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婚約者とお義父上


 

 「誰が誰をだいすきなの?」


 

 「ヴィ、ヴィル……いつからそこに?」



 さっきまでいなかったはずなのにいつの間に……私は動揺を隠しきれず、顔が引きつってしまう。


 そんな私の様子が面白いと言わんばかりに、ヴィルは体を震わせながら笑いをこらえていた。



 「今着いたばかりだけど、オリビアが面白い事を言っているなと思って聞いてだんだ」


 「あ、あのこれは……」

 

 

 「おうじさまだ!本物のおうじさまが来たー!」



 私がさっきの言葉を聞かれて羞恥に悶えていたけれど、そんな私の気持ちなどお構いなしに子供たちは、本物の王太子殿下を見られて嬉々としてヴィルの元へ走って行った。



 だるまさんがころんだをしていた子供たちに囲まれ、ヒーローのように崇められているヴィルは、少し照れながらも満更でもない様子……なんとか誤魔化せそうでホッとしている自分もいる。


 まさか本当に本人がいるなんて夢にも思わないし、ヴィルが用事もなしに私の顔を見に来る時は、大抵私の邸に来てくれるから。



 そう考えると彼がこの場所に来るという事は、何か私に用事があって来たという事なのかしら?



 「ねえ、ねえ、おうじさま。オリビア様っておうじさまが大好きなんだって!」


 「さっきも大きい声でいってたもんねー!」


 「ちょ、ちょっと、あなた達!あれはルールで……っ」


 「ふーん……そうなんだ?」



 マズいわ、絶対これは後で揶揄われるパターンよ。


 どうにか誤魔化さないと……私が必死に考えていると、そこへ修道院長様がやってきて助け船を出してくれる。



 「こらこら、君たち。お2人を困らせてはいけませんよ。そろそろ遊びを終わらせて修道院の方に戻りましょう。殿下も、子供たちが大変失礼をいたしました」


 「いや、気にする事はない。いいものも見られたし、ここに来て良かったかな」

 


 ヴィルはそう言って私の方を見ながらニコニコしていた。


 すっごく嬉しそうな顔がまた羞恥心を掻き立てられて、どんな反応をしていいのか分からなくなるわ。



 「ゴホンッ、とにかく、今日ここへは私に用があって来たのでしょう?」


 「ああ、そうだったな。公爵にも話をしなくてはならないんだ。今日は王宮には来ていないし邸にいるのだろうから、オリビアの顔を見てから一緒に公爵邸に行こうかと思って」


 「分かったわ、そういう事なら一緒に帰りましょう。ソフィアもそろそろ帰りましょうか」



 だるまさんがころんだには参加せずに、ここでお友達になった女の子たちと人形遊びをしていたソフィアにも声をかける。


 沢山お友達が出来て、本当に社交性も出てきたし見違えるように明るくなってきたわね。



 お友達に帰りの挨拶を済ませると、トコトコと走ってくる姿がまた可愛らしいわ。



 「挨拶をしてきたの?」


 「うん。また遊ぼうねって約束してきたの。また来てもいい?」


 「もちろんよ!すぐにまた一緒に来ましょうね」


 「うん!」



 私たちのやり取りを笑いながら見守っていたヴィルが、若干微妙そうな表情をしていたような気がしたのだけど……その時は気のせいかとやり過ごした。


 でもそれがすぐに気のせいではないと知る事になるのだった。




 ~・~・~・~・~




 「これはこれは、王太子殿下ではありませんか。今日はご訪問のご連絡は受けておりませんが、いかがいたしましたか?」



 私達が邸に帰邸すると、王太子殿下の突然の訪問に邸内は慌てふためき、すぐにお父様がやってきた。


 さすがのお父様も驚いているわね。



 「ああ、突然の訪問になってしまってすまない。少しあなたとオリビアに話をしておかなくてはならない事があってな」


 「分かりました、ではこちらへ」



 ヴィルは私の方を向いて頷き、私も頷き返す。



 彼がこのような訪問をするのは重要なお話があるからに違いない。


 ソフィアには難しい話になりそうだけど、私の手をギュッと握って離しそうもないわね……少し緊張感が漂う雰囲気を感じているのかしら。



 可愛らしい小さな手を握り返し、不安を吹き飛ばすように笑顔でソフィアの方を見ると、ホッとしたような表情を見せる。

 

