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美しき狂信者


 

 聖職者が着るダルマティカをゆったりと着て、金糸や銀糸を使った織り柄が入れられている高級なストラを首から下げているので、一目で高位聖職者なのだと分かる。


 

 明らかに今まで出会った聖職者とは違う雰囲気…………この人が大司教ってわけね。



 もっとお爺さんっぽい人かと思ったけど、こんな美しい人が人身売買やこの毒薬を使って国をひっくり返そうとしていたなんて、証拠がなければ誰もが信じないでしょう。


 私は教会がしていた事を目の当たりにしてきたから、絶対許さないけれど。



 「………………あなたが大司教なのね……子供たちを売り払っていたボスってわけ」


 「売り払うだなどと、そのような粗暴な言葉を使われるとは心外ですね。私は子供に未来の選択肢を与えてあげただけ……この国にいても未来などない子供ばかりだった。慈善活動の一環でしたのに」


 「彼らの意思は?勝手に未来などないって決めつけて、他国に売りさばいていたのを正当化するつもり?」


 「またそのような罵詈雑言を……あなたはどうしても我々を敵だと思いたいようですね。まぁ、いいでしょう。我々が求める世界にあなたは必要ありませんから……」



 私にそう告げて、氷のような笑みを浮かべるその顔に寒気が走る。聖職者なのにこんなに簡単に人を消そうと出来るものなの?



 「…………必要ないのは私たちではなく、あなた達ではないか、大司教。あなた方は必ず陛下の御前に連れて行く!」



 イザベルが大司教に向かって叫ぶと、彼はとても愉快と言わんばかりに笑い出した。


 

 「ふふふっどうやって?これから消えゆく人が…………ふふっあなた達はデラフィネの毒によって命を散らすのですよ」


 「私達の命を奪ったとて、隠し通せるわけが……」



 「大丈夫ですよ、コレを使いますから」



 大司教が持っていたモノは無色透明の液体が入ったボトルだった。



 「お酒?」



 「そうです、あなた達貴族が大好きなお酒です。私は飲まないから知らなかったのですが……物凄く度数の高いアルコールらしいですよ。これをかければあっという間に引火すると聞きました。あなた達の体はしっかりと焼いて土に還して差し上げますからね。大丈夫ですよ、しっかりと亡くなったのを確認しますので痛みは全く感じませんから」



 そう言ってニッコリ笑う姿に狂気しか感じない。こんなものを今かけられてロウソクの火を向けられたら…………何を言ってももう常識は通用しないって事ね。



 「さぁ、ボゾン子爵、この2人にデラフィネを……」


 「ちょ、ちょっと待って!ブランカ嬢は?!今日は来る予定じゃなかったの?」


 「…………あの女は客室で眠らせているわよ。心配しなくてもあの女も後々同じ運命だから、寂しくはないわ」


 

 「………………狂ってる……」


 「狂っているのはこの国です。私たちはこのデラフィネを使って、国をあるべき姿に戻そうとしているだけ。これだけの量があれば、国に必要な人間とそうでない人間を取捨選択する事が出来る。理想の国が作れるというわけです」



 なんて嬉しそうに語るのかしら……本当にそんな事が出来ると思っているなら相当狂っているわね。


 

 いえ、出来る出来ないではなく、そういう国を創りたいんだ。ここまで思考が飛んでしまっては、これ以上の交渉は無意味だわ…………仕方ない、時間稼ぎは十分出来た。


 私はイザベルからもらっていたナイフで手を拘束している縄が切れているのを確認すると、そっとイザベルに後ろ手でナイフを返した。



 そしてナイフを受け取った瞬間、イザベルがボゾン子爵に向かって素早く動いた――――――私もそれを合図にレジーナを裸絞にする――――


 イザベルはボゾン子爵の首元にナイフを突きつけて動きを止め、レジーナも身動きが取れなくなる。



 「っぐ…………こんなモノを隠し持っていたとはっ!」


 「子爵……首を切られたらどうなるか、あなたでも分かりますよね?私はアングレア家の人間、油断するべきではなかった」


 「…………おのれっ……」



 イザベルが子爵の動きを完全に封じてくれたので、こちらとしてもやりやすくなったわ。レジーナは私が首に腕をまわして裸絞めで固定しているので、うまく声を出せずにいる。



 「…………っぐぁ……っ」



 「護身術を習っておいて良かったわね……っこのまま動かないでっ」



 私はレジーナに回していた腕の力を強めようとした時、大司教が驚くべき事を言い始めたのだった。



 「いいですね、そのまま2人とも捕まっていてください。あなた達ごと、コレを使って火を点けてしまいましょう。デラフィネのエキスだけはいただかなくては……」


 「何を………………大司教……お止めくだされ…………」



 裏切られた事を受け入れられずにいる子爵は、力のない声で懇願するだけだった。信じられない…………一緒に計画してきたはずなのに。


 

 「な、何を言ってるの……仲間なんじゃないの?」


 「仲間?何を言っているのです……ふふっあなたの言う仲間というのがどういうものかは分かりませんが、少なくとも私の中で仲間などと呼ばれるものではありません。卑しい身分の汚らわしいこの者達が仲間だなんて、なんと恐ろしい………………どの道、上の階には私の教会の者達が配備されているので、ここから出た瞬間に皆消す予定でした。この世界の為に仲良く消えてください」



 美しい顔からなんて冷酷な言葉を吐く人だろうか。この人の中に温かさは全く感じない――――――初めてこんなに話が通じない人間に出会った気がする。



 「こんなところで発火騒ぎを起こしたら、あなたの大切なデラフィネまで焼失してしまうわよ?!」


 「それは心配には及びません。1つでも苗があれば我々には聖女様がいらっしゃいます」



 こんな事にあの子を利用しようとするなんて、許せない…………どうすれば――――――



 「あ、そうそう。最後に教えてあげなくてはいけませんね。密漁についてですが、行っていたのは公爵家ではありませんよ。我々の支援者が手を回していたのです。最初は公爵家を陥れる為にしていた事だったのですが………………あなた方、子爵家に影響するとは思ってもいませんでした。でもあなたなら許してくれますよね、ボゾン子爵?私は聖女を召喚したのですし」



 ニコニコととんでもない事をサラッと言って退けるので、開いた口が塞がらなかった。



 子爵とレジーナはショックのあまり脱力してしまい、ブツブツ何かを呟いている。このままじゃ皆丸焦げになってしまうわ……

 

 驚きと恐怖で、皆の動きが止まってしまう中、大司教が私達に近づこうとした時――――



 「動くな」



 大司教の首につき付けられていたのは長さ15cmほどのナイフで、彼の後ろにはゼフが立っていたのだった。


 


 ~・~・~・~


 ようやく暗い展開は終わりになります~~長かった!(;^_^A


 あと二日で完結です!よろしくお願いいたします<(_ _)>

こちらの作品に興味を持って読んでくださり、ありがとうございます^^


もう少し続きますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m

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