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久しぶりの国王陛下と王妃殿下


 ヴィルから陛下の言伝を聞き、翌日すぐに王宮へと向かう事になった。


 ドルレアン国の建国祭まで20日間もないという事もあって、スケジュール的にあまりのんびりしていられないのよね。



 馬車に揺られて王宮へ向かう道中、私はドルレアン国に行くに当たって、陛下にお願いしなければならない事があると考えていた。



 それはソフィアの事だ。


 王都での生活、とりわけ公爵家での生活に慣れてきたとは言え、彼女はまだ夜に一人で眠る事が出来ない。



 5歳だもの、早く離れて寝られるようにとは私も思っていなかったので、何も問題なく毎日一緒に眠っていた。


 私の子供たちだって下の子はまだまだ私と一緒に寝ていたし皆で川の字で寝ていた事もある……でも今回は一日や二日で帰って来られるわけではない。


 正味一週間くらいは滞在する事になると聞き、おそらくマリーやゼフも私やヴィルと共に来るので、そんな中に一人で置いていくのはさすがに出来ないなと思う。

 


 国賓として招かれているので共に連れて行けるかどうか分からないし、陛下に聞いてみよう。


 

 建国祭に一緒に出たいとかではないので、許可してもらえるといいのだけど。


 少しだけ不安な気持ちを抱えながら、馬車は王宮へ到着した。



 そして到着すると、そこにはすでにヴィルが待っていて、馬車を下りようとする私に手を差し伸べてエスコートしてくれる。


 こういう所作の美しさは本当に王子様なんだなってヒシヒシと感じるところね。


 

 動きに無駄がなく、嫌味もなく、日常的に出来ている感じがあるわ。



 そりゃブランカ達がときめいてしまうのも頷けるわね。



 こんなキラキラした王子様と自分が結婚する予定なんて未だに実感がわかないけど、前に感じていた嫌悪感は微塵もないし、自分だけに向けられる表情もさっきまでの私の不安をあっという間に払拭してくれる。



 「殿下、お待たせしてしまったかしら」


 「私が待っていたかったんだ、君が気にする事はないよ。父上と母上は謁見の間ではなく、応接間で待っている。その方が君とゆっくり話せると言って」


 「そう、なの」



 私は王妃殿下もいらっしゃるという言葉をヴィルから聞いて、少し動揺してしまう。


 陛下と会う事ばかり考えていて、王妃殿下の事はすっかり頭から抜け落ちていたわ……あの事件の後、大司教が自殺し、教会が解体となってからの王妃殿下は、それはもう憑き物が落ちたかのように大人しくなったと聞いていた。



 ヴィルとの関係について彼に直接聞く事は出来ずにいるけれど、2人はどのくらい距離が縮まったのかしら。


 王妃殿下は自分の正義に従って生きてきたのでしょうけど、ヴィルは自分を殺そうとしていた母親として長年見ていた。


 

 でも事実は全く違い、自分を殺そうとしていたのは勘違いだったし、むしろヴィルに嫌われてもいいように振舞っていただけだったのだけれど、真実を知った途端「はい、そうですか」と思って仲直り出来るわけではない。



 長年築いてきた母親像を覆す事は簡単ではないし、何より幼少期の一番愛情が欲しかった時にそれを受け取れなかったというのは、ちょっとやそっとで取り返せるものではないと思うのよね。


 

 まだ小さなヴィルは傷ついたままなのだろうか。

 


 王子様の仮面をかぶってスマートにエスコートしてくれる婚約者の横顔をチラリと見ながらそんな事を考えていると、応接間の扉の前に到着していたのだった。


 

 ――コンコン――


 

 「ヴィルヘルムです」


 

 「入りなさい」



 陛下の声が室内から聞こえてきたので扉が衛兵によって開かれると、国王陛下と王妃殿下がソファにゆったりと座って寛いでいた。


 私は夫婦としての2人の日常生活を見たのが初めてだったので、驚いて目を見開いてしまう。



 前よりも距離が縮まったように寄り添って座り、いかにもおしどり夫婦といった雰囲気だった。


 王妃殿下のピリピリしたオーラは影を潜め、表情も穏やかで、相手に圧力をかけるような笑みではない、素の微笑みに変わっていたのだ。



 ヴィルの方を見るととても複雑な表情をしていて、ほんの少し寂し気でもあり、嬉しそうにも見えるような……何とも言えない気持ちになった。



 民の前では王太子としてほとんど表情を崩さないのに、家族を前にするとほんの少し本当の彼の気持ちが垣間見える時がある。


 そんな私の心配をよそに、ヴィルはくだけた話し方で家族の会話をし始める。


 

 「父上、オリビアを連れて参りましたが、クラレンス公爵が若干お怒りの様子でしたよ」


 「ああ、そうだろうな。そなたには面倒な役回りをさせてすまない。ひとまず堅苦しい挨拶は抜きだ。今日は内々の話なので寛いでくれ」

 

 

 陛下と王妃殿下が立ち上がり、反対側のソファに促されたのでヴィルと共に座り、二人と向かい合う。



 「よく来てくれたな、急に呼び出してすまない」


 「陛下の行動はいつも突然ですからね、オリビアも驚いたのでは?」



 私を気遣う国王陛下のお言葉に、王妃殿下が嫌味を込めた言葉を返しながらニヤリと笑っている。


 それに対して陛下は苦笑するのではなく普通に笑っていて、私の気のせいでなければ、どうやら王妃殿下に嫌味を言われるのが好きであるように見えるのだけれど……気のせいではなさそうね。


 

 陛下ってそういう女性が好きなのね?