 その笑顔が可愛すぎるので、一緒に応接間へ連れて行く事にしたのだった。



 そうしてちょこんと私の膝にソフィアを乗せ、ヴィルは私の隣りに腰を掛け、お父様は向かいに座りながらマリーが淹れてくれたお茶を優雅に飲む……貴族ってこういう時ほどすぐに本題に入らないのよね。



 話が気になりしびれを切らした私は、自分から話を振る事にした。



 「殿下、私とお父様に話しておかなくてはならない事とは何かお伺いしても?」


 「ああ、いつも通りの話し方でいいよ。君は私の婚約者なのだし、閣下は私のお義父上になるお方だし」



 ヴィルはそう言ってニコニコしながら、こちらに満面の笑みを向けている。


 彼の後ろに犬の尻尾が見えるかのようだわ。



 そして少しづつこちらに近づいてきているような気がしなくもない。いえ、きっと気のせいではないわね。



 ”婚約者”と”お義父上”という言葉にとっても満足したらしく、自分の言葉にニコニコしているなんて……前だったら呆れて寒気が起きていたでしょうけど、今は不思議と可愛く思える。


 頭をなでてしまいそうになるわ。


 

 これが恋愛フィルターというものかしら。


 転生前ではもう何年も感じていなかった感情だから、久しぶり過ぎていまいちピンときていない部分もあるけれど、意外にも嫌じゃないし、穏やかな自分がいる。



 もうとっくにこの気持ちを受け入れていく覚悟は決まっていたのかもしれないわね。



 「もう、お父様の前なんだから、ちゃんとしないと。それに……」


 「私はまだ殿下の義父になるとは言っておりませんが?」



 ひえっ……危うく変な声が出るところだったわ。


 ああ、お父様の後ろに黒いオーラが見える……人の邸にきてデレデレしないでいただきたい、という言葉がお父様の後ろに見えるかのよう。


 

 そして恐る恐るヴィルの方を見ると、肩を落としてしゅん、としている姿が目に入ってくる。



 か、可愛いじゃない……大型犬のようになっているわね。ひとまずこんな事をしていても話は進まないし、私は彼らをスルーする事にして話を戻した。



 「とにかく、私とお父様に話しておかなくてはいけない事って何かしら?」

 

 「あ、ああ、そうだったね。国王陛下……父上がオリビアに王宮に来てほしいと言っているんだ」

 

 「陛下が?それは全然構わないけれど、何かあるのかしら」



 あまり陛下と関わった事もないし、ちょっと変わった人みたいだから出来れば避けて通りたいけど、そういうわけにもいかない雰囲気ね。



 「次の月に母上の母国であるドルレアン国で建国祭が行われるんだ。おそらく、それに私と一緒に出席してほしいという話ではないかと思う」


 「こちらも建国祭に国賓としてレジェク殿下をお招きしておりますから、我が国の王族を向かわせないわけにはいきませんしね」


 「やはり知っていたのか」


 「まあ、陛下と毎日顔を合わせておりますし、自然と情報は入ってきます。オリビアも一緒にというのは初めて聞きましたが」



 お父様の美しいお顔が引きつっていらっしゃるわ……きっと陛下も反対されるのが目に見えているから、あえてお父様の前では私の事を言わなかったのね。


 ヴィルに頼めば喜んで必ず私に伝えに行くし、一緒に行こうという話になる。



 お父様の阻止が入らないようによく考えていらっしゃるわ。


 ドルレアン国はあまり治安が良い国とは言い難いという事は知っている。建国祭でのレジェク殿下を見ても、あまり良い人がいなさそうだもの。



 でも、ヴィルとの結婚はもう覚悟を決めているし、これからはそういった事も避けては通れないのだから、腹をくくって行くしかないわね。



 「お父様、心配してくださって感謝いたします。私はもう彼と生きていく覚悟を決めておりますから、大丈夫ですわ」


 「オリビア……君がそう言うのなら止めはしない。気を付けて行くんだよ。まぁきっと殿下が君を守ってくださると思っておりますが」



 そう言って私の気持ちを汲んでくださったお父様は、最後にヴィルに対してしっかりと無言の圧を放っている。


 ヴィルは私からの言葉に喜んだり、お父様からの圧に焦ったり一人で一喜一憂していて、なかなかに面白い婚約者の姿に思わずふき出してしまうのだった。


  

 

こちらWeb版になります!


もし続きが気になったり、気に入って下されば、ブクマ、★応援、いいねなど頂けましたら励みになります(*´ω`*)

皆さまのお目に留まる機会が増えれば嬉しいです^^


オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。

彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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