朝霧の寺へ
翌朝、雨が止み、辺りには土の生臭い匂いが漂っていた。苦輪町は朝の光に照らされて、ますます荒れ果てた姿を見せていた。青瓦と灰色の壁の家々は低く密集し、通りには人影がほとんどなく、痩せこけた野犬がゴミの山のそばで低く唸りながらうろついているだけだった。林覚はコートをしっかりと羽織り、町民に教えられた細い道をたどって輪廻寺へ向かった。
輪廻寺は町の北、麓の山裾に佇み、遠くから見ると古風な軒が朝靄の中にぼんやりと浮かび、まるで薄い紗に包まれたかのようだった。寺の周囲には鬱蒼とした竹林が広がり、風が吹くたびに竹の葉がざわめき、何か知られざる秘密を囁いているようだった。林覚が石段を踏みしめると、昨夜の赤子の泣き声が耳元に蘇り、この場所の異様な雰囲気を一層強く感じさせた。
寺の門にたどり着いた瞬間、林覚は思わず立ち止まった。門は固く閉ざされ、門前には古びた竹籠が置かれていた。籠の中には厚い布が敷かれ、赤子の小さな顔がわずかに覗いている。赤子は深く眠っていて、ピンク色の頬には涙の跡が残り、泣き疲れて眠りについたことが窺えた。林覚はしゃがみ込み、そっと布をめくると、そこには一枚の黄ばんだ紙が挟まっていた。毛筆で歪に書かれた四文字が目に入る。「生は即ち苦なり」。
「生は即ち苦なり……?」林覚は眉をひそめ、得体の知れない不安が胸に広がった。この紙は明らかに意図的に置かれたものだ。警告のようでもあり、何かのメッセージのようでもある。彼は周囲を見回したが、寺の門は依然として閉ざされ、辺りは鳥のさえずりさえ聞こえないほど静まり返っていた。直感が告げていた。この赤子の出現は決して偶然ではない。
その時、寺の裏山の方から騒がしい声が響き、町民数人が山を駆け下りてきた。顔には恐怖が色濃く浮かんでいる。中年の男が林覚を見つけ、まるで救いの手を求めるように息を切らして叫んだ。「あんた、外から来た人だろ? 早く警察呼んでくれ! 裏山……裏山で死体が見つかったんだ!」
「死体?」林覚の心臓が跳ねた。赤子の泣き声、「生即是苦」と書かれた紙、そして今度は死体。この一連の出来事が、何か恐ろしい秘密を指し示している気がした。彼は町民を落ち着かせ、詳しく話を聞いた。中年の男は汗を拭い、震える声で語った。「今朝、薬草採りに山へ行ったら、半ば埋められた死体を見つけて……掘り出してみたら、もう腐ってて顔も分からねぇ状態だったんだ!」
林覚は冷静さを取り戻し、「警察には連絡したか?」と尋ねた。男は頷き、「もう町に知らせに行った奴がいるけど、こんな辺鄙な場所じゃ、警察が来るのは午後になるだろうな。」林覚はしばし考え込み、現場を見に行くことにした。推理小説家として、彼は事件に対する嗅覚が鋭い。この死体は新作のきっかけになるかもしれない。