祝賀パーティーへ
イザベルとの街でブラブラした日から10日ほど経って、いよいよ建国祭当日になった。
それまでの間はイザベルの家と我が家の往復で、主にトレーニングと体の手入れの日々だった。そのかいあって頭の先から足の爪先までしっかりと磨かれて、これが自分なのか……と感動してしまうかのような仕上がりにマリーの鼻息は荒くなる。
「お嬢様~~いよいよ今日から建国祭ですね!今夜の祝賀パーティーまで、まだお時間もある事ですし、朝のマッサージを致しましょう!」
「え、今日もするの?!」
「もちろんですよ~~常に最善を尽くす事が大事ですので!」
「…………それはそう、だけど」
なんだか丸め込まれたような気がしなくもない…………
「ソフィアもオリビア様のマッサージ見てるね!」
「じゃあソフィアの好きな本を読んで聞かせてくれる?」
「うん!」
こうしてソフィアの音読を聞きながらマッサージしてもらって、夜の祝賀パーティーの準備は進んでいく。
お父様は正装をして建国祭の開幕セレモニーに出席するので、朝からバタバタと用意して出かけて行った。私は娘なので出席する必要はなく、夜の祝賀パーティーに出ればいいのよね。
もちろんハミルトン王国の王侯貴族たちは皆夫婦で出席していて、その令息、令嬢は夜の祝賀パーティーのみ、といった形だ。
ヴィルは王太子殿下なのでセレモニーに出席した後、私を迎えて来てくれる。
なんだか申し訳ないわね…………お父様達はそのままパーティーに出席できるのに、私をエスコートする為にわざわざ我が家に来させてしまうなんて。
迎えに来てくれた時に先日購入したユニコーンの置物をあげよう。小さいから邪魔にはならない、はず。
セレモニーにはハミルトン王国が招待した各国の王族が出席して、そのまま祝賀パーティーにも出席する王族もいると聞いたわ。
ヴィルと挨拶回りをするから、その人達にも挨拶しなきゃいけないわね。
緊張する……そんな事を考えている間にマリーが髪をセットしてくれて、髪にも装飾をしてくれていた。
「お嬢様の美しいピンクラベンダーの髪の素晴らしさを際立たせる為に、全部はアップしないでおきますね!せっかくつやつやに手入れしましたので!残した髪は巻いて……アップした髪には、この薔薇のティアラのような宝飾品を着けましょう。美しいです~~」
「オリビア様、綺麗!」
「ふふっありがとう。マリーもありがとう」
「まだ髪の毛だけですよ!これからお化粧とドレスです!」
先は長いわね…………私が化粧まで終わったところで日本時間だと16時くらいを回っていたと思う。そのくらいの時間にヴィルが迎えに来てくれたと知らせが入る。
応接間で待っていてもらって、一時間くらい経ってようやく準備が整った。
ドレスは本当に私にフィットしていて、どこで採寸を測ったのかしらって思うくらい……素晴らしい着心地だった。
裾が長いので少し歩きにくくはあるけど、首に着けているジュエリーも全て用意してくれて、これは感謝を述べなくてはいけないわね。
『お嬢様、行ってらっしゃいませ』
私室で侍女たちに見送られながら階段まで歩いていくと、下のエントランスホールにはヴィルが待っていてくれた。
いつものヴィルも王子様らしい服装なのだけど、今日は正装をしている事もあって、一段と王族って感じがする。髪の毛もしっかりとまとめられていて、いつもは無造作に下ろしている前髪も全部アップにされていた。
襟付きのフロックコートに首に巻いたクラヴァットには綺麗なレースが施されている。袖のカフには金糸や銀糸などで織り柄が施されていて、袖の部分だけ薄いピンクラベンダー色だった…………これは私の髪色を入れた、という事なのかしら。何だか気恥ずかしいような……
「ごめんなさい、随分待たせてしまって」
私の姿が見えると目を見開いた後、階段の中段まで駆け寄ってくれて、下から手を取ってくれる。王子様の所作は完璧なのね。
「待ち時間も楽しんでいたから、気にする事はないよ。とても綺麗だ…………女神が降臨したかと思ったよ」
「あなたの正装姿もとても素敵ね」
「嬉しいよ。君をエスコートするのに相応しい装いでなければと思ってね。こんな素敵な女性を私がエスコートしても?」
そう言って私の手の甲に口づけながらおどける。上目遣いにウィンクする姿にふき出してしまう。
「ふふっ何を今さら……あなたがエスコートしてくれなかったら出席出来ないわ。よろしくお願いいたします」
「光栄だ。さぁ、行こう」
我が家を出ると彼が乗ってきたであろう馬車が停まっていた。
先日イザベルの家に行く時に乗ってきた馬車に似てはいたけど、今日の馬車の方がより一層煌びやかでグレードアップしている。昼間だったら乗るのはご遠慮していたかもしれない……
「今日はこの馬車に乗ってくれるかい?」
「…………そうね、今日は乗って行きましょう」
私の言葉にふき出したヴィルにエスコートされて、馬車に乗り込む。
私たち2人を乗せた王族専用の美しい馬車は、祝賀パーティーの会場に向けてゆっくりと動き始めた…………すっかり日が落ちて王都の街のネオンが煌めき、その奥に見える王宮の美しさに息を飲む。
この世界に来て、初めての夜会だわ。
今日はお父様もいるし、イザベル達もいる…………緊張と不安と期待が綯い交ぜになり、馬車の中でも私の気持ちは妙に高ぶっていた。
こちらの作品に興味を持って読んでくださり、ありがとうございます^^
まだまだ続きますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m