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青い目の夫婦

いつもより心がせわしない月曜日の朝。


「う……!」


「うん、居心地悪いよね。」


ぐずる赤ん坊をあやしながら、せっせと外出の準備をした。


赤ん坊を抱いて通勤バスに乗るつもりはなかったので、電話で先輩に事情を説明し、10時を過ぎてから家を出てバスに乗った。


……本当はルカのような赤ん坊は免疫力が弱いから、こうして連れ回してはいけないはずなのに。


こんな寒い冬の日に、あちこち連れまわしてごめんね。


幸いにも、赤ん坊は揺れるバスの中でも泣かずにすやすや眠った。


11時を過ぎてオフィスに足を踏み入れた。


課長はまるで私を見たら一言言おうと待ち構えていたようだったが、私が抱っこひもでルカと一緒に堂々と現れると、何も言えないようだった。


「……それで、どのくらい休む予定なんですか?」


「とりあえず最大の3ヶ月を申請したいです。可能でしょうか? もし早く養子が決まれば、すぐに復帰します。」


ようやく納得したような課長を後ろにして、自分の机を簡単に片付け、チームに自分の担当業務を振り分けた。


急に仕事が増えたにもかかわらず、ありがたい同僚たちは文句ひとつ言わなかった。


ただ、ルカに大きな関心を示した。


「まあ、なんてかわいいの。」


社員たちが三々五々集まってきた。


眠りから覚めたルカは大きな目をぱちぱちさせながら人々を見つめ、あくびを何度も繰り返した。


「赤ちゃん、数日の間にもっとかわいくなった気がします。」


マリアが笑いながら言った。


あまり長くいられなかったので、マリアにもう一度お礼を言って、オフィスを後にした。


そして一度も行ったことのなかったアプリ開発チームを訪ねた。


開発チームは私たちの部署とはフロアが違っていた。


私たちは5階、開発チームは3階。


3階に到着してオフィスの前でうろうろしていたら、ちょうど通りかかった社員をつかまえてショッピングアプリについて尋ねることができた。


どう説明したらいいか迷い、無難な質問をした。


「以前配布されたベータテストアプリって、正式サービスに入ったんですか?」


「え? いいえ、正式リリースは春に予定されています。」


社員は私と赤ん坊を交互に見ながら答えた。


配達員のときのように、職場でも変な人扱いされたくなかったので、できるだけ怪しまれないように言葉を選びながら状況を説明した。


ただ、「実は週末にアプリで商品を購入し、購入した金額分のポイントも付与されて、そのポイントでディナーを楽しんだ」という内容は、自分で言いながらもかなり怪しくて信じがたかったが、


幸いにも不幸にも、その話を聞いていた社員は笑いながら手を振った。


「育児で疲れてて、別のアプリと勘違いされたんでしょう。アプリを正式リリースするには思ったより複雑なので、誤って注文されることはありえませんよ。」


……口調と表情を見るに、私をPCオンチか機械音痴だと思ったのは間違いない。


「それでは、ちょっとこれ見ていただけますか? 私、こういうの苦手で……」


私は慌てて話しながらアプリを見せようとスマートフォンを取り出した。


ところが、ホーム画面にあったアプリが跡形もなく消えていた。


「あれ、ちょっと待ってください。これ……」


これ、なんだろう? 本当に私の勘違いだったのか? 2時間ごとに起きて寝不足で幻を見たのか?