 

 そしてこれにはどう答えたらいいのかしら……と考えていると、すかさずヴィルが答えてくれた。


 

 「父上からオリビアを連れて来てほしいと言われた時は驚きましたが、どうせ父上の事だからクラレンス公爵を避ける為に、こんな回りくどい事をしたのでしょう?」


 「ははっ、そうだ。フェルナンドはオリビア嬢の事になると頑固で、少しでも怪しい場所には絶対に行かせたがらないからな。許可を取るのも面倒なのでヴィルヘルムに頼む事にしたのだ」


 「まったく……親子揃って、分かっていながら人を振り回すのが悪質だ。オリビアからも文句の1つでも言うがいい」


 「え……その……」



 文句と言われても何に文句を言えばいいのだろう。


 この面子に堂々と文句を言う為には、心臓が100個くらいないと無理なのではないかしら。特に何も嫌な事もないし、ひとまず私は行くつもりだという事を陛下に伝えた。



 「私からは特に何もございませんわ。王太子殿下がご一緒ですし、ぜひ建国祭に出席したいと考えております」


 「そうか!オリビア嬢はフェルナンドとは違って実に柔軟な考えの持ち主だな」



 陛下はとても嬉しそうにニコニコしながら私の手を握り、上下にぶんぶん振っている。


 そんな私達の手をヴィルと王妃殿下がべりっと剥がすように離れさせ、ヴィルと王妃殿下の行動が全く一緒で親子なんだなと感じてしまう。



 「ドルレアン国へは私1人でも良かった気がしますが」



 ヴィルが陛下にそう言い始めたので意外に感じ、2人の顔を交互に見る。


 確かに我が国の建国祭にはレジェク殿下お一人だったし、ヴィルが一人で行っても問題ないと思う。



 レジェク殿下には婚約者がいないからかしら?



 「いや、2人で行った方がいいだろう。彼の国はそなたにとってあまりいい国とは言えない。特に国王であるそなたの伯父がな。それに……」



 陛下が真剣に少し考えているような様子を見せるので、何を言うのかとドキドキしながら皆が固唾を飲んで陛下のお顔を見つめている。



 「新婚旅行というわけではないが、2人で観光してくるのも楽しいだろう?」



 ははっ、と笑いながら言い放つので、私と王妃殿下は呆れ顔になり、ヴィルはなぜだか頬を赤らめているように感じた。

 

 

 「父上の事ですから、どうせドルレアン国内の様子見も兼ねているのでしょう?」


 「よく分かっているではないか。さすがは我が息子だ。彼の国に連れ去られた者も多い……」



 私は陛下の言葉にハッとする。


 司教や司祭が子供たちを連れ去り、人身売買を行っていた取引先の1つがドルレアン国だものね。



 そういう意味でも国内を見てみたい気持ちがどんどん湧いてきた。


 でもその前にソフィアの事をお願いしないといけないわね。



 「陛下、ドルレアン国に行く事はむしろ楽しみなくらいなのですが、1つ心配な事がございまして……」


 「ふむ、遠慮なく言うがいい」


 「はい、私の妹であるソフィアの事です」


 「フェルナンドが養子として引き取った娘の事だな。その子が何か?」


 「彼女はまだ5歳で、夜は毎日私と一緒に眠っているので邸に一人で置いていく事が難しいと思っております。彼女も一緒に連れて行く事は可能でしょうか?」



 真剣に陛下と王妃殿下に頼む私の姿に、ヴィルが私の背中に手を置いて心配しているのが伝わってくる。



 「オリビア、公爵邸の時に言ってくれれば父上に頼んでおいたのに」


 「ごめんなさい、その時はまだ深く考えていなくて。ソフィアと一緒に寝る時にふと思ったの、邸に置いて行くのは出来ないかもしれないって」



 「まぁ連れて行くのは構わないのではないか?」



 陛下は特に問題なさそうに王妃殿下の方に語りかけると、王妃殿下は少し考えている様子を見せ、緊張した面持ちでこちらを見据えてきた。



 「あそこの国での子供の立ち位置は非常に低い。王族と一緒に行くので心配はいらぬとは思うが、連れ歩く時はくれぐれも気を付けるがいい」


 「は、はい!」


 「ヴィルヘルムも……私が言う事ではないかもしれぬが、国王であるそなたの伯父夫婦はあまり良い人間とは言えない。気を付けるのだ」



 王妃殿下の言い方はぶっきらぼうだけど、なんとなく同じ母親だった人間としては心配しているのが伝わってくるわね。



 「……はい、母上。感謝いたします」



 ヴィルの声は王妃殿下から一呼吸遅れて聞こえてくる。


 でもその表情はあえて見ない事にした。


 2人の関係には長い時間が必要なのだろうし、一朝一夕でどうにかなる問題でもない。



 こういった事を積み重ねていくしかないのかもしれないと思いながら、その後4人で少し他愛のない話をして、その日は王宮を後にしたのだった。

 

 

こちらWeb版になります!


もし続きが気になったり、気に入って下されば、ブクマ、★応援、いいねなど頂けましたら励みになります(*´ω`*)

皆さまのお目に留まる機会が増えれば嬉しいです^^


オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。

彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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