第二話 ヒロイン
おい冗談だろ。 なんか変な力が使えるぞ?
これじゃまるで主人公だ。
俺ににこんな力はいらない。
おいスライム、俺の身体から出ていけ。
するとそこへ女の子の悲鳴が聞こえた。
「離してください! だ、誰か助けてえ!!」
「お嬢ちゃん、いいから俺と遊ぼうぜぇい?」
あれは同じクラスの人気者女子、白鳥琴音じゃないか、、
あーこの流れはひじょーーにまずい。
とりあえずその場から去ろうとしたらチンピラが話しかけてきた。
「なぁに見てんだあ? コラ!」
こっちのセリフだ。
すると白鳥琴音が俺に駆け寄り、俺の後ろに隠れた。
「た、助けてください!」
俺の背中にしがみついたその美少女は震えながら助けを求めている。
え、、なんで俺が助けると思ってんの? この低身長メガネの坊ちゃん刈りにそれが出来るとお思いで?
「俺はこの辺じゃあ名の知れた男! 春夫だ!」
聞いてねえよ春夫、勝手にストーリーを進めるな。
「これはこれはご丁寧に、僕は山田太郎といいます、これからピアノのレッスンがあるので失礼します、では」
「待てやコラ! そんなふざけた名前があってたまるか!」
全国の山田太郎さんに謝れ。
「てめえ、気に入らねえなあ、大人しく死んでろや!」
春夫が殴りかかってきた、俺は直立不動のまま、自己防衛本能からか身体が岩のように固まってしまった。
そう、岩のように。
「ぐわあああああ! 痛ええ!! 痛えよおお!!」
春夫が泣いている、泣きたいのはこっちだぞ春夫。
春夫は拳を庇いながら俺を睨みつけ捨てゼリフを吐いた。
「お、覚えてやがれい!」
あっ、春夫がどっか行った。
春夫が何処かへ行くと、白鳥琴音はホッとした様子で俺に話しかけてきた。
「あのっ!ありがとうございます、お強いんですね」
白鳥琴音は頬を赤らめ潤んだ瞳で俺を見つめている。
「あー、、では僕はこれで」
「あ、あの! せめてお名前を!」
山田太郎が実在しないとでも?
同じクラスなんだが?
「あっ!あとお礼もしたいので連絡先を、、」
「いえ、急いでますんで僕はこれで」
俺は全力で走った、風のように
そう、風のように
空気摩擦で学ランが焦げ臭い。
「もう見えない、なんて素早いの、、まだドキドキしてる、、」
そう言うと白鳥琴音は真っ赤な顔をして左手を自身の胸に当てた。
俺は全速力で家に帰り、自室に入ってドアの前でさっきの光景を頭の中で反芻した。
ハッとして、ドタバタと洗面所へ走り、鏡の前に立った。
「よかったなんともない、変わった所は無さそうだ」
ホッとしたのもつかの間、俺は、ある重大な事に気がつく。
「主人公をしてしまった!!」