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ゼフSide



 俺には物心ついた時から親はいない。自分が何者かも分からず、その辺に打ち捨てられている孤児だった。


 孤児などその辺に沢山いたし、皆が付けてくれたゼファーという名前はそのうち呼びやすいゼフに変わっていき、かろうじて自分がいる場所は王都の外れなのだという事は少し成長した時に理解したが、毎日生きるのに必死で、特に食べる物を手に入れる為には何だってした。

 言葉を覚えるのには苦労したが、運動神経だけは良かった為、追いかけられても捕まる事はなかったし、刃物を持っても負ける事はなかった。


 

 そんな自信が過信に変わり、8歳になる頃に大きなヘマをする。


 

 いつものように食べ物に困っている仲間たちの為に盗みをしようと、大きめの倉庫に潜り込んだ…………金目の物も沢山あったし食料も沢山置いてあったから、どこぞの貴族に持って行かれる物だろうなと思った俺は、少しくらい食料が減っていても分からないだろうと高を括っていた。

 貴族なんていくらでも旨いものを食べられる、いくらでも着飾れる、最高のベッドで寝て、集まってお茶を飲んでいるだけの阿呆だと思っていたのだ。


 

 (減っても気付かないだろ…………)



 「おい、食べ物をちょっと多めに持っていこう。宝石はダメだぞ」


 

 俺は物乞いたちのリーダー的な存在だった事もあり、自分より小さい者の面倒を見なければならない。しかし皆幼かったから、宝飾品に目がくらんだ仲間が俺の言葉を無視して、宝飾品を盗もうとしていた。

 そういったものは幼い人間が売りに行っても相手にしてもらえないし、仮に売れても誰が売りに来たのか足がついてしまう為、盗んでも使い道がない。


 

 俺の1個下の仲間、コウダの腕を掴む。



 「宝石類はダメだって…………」


 


 「そこで何をしている!!」


 背後から突然大きな声が聞こえる。やばい…………役人が来た……!咄嗟に幼い仲間を裏口から逃がした。自分だけなら簡単に逃げられただろうが、それをしてしまったらもう仲間の元へは帰れない。皆同じ穴の狢だから、力を合わせて生き抜いてきたし……ここで見捨てる選択肢はなかった。

 

 幼い仲間を逃がし、次は自分も……と思ったが、やはり囲まれてしまう。



 散々役人から暴行を受け、体は全く言うことをきかないし、言葉も発する事が出来ない…………このまま死ぬのか……あいつらが逃げられたならいいか………………



 意識が遠ざかりそうな中、そんな事をぼんやり考えていると、小さな子供の声だが偉そうな物言いの人物が現れる。



 「その辺で止めるんだ。物乞いと言えども子供だ。弱き者を守る為に我々のような者がいると習ったぞ。」


 「はっ……失礼いたしました、ヴィルヘルム殿下」

 「…………ふんっ……もういい。ここは私が引き受ける。皆下がっていいぞ。」


 「し、しかし…………」

 「……子供をむやみに暴行した事、父上に言いつけるぞ?」


 「…………わかりました…………」


 

 バタバタと足音が遠ざかる。俺は助かったのか?それにこの少年…………ヴィルヘルム殿下?貴族の子供か?色々な事で頭の中がぐしゃぐしゃだったが、何とか顔を上げようとすると、その少年が顔を覗き込んでくる。



 「お前、綺麗な瞳だな~!見る度に色が変わって面白いな!」



 少年はキラキラ顔を輝かせてそう言ってくる…………しかし、自分の方がよほど美しいではないか、と言いたくなるほど綺麗な顔をしていたのでつい見惚れてしまった。



 「さっき逃げて行ったのは、お前の仲間か?…………あの感じではいつか捕まってしまうだろうな。お前もさっさと逃げればよかったものを」


 俺は少年を力の限り睨んだ。貴族にとっては取るに足らない人間だろうが、俺たち物乞いにだってプライドはある。共に明日をも知れぬ日々を一緒に生きてきたのだ…………簡単に裏切れるものではない。



