、おむつを替えてやった。
最後に管理室へ戻る前に、重くなった身体と心を覚ますために冷水で顔を洗った。
ポタポタと滴る水を拭きながら鏡を見ると、気にしないようにしても、この余裕のない町の空気に知らず知らずのうちに表情が硬くなっているのがわかった。
そうだ、元々この町での私の日常はこんなものだった。
住民の中に、マリアのように心から温かい目でベビーカーを見てくれる人なんていなかった。
皆、生活が苦しくて余裕がないのだろう。
毛布でしっかり包んでカバーもしていたけれど、もしかしてルカにその空気が伝わってしまったのではないかと心配になった。
そんな私の気持ちを読み取ったのか、ルカが近づくと喃語を発した。
「うん……あ……!」
私は近づいて目を合わせ、ルカの喃語に応えてあげた。
「うん、そうだね。うちの子、えらいね。泣きもしないで。」
「……!」
私は笑った。赤ちゃんがまだ言葉を理解できるわけもないのに、まるで私の言葉に答えてくれているかのようだった。
この灰色の町で、唯一金色に輝く赤ちゃんの頬をそっと撫でた。
その温かなぬくもりに、疲れが癒え、力が湧いてくる気がした。
パパが早くお金を稼いで、もっといい家に一緒に引っ越そうね。