私が呆然とつぶやくと、その会話を聞いていた別の開発チームのメンバーがくすっと笑いながら言った。


「いや、それが本当だったらどれだけいいか。使った分だけポイントもらえるなら、何を買ってもワンプラスワンでしょ? 俺だったら一生誰にも知らせずに使うね。」


その言葉とともに、抱っこひもの中のルカに向かって「いないいないばあ!」と声をかける社員。


その社員を見つめるルカの表情はあまりよくなかった。


「うわああああん!」


ルカが突然泣き始めた。


「おい、お前のツラを見せたから赤ん坊が泣いたんだぞ!」


「え、俺の顔のどこがダメなんだよ!」


そんなふうに場が曖昧に流れていき、赤ん坊が泣いている状態でオフィスに居続けるわけにもいかず、失礼しますと告げて開発チームのフロアを後にした。


あまりにも慌ただしくて、一瞬自分でも混乱するほどだった。


本当に私の勘違いだったのだろうか? そんなはずないのに。


でも、作った人たちは否定し、ホーム画面からもアプリは消えていた。


とりあえず泣く赤ん坊を連れて外に出てタクシーを拾った。


帰りもバスに乗りたかったけれど、赤ちゃんがずっと泣いても困るので……。


ところが、タクシーに乗るとルカはぴたりと泣き止んだ。


「……バスが嫌だったの?」


ルカはまるで答えるように目をぱちぱちさせた。


そして数回まばたきをした後、すーっと眠りに落ちた。


家に戻ると午後3時だった。


平日のこの時間に家にいるのは初めてだったけれど、悪くなかった。


私は遅い昼食として、昨日冷蔵庫に入れておいた簡単なサンドイッチを取り出して食べた。


そしてもう一度スマホの画面を見た。


どうしても信じられなくて、帰り道ずっとスマホを確認していたけれど、アプリは戻ってこなかった。


ただし、銀行に直接行って確認したところ、昨日引き落とされた金額は、私が注文した金額とぴったり一致していた。


商品は配送中だった。


……それなら、このサンドイッチは一体どこから来たっていうの?


サンドイッチを食べながら考え込んでいると、バイブレーションにしておいたスマホが鳴った。


知らない番号。


もしかして赤ちゃんが起きるかと思い、使っていない空き部屋へ慌てて走って行き、電話に出た。


「もしもし?」


「はい、ジュンさんでいらっしゃいますね? ルカ・アンジェルスの保護者の方ですよね。」


子どもの一時保護や養子縁組を担当する施設からの電話だった。


もしかして私の書類を偽造した……。


何となく院長シスターの“ファミリー”と接触したような気がして、なぜか緊張していたが、続く通話内容に一瞬呆然となった。


「ルカに一度会ってみたいという若いご夫婦から連絡がありました。できるだけ早く会いたいそうなのですが、明日お時間いただけますか?」


肯定の返事をし、時間と場所を確認した後、電話を切った。


「……」


養護施設の工事が終わるまでに養子縁組の問い合わせが一件でも来たら幸運だと思っていたのに、こんなに早く連絡が来るなんて思わなかった。


育児休暇も3ヶ月出したのに!


まあ、オフィスにもう一度相談すれば大丈夫だけれど……。


一緒に過ごしたのはほんの数日なのに、寂しさで胸にぽっかり穴が空いたようだった。


赤ちゃんと別れることを考えるだけで、もう心がぽっかりと空いてしまった。


電話を切って部屋を出ると、すでに赤ちゃん用品でいっぱいになっているリビングとキッチンが、さらに心を切なくさせた。


食べかけのサンドイッチをテーブルに押しやり、眠っている子どもの小さな手に自分の指をそっと乗せると、夢の中でも赤ちゃんはその指をぎゅっと握った。


「……もう行っちゃうの。」


もう少し一緒にいられると思っていたのに。


***


冷たく澄んだ空気に、クリスマスの灯りがいっそうきらきらと輝いていた。


まだ雪は舞っていなかったけれど、かなり冷たく厳しい風が吹いていて、胸の中の赤ちゃんをさらにぎゅっと抱きしめて歩いた。


気づかないうちに緊張していたのだろうか。妙に落ち着かない気分だった。


そんなこと考えちゃだめだ。赤ちゃんが一緒に過ごせる両親と出会えるのは、素晴らしいことだ。


子どもを養子に迎える手続き自体、簡単ではないと聞いている。


だから、養子に迎えられない子どもたちが溢れているのではないだろうか。捨てるのは簡単なのに、養子縁組は難しいなんて。


ともかく。


あの人たちは、きっと良い人たちなのだろう。


子どもの成長に必要な、十分な資金と安定した環境、準備された愛を持って、子どもを待ってくれているのだ。


晴れやかな気持ちで送り出すのが、自分にできる最善なのだろう。


気を引き締めてセンターに到着すると、角ばった眼鏡をかけた、てきぱきした印象の職員が私たちを迎えた。


身元を確認して、養子を希望する両親に会う前の手続きを説明してくれる職員の、事務的で清潔感のある態度に安心感を覚えた。


10分ほど待っただろうか、小綺麗で裕福そうな装いの夫婦が入ってきた。


簡単な挨拶を交わしたあと、私は彼らにルカを抱いてもらえるように渡した。


けれど、その夫婦の様子がどこかおかしかった。


普通なら赤ちゃんと目を合わせて、愛おしそうに見つめるのではないか?


