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プロポーズと事件のその後


 

 その様子をひとしきり見てホッとしたのか、突然膝の力が抜けてトスンッと尻もちをついてしまう。



 「…………あら?」


 「オリビア……大丈夫か?」



 ヴィルが突然頽れた私を心配して、しゃがみ込みながら顔を覗き込んでくるので大丈夫、と言いたいところなんだけど…………



 「………………あんまり大丈夫じゃないみたい。足に力が入らなくて……」



 こんな事は初めてで苦笑いするしかないわね。極度の緊張から解放されたから気が抜けちゃったのかしら……そんな私をヴィルがひょいと横抱きにして持ち上げた。



 「ちょ、ちょっとヴィル!」


 「少し我慢してくれ。公爵、先にオリビアを送らせてもらう」


 「え?あ………………分かりました」



 お父様は色々思うところはあったのだろうけど、状況も状況なだけに苦笑いしながら了承している。


 私は皆に見られている恥ずかしさで顔を上げられないでいると、用意されていた馬車にヴィルと乗り込み、皆より先に王都へと帰る事になったのだった。


 

 

 揺れる馬車の中で、何故か私は横向きにヴィルの膝に座らされていた。


 これは何事?!



 「……………………ヴィル……足に力が入らないのは確かだけど、座る事は出来るのよ」


 「分かっている。私がこうしたいんだ」


 「でも、これは…………」



 さすがに恥ずかしいと言おうとしたら、私の存在を確かめるように強く抱きしめてきた。彼の心臓の音が聴こえてきて、凄くドキドキしているのが伝わってくる。



 「子爵が犯人だと分かって、そこでオリビアが失踪したとゼフから連絡が来た時は、本当に…………間に合わなかったらどうしようかと………………」



 抱きしめている腕がさらに強くなり、彼が小刻みに震えているのが分かった。


 こんなに尊大な人でも心配で震える事があるんだ……私は自分が思っているよりもずっと想われている事を感じて、胸が温かくなる。



 あの地下室では魂が冷えていくような事ばかりだった。あんなに冷たい世界に触れたのは初めてで、すっかり私の心も恐怖で凍り付いてしまっていたけど、それを全部融かしてくれたような気がする。


 ヴィルの腕の力が緩み、私の片手を握りしめて自身の頬に摺り寄せながら溜息をついている姿が可愛くて、思わず笑ってしまった。



 「ふふっ大丈夫よ。私はここにいるじゃない」


 「……………………」



 握りしめていた私の手を無言で引き寄せたかと思うと、顔を近づけてきて「まだ全然オリビアが足りない」と言って口づけてきたのだった。


 二度目のキスは少し強引で、触れるだけのものではなく、とても情熱的で奪うようなキス――――そして確かめるように啄ばむと、私の首筋にもキスをしてきた。



 これ以上許したら止まれなくなる。咄嗟に両手でヴィルの両頬をパチンッと挟んだ。



 「ダ、ダメよ、これ以上は!結婚してからでしょっ」



 私が顔を真っ赤にして何とか伝えたのに、意地悪な笑みを浮かべてニヤニヤし始めたのだ。



 「そうか、結婚してくれるのか。じゃあ早く結婚するから、それまで待つとしよう」


 「あ……………………」



 しまった、自分から結婚すると言ったようなものだ…………穴があったら入りたい。そんな私を目の前の意地悪な王太子殿下が嬉しそうな笑顔で見つめていた。


 そして私の片手にキスをしながら誓いの言葉が紡がれていく――――



 「……オリビア、病める時も健やかなる時も、やがて年老いて私たちが土に還る時が来ても、ずっと君だけを愛する事を誓うよ。私と結婚してほしい」



 なんて素敵なプロポーズの言葉なんだろう。


 前の夫とは年を重ねる度に愛が冷めていった。そんな結婚生活なんてうんざりだし、転生して二度目の結婚なんて考えるだけでゾッとしていたのに。



 「……年を取っても?」


 「ああ」


 「よぼよぼになったら、きっと迷惑かけるわよ」


 「それもまたいいじゃないか」


 「………………じゃあ遠慮なく迷惑かけさせてもらいます」


 「ははっ楽しみにしてるよ」



 年を取った私との生活を楽しみと言ってくれる、目の前のこの人を、結婚そのものをもう一度信じてみるのも悪くないかもしれない。


 そう思えた私は、ロマンティックとは言い難いけど、私にとっては最高のプロポーズをしてくれた彼との結婚を決意する事になったのだった。


 


 ~・~・~・~




 


 あの事件の後は、色々な事が目まぐるしく変わっていった。



 まずは大司教…………彼は人身売買や献金の横領などに加えて謀反を企て、私たちを殺害しようとした事も明るみになり、流刑と生涯離島で監禁が決まった。しかし看守の目を盗んだ隙に首を吊って自ら命を絶ってしまったのだった。


 捕まった教会の者達も皆幹部の者ばかりで、ほとんどが大司教と同じく流刑が決まったのだけど、中には大司教の訃報を聞いて半分くらいは後を追うように自ら命を絶った。


 

 その教会はと言うと――――――主を失った集団というのは本当に脆くて、大司教や幹部達が自ら命を絶ったと聞くと、トップの人間が神の意思に反する行い(自ら命を絶つという行為)をしたという事で聖ジェノヴァ教会の威信は失墜し、解体する事となった。


 陛下もそれを認めたので、古くから続く聖ジェノヴァ教会はハミルトン王国から消滅する事になったのである。



 教会の建物自体は残るので、修道院に運営を任せ、費用は国から援助する形とした。


 まだまだ貧しい人々は沢山いるし、そういう人たちの受け皿となるように整備する形だ。




 ボゾン子爵親子は教会に加担していた事、私へのお茶会での毒殺未遂、今回の殺害未遂、危険薬物の取り扱い違反などの罪でお家は取り潰し、親子は最北端にある厳しい収容所に入れられ、生涯労働を強いられる事になる。


 

 ブランカ嬢はレジーナにそそのかされて私を呼び出し、本当に謝罪するつもりだったと述べているらしい。事の真偽は分からないけど、自分も殺されるところだったという話を聞いて、部屋から出て来られなくなってしまったとの話をお父様から聞いた。



 

 そしてマリアは、教会やボゾン子爵に力をいいように使われて、この話を聞いた時はとてもショックを受けていた。



 自分の力は何の為にあるのかと………………



 私はそんな彼女の苦しみや寂しさを少しでも軽くしてあげられたらと思って、前世の記憶の事をマリアにこっそり打ち明けた。


 彼女は泣いて喜び、その日は公爵邸でお泊りをして一晩中語り明かした。



 趣味の話や好きな漫画、アニメ、ファッションの話など、全く話が尽きる事はなく…………その後から心なしか元気を取り戻していったマリアは、1か月経った今では自分の意思で慈善活動を行いながら、公爵邸にもちょくちょく遊びに来てくれている。



 


 そして私はと言うと、今や貧民街に追いやられていたような子供たちを預かる施設として運営されている、聖ジェノヴァ教会だった跡地に足繁く通っていた。




 ~・~・~・~



 次回最終話になります!よろしくお願いいたします~<(_ _)>

 

 

こちらの作品に興味を持って読んでくださり、ありがとうございます^^


次回最終話ですので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m

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