市場めぐり
ガラス細工を購入したお店から少し歩いた場所に魚介類がズラリと並ぶ出店があり、そこではとれたての新鮮な魚や、見た事もない貝類が並んでいた。美味しそう…………前世では魚介類が大好きだった私なので、よく子供たちに魚をさばいて食べさせていたな……昔の光景を思い出して懐かしんでいると、魚屋の元気なおじ様が声をかけてきた。
「お嬢さん、この辺りで見ない顔だね。ウチの店の魚に目がいくとは見る目があるってもんだ!ここの領地近海は海水温度が高過ぎず低過ぎないから、魚たちには住みやすい生育環境なんだ。活きが違うだろ?」
そう言って活きのいいお魚を自慢してくれる。我が領地ながら、こんな風に褒められるのはとても嬉しいものね!
お魚も温度が高い方が良かったり、低い方が良かったり色々な種類がいるんでしょうけど、この近海の魚たちは高過ぎず低過ぎずが適温って事ね。本当に肉付きが良くて……丸焼きにしても美味しそう…………
「凄く身がたっぷりね!食べ応えがありそうだわ……」
そう言う私の顔が大層輝いて見えたようで、奥から丸焼きにしたお魚を持ってきてくれた。
「ほらよ!ウチではこういうのも売っているのさ。これを食べたらまたウチに来たくなるだろうな~。今回は特別にタダでやるよ!お連れさんと皆で食べてくれや!」
マリーやゼフ、ソフィアの分まで焼魚をいただいてしまったので、皆でお昼に食べる事にしよう。
「ありがとう!また来ますね!」
気前のいい店主にそう言って別れを告げた。焼魚はゼフが全て持ってくれたので(ゼフありがとう!)まだ他にも回れそう……と美味しそうなパン屋の前で立ち止まる。
ソフィアと一緒に過ごしてみて気付いたのだけど、ソフィアはパンが大好きみたい。食事には毎食パンは出てくるんだけど、毎回おかわりしちゃうくらい好きなのよね…………食べやすいし、気持ちはわかる。問題はパンを食べ過ぎて他が入らなくなるという事よね。
まぁ今回はお出かけだし、好きなパンを沢山買ってあげよう。
「ソフィアはパンが大好き?」
そう聞くと、小さな頭を縦にブンブン振るので、やっぱりと納得する。
「じゃあ、このパン屋さんに寄っていきましょう!」
木で建てられた可愛らしいお店に入ると、店内はパンの良い匂いで充満していて、私まで幸せな気持ちになった。本当にいい匂い~~ソフィアも幸せそうね!そして様々なパンが並べられていて、店員なのか店主なのか分からない女性が次から次へと並べていく。
回転率がいいお店という事は、売れる店なのね。ここは美味しいに違いない。
「すみません、初めて来たのでお聞きしたいのだけど、おススメのパンを教えてもらえないかしら?」
忙しそうな店員には申し訳ないんだけど、どのパンがこのお店でのイチオシなのかを知りたくて声をかけてみた。女性は嫌がる素振りもなく笑顔で話し始める。
「お客さん、初めてかい?それならこのパンがおススメだよ!当店一番の売れっ子商品、玉子と鶏肉を挟んだ親子サンド!」
そのサンドはスクランブルエッグと茹で鶏を野菜と一緒に挟んだものなのだが、ボリューム感もたっぷりで本当に美味しそうだった。野菜もたんぱく質も摂れるし、お昼にはちょうどいいわね。
ここは森が周りにあるから狩猟も盛んなようで、動物性のお肉も出回っている。女性に勧められるまま、そのサンドを買う事にした。
お会計の時に彼女に領地について聞いてみよう。女性の意見も重要だしね。
「ここには初めて来たのだけど、住みやすいところのようね。私も移り住んでみたいわ」
そう言うと店員の女性が得意げに「住みやすいから移り住んできたらいいよ!」と言ってくれた。
「環境としては凄く住みやすいところなんだ。でも一つだけ、税の支払いだけが結構重いんだよね~払えない人はちょっと住めないかも。お客さんは大丈夫そうだからすすめてるけど!」
「そんなに重いの?」
税の支払いが重いなんて聞き捨てならないと思い、少し食い気味に女性に聞いてしまう。
「色んな税があるんだけど、いつからか教会に払わなければいけない税が増えてね…………年々上がっていくし、ウチみたいなここに住んで店を出している者にはちょっと重くなってきたんだよ。外から来て出店を出す者には減税されていたりするんだけどね……ここの近くの魚屋なんて、あたしらより少なくて済んでいるんだよ!まったく不公平な話さ」
そう言えばさっき気前よく焼魚をくれたお店よね…………そういった事も関係していたとは思わなかった。まだまだ女性の話は止まらない。
「教会なんてほとんど扉が開かれる事はないのに毎月税は払わなきゃならないんだ。払っているのに集会で使うにも集会費っていうのを払うんだよ。おかしな話だろ?そこまで徴収しないと維持出来ないもんかね…………ま、そういった場所は保護区でもあるから、皆で協力していかなきゃいけないっていうのは分かるんだけどさ!」
「……それは、ちょっと大変ね……」
「だろ?ま、ここに住んでいる以上仕方ないことなんだけどね。お客さんも住むならその辺は頭に入れておいた方がいいよ」
「…………そうね……」
女性は親切にも私に助言してくれたけど、私の頭は領地の税についてで頭がいっぱいだった。
帳簿を見た事がないから分からないけれど、おそらく公爵家から教会へ支援金が入っているはずよ。貴族は聖職者に支援する事で善行を積み、魂が浄化されるっていう信仰が根付いているっていうのを小説で読んだわ。
お父様がその支援をケチるとは思えないし、これだけ街が賑わっているのに領地の税収が足りないとは思えない。
私はこの女性店員の話を聞いて、早めにロバートに帳簿を見せてもらわなければ、と感じたのだった。
こちらの作品に興味を持って読んでくださり、ありがとうございます^^
まだまだ続きますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m