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出発



 その日は素晴らしい快晴で、雲1つない空が私のこれからを祝ってくれているかのような気がした。

 

 私が異世界に転生してから二週間あまり経った。

 

 お父様の執務室を訪ねた日、私はお父様に2つお願いをしたのだけど、その1つが領地で過ごしたいという事。これについてはすぐに了承を得る事が出来たのよね。殿下から聞いていたのもあるのだろうけど、何より私の気持ちを優先しようとしてくれる優しさが伝わってきて本当に嬉しくて…………生まれ変わって、こんなに素晴らしい父親に巡り合えるというのもそうないと思う。

 

 そしてもう1つは殿下との婚約の話。この話については保留となった……私自身も今すぐどうこう出来る問題とは思っていなかったし、お父様には私の気持ちを知っていてほしくて、ありのままの気持ちを伝えてみた。

 殿下は恐らく私の事が嫌いだという事、私自身も結婚するより領地経営に興味が出てきている事、広い世界を見てみたいという事…………お父様は目を細めて私の話に聞き入ってくれていたけれど……実際はどう思ったのかしら。

 

 私の話を一通り聞いて、よく分かった、と言った後「婚約の話は私に預けてほしい」と言われてしまったので、お父様を信頼して任せるしかなくなったのよね。

 

 まぁどの道、聖女が現れたらそっちの方にいくでしょうから、それまで極力関わらないでいられたらいいんだけど。



 そんなやり取りを終えて、私の体力が領地までの道のりに耐えられるくらい回復してきたところで、領地で過ごす為の持ち物や衣服などの私物を用意する事になった。それが結構時間がかかってしまって……貴族の持ち物ってこんなに多いの?!

 領地では身軽に動くつもりだったから、平民のような簡易服しか要らないと思っていたのに。マリーにそんな事をブツブツ言ったら「そんな訳にはいきません!」って怒られてしまったわ。今は季節が春、三月くらいかしら……庭の花が蕾を付け始め、これから新しい事が始まる予感にわくわくするわ。

 

 当然の事ながら、私が領地に行くというのは小説の中にはない出来事なので、あの小説通りには進んでいないという事になる。

 

 そうなってほしいし、そうでなければ困るわ…………お父様やマリーが悲惨な目に遭う未来は絶対見たくないし、私だってせっかく転生したのにまた死にたくないもの。

 

 「これで持ち物は全部揃ったかしら?」


 どっさりと積み上げられた自分の持ち物達を見渡しながら、一息ついた。マリーはまだ確認の作業中ね。


 「お嬢様が快適に過ごせるように手抜きは許されませんからね!」


 マリーは張り切っているわね……本当は一人で行こうと思っていたのだけど、話を聞きつけたマリーが鼻息を荒くして「私も付いていくに決まっているじゃありませんか!まさか置いていこうと思っていたのでは……」と泣きそうな顔をするから、置いていく訳にはいかなくなってしまった…………マリーとお父様には本当に弱い私。

 でも領地に行ったらやりたい事が沢山あるから、正直マリーが来てくれるのは非常に助かるし心強い。


 「ありがとう、マリー」


 ぽそっと独り言のように言った言葉は、マリーの持ち物点呼の声にかき消されていった――――



 

 ∞∞∞∞

 

 


 そして出発の時間がやってきた。

 お父様と公爵邸の使用人の皆がお見送りに来てくれて、馬車の前で皆に向き合う。


 「お父様、皆、行ってまいります」


 そう言うとお父様が私に近寄ってきて、優しく包み込むようなハグをしてくれた。宝物を包み込むかのような優しいハグ。


 「一人で旅立ってしまうんだね……寂しいなぁ――娘の成長というのは喜ぶべきものなんだろうけど…………」


 そう言って唇と尖らせながら、涙目で子供のように拗ねるお父様の姿にクスリと笑いがこぼれる。


 「閣下、お嬢様がお困りでございますよ!」


 そう言って窘めるのは恰幅の良い女性料理長のルイズ。私が幼い頃から公爵邸の料理長を任されている、信頼出来る料理人だ。


 「ふふっ皆、お見送りに来てくれてありがとう。お父様がきっと寂しがると思うから……父をよろしくお願いしますね」


 私がそう言うと皆が「もちろん!」と言って笑顔になったので、そろそろ出発しようと馬車に乗り込んだ。これ以上は名残惜しくなっちゃうもんね…………



 「お父様、お手紙書きますから…………では、皆、行ってきます!」



 そうして馬車はゆっくりと領地に向けて走り出した――――――――



 

 



 

こちらの作品に興味を持って読んでくださり、ありがとうございます^^


まだまだ続きますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m

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