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残された者と濡れ衣



 「レジーナ!オリビア様に触れるな……!」



 イザベルが隣からレジーナに向かって怒声を浴びせると、レジーナ嬢から表情が消え、私からイザベルの方に移動し始める。



 「うるさい犬ね。王家や公爵家に媚びる犬のくせに…………どうせあなたも表舞台から姿を消す事になるのだけど、その前にいたぶってあげようかしら」



 そう言いながら私の時のようにイザベルの頭部の髪を引っ張り、顔にロウソクの火を近づけていく。



 「この火で顔を焼いたら、さすがにもう表舞台には出られないわね。あなたはどうせ死ぬんだし、そんな心配する必要はないんだけど」


 

 「ダメよ!やめてっ!!」



 私は咄嗟にレジーナに体当たりをした――――



 「ぎゃっ」



 ガターンッとレジーナとロウソクが吹っ飛び、私自身も床に打ち付けられる。何とか受け身を取ろうと転がったけど、肩を痛打したような気がする。



 「……っいたた」

 

 「オリビア様!」



 イザベルが駆け寄ってきて、私に顔を寄せると「このナイフを……」とこっそり耳打ちして、私の手に小さなナイフを渡してくれた。


 これを渡してくれたという事はイザベルはもう大丈夫なのね。


 

 隙を見て自分の縄も切らなければ…………



 「レジーナ!大丈夫か?!」



 小太りのボゾン子爵はトコトコとレジーナの元に駆け寄ってロウソクをキャンドルスタンドに戻したり、彼女を起き上がらせたりしている。


 幸いこの部屋は床が土造りで、ロウソクが転がっても燃え広がりそうにない。


 

 地下室だからかしら……床までしっかりと造っている感じではないので助かったわね。


 私に体当たりをされたレジーナ嬢はゆらりと起き上がり、前髪の隙間からこちらを物凄い勢いで睨んでいた。



 「私が憎いのは分かるけど、イザベルを痛めつけるのは違うわ」


 「ふん…………あなたに何が分かると言うのよ。何も分かっていないくせに…………」



 レジーナが憎々しげに言う横で、ボゾン子爵もそれに乗っかる形で話し始めた。



 「そうだ、お前は何も分かっていない。貴様達親子のせいで我々がどんな目に遭ったか……」


 「親子?お父様が何か?」


 「……やはり何も知らないではないか!お前の父親が昔領地で色々やったおかげで、我々と取引をしていた商人がほとんど公爵領に行ってしまったというのに…………そちらの方が税も低く済むし市場も賑わっているからと、皆我が領地には寄り付かなくなっていった。」


 「それならここの領地でも改革を行えばよかったじゃない!」


 「それをやろうにも我が領地から海の生き物までいなくなってしまっては商売のしようがない…………私の領地には資源として取引が出来るのは海産物くらいだった。お前たちの領地のように森もあり、川も流れ、湯も湧き出ているようなあちこちに資源がある領地とは違うのだ!」


 「………………海の生き物って……生態系が変わってしまったという事?」


 「……そうだ。海沿いに領地がある諸侯は資源の取り合いにならぬように、乱獲防止協定を結んでいる……資源は獲りすぎては生態系に影響が出てしまうからだ。それなのにお前たちの領地では……我々に分からないように密漁を行っていたのだから、陛下の腹心が聞いて呆れる!」



 「…………何を……言っているの?お父様がそんな事するはずがないわ!私は領地にも行ったし、お金の流れも全部見せてもらったもの!それに生態系が変わっているならそんな事、とっくに陛下だって…………」



 「うるさい!お前達の言う事を私が簡単に信用すると思うか?!」



 何かがおかしいわ。こんな事が起こっているならお父様や陛下が知らないわけがない。でも長年による恨みによって、もう子爵の耳には何も入っていかないのね……



 「ふん……お前達親子がどう言おうが勝手だが、これは紛れもない事実だ。そして変化してしまったものは簡単には戻らない。私は、徐々に資源が枯渇していく領地で生き残る為に何が出来るかを必死に考えた…………そして妻が趣味としていた植物に目を付けたのだ。妻は本当に知識が豊富で様々な薬草を育てたり、エキスを抽出して香油を作ったりしていたのでな。それでも足りない部分を人身売買で補っていたのに…………」

 



 まさか我が領地で起こっていた人身売買は…………



 「ほっほっようやく気付いたか?先日捕まったのは司祭と司教だったが、元々貴様の領地で人身売買を行っていたのは我々が主導だったのだ。だがあまり表立ってやっていると捕まる可能性もあった為、教会に斡旋して報酬の一部をもらい受ける形にしたのだよ。私達の領地から様々なものを奪っていったのだ、これくらいの報いは受けるべきだな。ほっほっ」


 「うふふっ今まで何も知らずに生きていたなんて、間抜けね。何もかも手に入れようだなんて、強欲すぎるんじゃないかしら」


 「………………だからって子供たちを物のように扱うなんて!」


 

 「正義の人間ぶらないで…………あなた達がそうやって奪っていったおかげで、我が領地はどんどん貧乏になり、お母様は満足な治療を受けられずに亡くなっていった。命、命、命…………お綺麗な戯言はうんざり。財がなければ貧乏人は死ぬしかないのよ!でもね…………」




 レジーナが指の長さ程度の小さな小瓶を私に見せてきて、問いかける。

 


 「これが何か分かる?」




 その小さな小瓶には透明な液体が入っていて、私にはそれが何なのか全く分からなかった。でも彼女の不気味な笑みを見る限り、嫌な予感を感じさせる液体であるのは間違いないと考え、私にとって因縁のあるあのエキスではないかと思いいたる。



 「デラフィネの液体……?」


 「ふふふっよく分かっているじゃない。そうよ、お母様が残してくれた唯一の功績よ!お母様は死ぬ間際まで、私たちに何か残せないかと懸命にこの花を研究していたの。

 偶然効能が分かった時は家族皆歓喜したわ…………私は、これで公爵家を皆殺せると思うと嬉しくて……私の喜ぶ姿を見て、お母様は安心して眠りについて逝った。あの人の願いは違うものだったのかもしれないけど、私は…………私達から全てを奪っていったあんた達が邪魔で邪魔で邪魔で…………」



 レジーナの顔が憎しみでどんどん歪んでいく――――


 彼女自身もデラフィネの使い方が母親の本意ではない事は分かっているのね。でも止められないほどの憎しみが渦巻いているのを感じて、下手な慰めは出来ないと悟ったのだった。


 

 

 ~・~・~・~


 ちょっと暗いお話が明日あたりまで続きます~~すみません(;^_^A


 完結まであと3日ほどです!よろしくお願いいたします~<(_ _)>

こちらの作品に興味を持って読んでくださり、ありがとうございます^^


もう少し続きますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m

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