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遅れて来た婚約者




 私はその声を聞いて、違う意味で息が止まるかと思った。こんな場所にいるはずがない。幽霊でも見ているかのような目で殿下を見つめていると、殿下から少し笑みがこぼれる。



 

 「……そんなに見るな」



 え…………照れている?危機的な状況にも関わらず、殿下の反応に半分引き気味の顔をしてしまった。


 

 「……おい、随分物騒な物を持っているじゃないか…………身分の高そうな男だな」


 

 私を押さえつけている男はわざと悪びれるような態度を取っているのか、殿下に軽口を叩き始めた。ダメよ、かりにも王太子殿下にそんな口をきいてしまったら、処刑どころの騒ぎではなくなってしまう。


 とても物騒な想像をしていると、殿下は自身の剣に力を込め、かなりの負のオーラを出しながら脅し始めた。


 

 「そのような軽口を今すぐ叩けなくする事は容易いが……私の婚約者が血で汚れてしまうのは忍びない。まずは彼女から離れるまで待ってやろう。さっさと汚い手を私のオリビアから離せ」


 

 私の…………オリビア………………やっぱり少し意識が混乱しているのかしら……次から次へと聞いた事もない台詞が殿下から飛び出てくる。


 

 「………………ふん」


 これ以上抵抗しても無意味だと感じたのか男の腕の力が緩まる…………解放されたと同時に一気に息が吸えるようになる……体に力が入らない…………



 「…………ゲホッゴホッ…………」


 「オリビア!」


 殿下に腕を引っ張られ、力強く肩を抱かれてしまった。被っていた帽子はその時に脱げて、長い髪の毛がパサッと現れる。

 

 何が起きているのか…………ずっと息が出来なかったところに一気に空気が入ってきて、逆に咽てしまったわ……どんなに動揺していてもお礼は言わなくては………………



 「…………ケホッ…………殿下、ありがとうございます……」


 殿下に抱かれるような形になってしまったけど、立っているのがやっとで、正直助かる……

 


 殿下が私を確保したのを見て、ゼフが押さえつけていた男たちをすぐに振り払い、殿下の近くにやって来た。


 

 「……申し訳ございません…………我が主……」


 「…………ゼフ、言い訳は後で聞く。それよりもこの状況を説明してくれ」


 ゼフと殿下が何か話しているけど、私にはその話よりも"ゼフの主が殿下だった"という事実で頭がいっぱいだった。お父様の護衛か怪しんではいたけど、まさかゼフの主が殿下だったなんて………………という事は、ずっと殿下に見張られていたという事?


 

 「なるほどな…………随分と無茶をしたようだな、オリビア。帰ったら覚えておくように」


 「…………っ」


 な、な、何よ、その獲物を食する前の獣みたいな目は!!私は表情を変えないように努め、必死で笑顔を取り繕った。


 

 「…………お取り込み中悪いが、あんたたち……何しにこんなところに来た」



 さっきまで私を押さえつけていた男が、突然話に入ってきたので自分が危機だった事を思い出す。ようやく頭が冴えてきて、体も動くようになってきたから自分の足で立とう……相変わらず殿下に肩を抱かれたままだけど、かなり楽になってきたわ。

 

 この男性は貧民街の住民みたいだけど、ちょっと違うような雰囲気を感じるのよね…………体格もいいし、ボロボロの衣服を着てはいるけど全くの物乞いって感じでもない気がする。同じ事を思ったのか、殿下がその男をまじまじと見ながら1つの提案をする。


 

 「お前、少しは話が出来そうだな…………ここの話が聞きたい。適当な場所はないか?」

 


 「……………………よそ者に話す事などない……帰れ」


 

 何かを諦めた目…………私はこの目を知っている。出会ったばかりのソフィアが同じ目をしていた。この人たちはきっと皆、周りに裏切られ、蔑ろにされてきた人々なのでしょうね…………人を信じる事を諦めている、そんな目だわ。


 殿下が何か言おうとしたのを制して、私が男性の前に進み出た。


 すると私の腕を掴み「オリビア……」と名前を呼びながら首を振る殿下の目が、不安に揺れていた。心配してくれているのかしら…………安心させるように笑顔を向けてみる。頬を赤く染める殿下を見なかった事にして、男性に向き直った。


 

 「あなた方に簡単に信用してもらおうなんて、思っていません。でもここは私の故郷だから…………諦める事は出来ないの」


 「………………あんたは一体……」


 男が驚き目を丸くしたので、私がここの領主であるクラレンス公爵の娘である事をこっそり耳打ちして教えた。すると、更に目を丸くし白黒し始めると、私に恭しく頭を下げ出した。


 

 「…………私はオルビスと申します。ご無礼を働き、申し訳ございません。お待ちしておりました…………まさかとは思いましたが閣下の………………」



 オルビスというこの男性は私の顔に懐かしい面影を重ね、目を細めて少し笑っている。私はこの男性の言葉に固まってしまった……私を待っていたって一体どういう事?すると周りの人々がざわざわし始める。


 

 「まさか…………クラレンス公爵の娘か?」


 

 皆、お父様の名前を出しながら、私や殿下、ゼフを取り囲み始めた…………何、何事?それに今ここで身分がバレてしまって大丈夫なの?色々とまずい展開になったのでは――――

 

 公爵家を敵視している人はいなさそうだけど、これからどんな話があるのか、ひとまずオルビスの話に耳を傾ける事にしたのだった。

 



 

こちらの作品に興味を持って読んでくださり、ありがとうございます^^


まだまだ続きますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m

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