ところが彼らは赤ちゃんを受け取ったあと、抱きしめるのではなく、テーブルの上に寝かせてあちこちを観察し始めた。


まるで品質検査をするかのように。そして本当に、赤ちゃんの見た目を評価し始めた。


「髪の色は気に入ったわ。ちょうどいい色。でも、青い目じゃないのね……。」


女性がぼそりとつぶやいた。


「え?」


あまりに呆れて聞き返すと、今度は男性が答えた。


「私たち二人とも青い目なので、赤ちゃんも青い目だといいなと思いまして。できれば、将来本人が自分が養子だと気づかないでいてほしいんです。」


「ああ……。」


何と言えばいいのか分からず黙っていると、女性がさらに言葉を付け加えた。


「それにやっぱり、女の子のほうがいいかも……。」


「……え?」


またしても聞き返した。いや、目の前に赤ちゃんがいるのに何を言っているんだ?


今度は私の不快感が明らかに表れたのか、男性が慌てて付け加えた。


「実は私たち、金髪で青い目の新生児の女の子を希望しているんですけど、その条件に合う子が意外と少なくて。まあ新生児ということで一度来てみたんですが、どういうわけか顔立ちは教えてもらえないって聞いて……。」


呆れ果てて、思わず立ち上がってしまった。


「赤ちゃんが商品ですか? 形や色を見て選ぶなんて? まるで犬を選ぶみたいに、いや、最近は犬だって買わずに保護しろって言われてますよ!」


我慢できずに言い返すと、女性は呆れたように返した。


「少し出過ぎた真似ですね。一時的にお金をもらって預かっているだけのくせに。」


「……なんですって?」


私がカッとなると、男性が片手を差し出して私と彼の妻の間に割って入った。そして職員を見てこう言った。


「結構です。残念ですが、この子と私たちは合わないようです。」


そう言い残して、彼らは一度も振り返ることなく部屋を出て行った。


彼らと一緒に来た職員がため息をついて、金髪の夫婦のあとを追って部屋を出ていった。


残されたのは、私とルカ、そして眼鏡をかけた職員だけ。


しばらくの間、静寂の中に座っていた。


呆気に取られた。腹が立って、子どもに申し訳なかった。


論理的には私が謝るようなことではなかったが、それでも子どもに申し訳なさすぎた。


私はテーブルの上に物のように置かれていたルカを、そっと抱き上げて、必死に怒りを抑えた。


ルカは穏やかな目でぱちぱちとまばたきをしながら私を見ていた。


「大丈夫ですか?」


「大体、みんなあんな感じなんですか?」


赤ちゃんを抱きながら、やや早口で尋ねた。


赤ちゃんを物のように扱うのが嫌だった。


家具を選ぶように赤ちゃんを選ぶなんて、あってはならないのでは?


「一生責任を持つ子どもを迎えるのだから、選ばないわけにはいかないでしょう? できれば自分たちの希望に合った子どもを迎えたいのは当然ですよ。」


職員は事務的に答えた。間違ってはいなかったが、なんとも言えない苦味が残った。


あんなふうに外見から品定めするような人たちは、信頼できなかった。


仮にルカを養子に迎えたとしても、子どもが自分たちの理想通りに育たなかったら?


頻繁ではないが、養子に出された後に再び縁を切られて保育施設に戻ってくる子どももいるのだ。


……こんな原論的な話をこの職員にしても無駄だということは分かっていたけれど。


その場に立ち尽くしていると、職員が付け加えた。


「でも、私もあの態度は非常識だったと思います。保護者の方にも、赤ちゃんにも。」


「……はい。」


「これからもあの調子なら、こちらとしてもマッチングは難しいですね。厄介な夫婦です。」


そう言った後、職員はチャートに何かを記入し、この面談を終わらせる言葉を口にした。


「とにかく、今回は初回なので電話を差し上げましたが、次からは他の方々から連絡が入ると、SMSが届くようになります。SMSのリンクからアクセスして、訪問可能な日時を入力していただければ、確認後に再度確認のメッセージが届きますので……。」


黙って聞いていたが、ついに我慢できずに尋ねた。論理よりも心が先に口を開いた。


「ここで、養子縁組の説明を受けることはできますか?」


「……え?」


「里親から子どもを養子に迎えるケースもあると聞いたので。」




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