 「………………ふん。威勢だけはいいようだな。おおかた裏切れなかっただけだろう」


 驚いた、俺よりも小さく見える少年だが、とても賢い事は分かる。



 「お前、面白いな。今日から私の話し相手になれ。」


 「なっ…………でき……な……い………………」


 必死に絞り出すと「お前の了承など必要ない。私がお前を必要だと言うんだから来るんだ」と強引に連れて行く気満々だった。役人たちは猛反対したが、少年が頑として受け付けずに俺を運ばせた。

 

 そこからはドタバタだった…………連れて行かれた先は王宮で、少年はこの国の王子だったのだ。俺はすぐに手当てされ、身なりを整えられて王子殿下のそば仕えとして本当に話し相手になった。そして運動能力を買われ、王宮騎士によって鍛えられた……めきめきと頭角を現し、王子殿下の話し相手から専属の護衛になっていった。


 あの時殿下は、ちょうど王都にお忍びで遊びに来ていたところ、騒ぎを聞きつけて飛び込んできたというわけだ。あんな王都の外れにお忍びで遊びに来ているとは、どんな王子様なのかと思ったが……一緒にいる時間が増えると、殿下がこの国についてとても勉強していて、大切に思っている事が伝わってくる。

 俺たちのような人間を少しでも減らしたいと、あんな外れにまで来て、見回っていたのだ。


 あの時の殿下はわずか7歳、自分は8歳だったのでその年齢からここまでの志を持っている事に驚くばかりだった。

 


 理想で食っていけたら苦労はしないが……貴族や王族なんて何も考えていない連中だと思っていたのに、殿下なら理想を現実に出来そうな気がしてくる。

 

 

 暴行され、意識が遠のきそうだったあの時、殿下が俺を……俺自身を必要だと言ってくれた事が、俺の生きる意味になった。



 そんな殿下にも婚約者が出来、俺はその護衛を頼まれる事になる。普段は日陰者だが、今回の任務はその婚約者であるオリビア様を側で守らなければならない。いつも殿下の近くにいる令嬢の事は知ってはいたが、一緒に行動していると、やはりこの者も殿下に近いものを感じた。


 

 俺を救った殿下と同じようにオリビア様も幼い物乞いの女の子を助け始める…………いつぞやの再現を見ているかのようだなと思った。


 そして領地に連れて行くと言うのだ。その時のオリビア様の目は、あの時の殿下の目と同じだった。



 俺は傷つけられた幼い女の子を抱きかかえながら、この子も自分と同じ運命を辿りそうだなと、あの時の自分と重ねていた――――そしてその少女は、オリビア様の元で過ごす内にどんどん健康的になっていった。名前をソフィアと名付けられて、5歳だが3歳くらいの背丈しかない。


 ここまで成長が著しく遅いのも初めて見る…………彼女がいかに劣悪な環境にいたかが分かるようで、常にビクビクし、声もほとんど発しない。時々相手をしてやると花が咲いたように笑う。


 

 これが本来の彼女の姿なのだろう。


 オリビア様が買ったガラス細工をソフィアに目線を合わせて渡すと、顔が茹で上がったのではないかというくらい赤くなる。


 

 熱か?



 オリビア様に任せるべきだったかしばらく考えた…………こういう事を考えるのは苦手分野だな。戦いなら自信はあるのだが。ソフィアを見ていると、あの時生き別れたコウダ達を思い出して世話を焼いてしまう。何とかしてあげたい気持ちにさせられるのだ――――



 皆で商店街を歩き美味しそうなパン屋を見つけたオリビア様は、そこの女性店員の話に耳を傾け、この領地の税について話し込んでしまわれた。


 この国は一見穏やかで表向きは素晴らしく見えるが、貧富の差が激しい……殿下が以前それを憂いていたな。税を納められなければ住人として扱われない。俺もソフィアも子供だったがそんな事は関係なく、養ってくれる親がいなければ人間としての権利さえ失う。


 

 そしてオリビア様も同じようにこの国の貧富の差を憂いていた。

 

 二人とも似た者同士、この先良い王太子夫妻になるだろう。しっかり殿下からの任務を果たさなくては……そう胸に誓った。



 それなのに…………誓っていたにも関わらず、この後俺は、またヘマをしてしまうのだった。




 

こちらの作品に興味を持って読んでくださり、ありがとうございます^^


まだまだ続きますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m

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