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 私がそう言い終えて殿下の顔を見上げると、明らかに物言いたげな表情で固まっていた。滅多な事では表情は崩さない殿下が、流石に驚きを隠せないでいる。

 

 そりゃそうよね…………殿下から絶対に離れないとばかりにストーカーのような行為を繰り返していた人物が、自分から離れると言った上に自然と戯れたいだなんて、オリビアが絶対に言いそうにない言葉を言っているんだもの…………でも前世の私は自然大好きだし、働くことが好きだった。

 確かにお金の為に働いていたのだけど、それ以上に働く事が好きで、夫との関係以外は充実していたのよね。子供たちと自然の中で遊ぶのも好きだったし、貴族としての生活よりもよほど楽しく暮らせると思う。


 そう考えると早く領地に行きたくなってきたわ。


 「殿下に会えなくなる事は、とても寂しいですが…………ゆっくりと心身ともに癒されたいと思っております」



 あなたと離れた方が癒されると思いますの。そういう皮肉も込めて言ったつもりだったのだけど…………殿下はとにかく動揺した様子で言葉を絞り出すのがやっと、という感じで「わ、わかった…………」とだけ呟いて沈黙してしまった。


 「………………殿下?」

 

 しばしの沈黙が気まずくて私の方が先に言葉を発してしまう。やっぱり動揺しているのか次の瞬間、殿下は突然立ち上がり、扉の方へ歩いて行ってしまう。


 「あ、あの…………」


 「また、こちらから連絡するよ。……今度は領地の方に」



 少し振り返りながら、そう言って去って行ってしまった。なんだったの…………明らかに様子がおかしい殿下が気になったけど、領地に連絡するという事は了承してくれた、という事よね?

 良かった…………とホッと胸をなでおろした私は、次にお父様を説得しなければ、と考えを巡らせていた。




 ∞∞∞∞




 その日の夜、お父様が帰ってきたという知らせをマリーから受け取った私は、お父様がいる執務室へと向かった。

 本当は療養しなければならないほど体力が落ちているわけでもないし、このくらいの距離なら自分の足で歩いていけるのだけど……きっとこの話を聞いたら驚くだろうな。あんなに娘思いの父親を困らせる事は言いたくない。でも自分のやりたい事の為に戦わなくてはならない時もある、と自分を奮い立たせて扉をノックした。



 ――――コンコンコン――――


 

 「入りなさい」


 中から声が聞こえたので「失礼します」と言いながらそっと扉を開いて顔を覗かせた。そんな娘の顔が見えたからか、お父様はパッと表情を明るくして歓迎してくれる。


 「どうした、そんなところに立っていたら体が冷えてしまう。さぁ、入りなさい。お茶を入れよう」


 「いいのです、私が入れますわ!お父様はお座りになって」

 

 帰ってきたばかりのお父様にお茶を入れさせるわけにはいきません。そう言わんばかりの娘の態度に顔が緩む公爵は、ニッコリと微笑み「じゃあお願いしよう」とソファに腰かけた。

 お茶を入れながらお父様をまじまじと見る。紫色の髪がツヤツヤで美しい顔立ちにスタイルのいい体、紳士な振る舞い、陛下の信頼も厚い現公爵…………女性が言い寄って来ないのだろうか、と不思議になるほどだった。

 オリビアの母親が亡くなってから、そういう話は全然書かれていないのよね……全く浮いた話がないっていうのも信じられないくらい優良物件なのに。

 

 そんな事を考えながらお茶を差し出し、私も向かいのソファに座り、お父様に向き合う。


 「体調は随分良くなったようだね。安心したよ……こんな時間に私の元へ来たという事は、何か話しておきたい事でもあるのかな?」


 そう言うお父様の顔を見ると、あぁ、殿下から聞いたのだなとすぐに分かった。殿下には体調が優れないから領地に療養に行く、と伝えているにも関わらず、目の前の娘は体調が良さそうなのだ。

 何か思惑があると見抜かれているのね…………親バカだけど、やはりそこは公爵ね…………流石、私のお父様。そんな事を思いながら、私はゆっくりと口を開いた。



 「お父様……お父様にお願いがありますの」



こちらの作品に興味を持って読んでくださり、ありがとうございます^^


まだまだ続きますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m

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