神の怒りを受ける者は…
あんな事があった翌日だけれど、スッキリと目覚め、ソフィアは何も覚えていないようで、ラスがいない事を心配していた。
「あの子は大丈夫よ。ちょっと用事が出来たらしくて自分の国に帰る事になったの」
「また会えるかな……」
「そうね、ソフィアが会いたいって思っていれば、きっと会えるわ」
「うん!」
昨夜のあの子が”僕のお姫様”って言っていたのをどう捉えていいのか、私は考えていた。
二人は婚約者だったとか?
もしそうならソフィアは貴族令嬢という事になるけど、私と出会った時のソフィアはガリガリにやせ細っていて、体も痣だらけ……食べ方も分からないような状態だったもの。
あまり現実的ではない気がする。
何か理由があるのかしら……彼女が最初は会話も出来なくて、一緒に暮らす内にようやくコミュニケーションが取れるようになってきたところだから、今までの事を聞くに聞けずにいた。
タイミングを見計らって、覚えている事だけでも聞いてみようかしら。
ご両親の事とか、あの村にずっといたのか、とか。
1つ言える事は、ラスはソフィアの事を知っているという事だけね。
それもとても深く知っている――――僕のお姫様って事はラスと同じ国の可能性もある。
彼が去ってしまって真相は闇の中にお蔵入りしてしまったけれど、焦らず探っていきたい。
そんな事を考えながら、日中に行われる建国祭を開会するにあたっての式典に出席するべく、準備していったのだった。
式典はビシエラ山に造られた神殿の中にある、祭壇の前で行われる。
火の神ゴンドゥーラに国の発展を祈り、建国の祝福をいただく為、という名目だった。
そこには各国の要人が居並び、私たちもそこへ参列し、共に祈りを捧げるというものだ。
マリーにドレスアップをしてもらい、ヴィルと共に参列し、マリアはレジェク殿下と並んで参列していた。
マリアのドレスはレジェク殿下が準備したもので、彼女の可愛らしさを引き立たせるAラインのドレスに、白からピンクのグラデーションを基調とした春の花を想起させるデザインになっている。
髪もマリーににセットしてもらっていて、マリアはこの世界に来て初めてドレスアップしたのもあり、とても喜んでいたのだった。
レジェク殿下もご満悦そうだったわね。
私たちのすぐ後ろにはイザベルとニコライ様が参列している。
二人はドレスアップしているものの、二人とも私たちの護衛をする気満々で、似た者同士の二人に見えてしまう……結婚したら絶対息が合うと思うのだけど。
ゼフには引き続きソフィアとマリーの護衛を頼んでいた。
彼がそばにいてくれればソフィアも安心出来るものね。
そんな事を思いながら、式典が早く終わらないかなと考えていた。
神に一番近い地位にいるフィラメル国王陛下が祭壇の前へ進み、火の神ゴンドゥーラへ供物を捧げながら祈りを捧げている。
(ねぇ、私たちはここに立っているだけでいいの?)
(いや、陛下が祈りを捧げ終わったら、次は参列者がやらねばならない)
(同じようにやればいいのよね?)
(そうだ、分からなければ私がサポートするから)
(ありがとう)
私たちは一連の流れについて小声で確認する。あらかじめ聞いてはいたけれど、あまりにも陛下が時間をかけているので、自分たちもやるのか不安になってしまったわ。
そこで陛下が火の神へ祈りの言葉を捧げた。
「火の神ゴンドゥーラよ、ドルレアン国の更なる発展と安寧をここに祈り、我が国は永久に御身と共に在らん事を!」
国王陛下の言葉に呼応するかのように、ビシエラ山は緩い振動を繰り返した。
「おぉぉぉぉ!」「神がお喜びだ!!」「やはり陛下には神の御声が聞こえておるのだ」「ドルレアン国に祝福あれ!!」
各国の要人は驚き、ドルレアン国の者は口々に陛下の事を称え始める。
異様な雰囲気になった式典に少し恐怖を抱きつつ、自分たちの番になったので、ヴィルと共に供物を捧げ、祈りを捧げた。
これで終わった――――ホッとした瞬間、突然地面を突き上げるような地震が起きて立っていられなくなる。
――――ドオォォンッッ!!!――――
「きゃぁ!!」
「オリビア!!!」
20秒ほど続いた揺れは徐々に弱くなったものの、神殿にいる者たちが騒めき出す。
そして立ち上がった国王陛下が、ここにいる人々に対して、信じられない言葉を放ったのだった。
「なんという事だ……神がお怒りだ!ハミルトン王国の王族は我が国に災厄をもたらす者である!!」
「な、なんですって?!」
「バカな!!」
「我には神の声が聞こえる!!この者らを捕らえよ!!!」
すぐに神殿の者や衛兵がやってきて、私たちを取り囲んだ。
「オリビア様!!」「ヴィル!!」
イザベルとニコライ様が叫んでいるけれど、ここに剣は持ち込めないし、彼らもどうする事も出来ないわよね……この国では神の意向が全て。
そして私たちは、じりじりと祭壇の方へ追いやられていく。
(これって絶体絶命?)
(大人しく捕まる気はない。オリビアは私から離れないでくれ)
(ええ)
ヴィルと小声でやり取りをしている間も、どんどん祭壇の方へ追いやられていくので、退路がなくなっていく。
すると、私たちを取り囲んだ瞬間に地震はおさまっていき、ますます窮地に追い込まれてしまう。
(ウソでしょう……こんなにタイミングがピッタリな事、ある?)
(マズいな。完全に我らが神の意に反するものとされている。謀反人のようなものだ)
「おおお、やはりこの者たちは我が国にとっては災いでしかないのだ!神に捧げなくては!!」
ちょっと……神に捧げるって、生贄ってこと?!!
国王陛下の方を見ると、物凄く醜悪な顔をして笑っていた……そういう事ね。都合の悪い存在はさっさと追い出すか消してしまえというわけ。
多勢に無勢でやり返せないのが悔しくて堪らない。
どうせ捕まるならと、国王に向かって言いたい事を言ってやったのだった。
「何が神の鼓動よ、何が神の怒りよ。全部偶発的なものじゃない!!くだらないものに振り回されてたまるものですか!!!」
「黙れ!!神を愚弄する女は死、あるのみ!!」
「待ちなさい!!!!」
私たちの言い合いに、マリアがストップをかけた。
彼女の声には聖力がこもっているようで、ひと声で皆を黙らせてしまう。
「私はハミルトン王国の聖女……このような所業は人の道に反する事です。神がお許しになるわけがない」
「だ、黙れ、小娘!!神を騙るとは、重罪だぞ……神が許さないという証拠を見せろ!でなくば似非聖女として名を残すことになる……!!」
マリアの聖力が効いているのか、喋りにくそうな国王だったけれど、なんとか言葉を発していった。
でも国王の言葉にもマリアは動じる事はなく、余裕の表情だ。
どういう事?
マリアは背筋をピンと伸ばし、毅然とした姿勢で私たちのもとへ近づいて来る。
神殿の者も衛兵も皆、彼女の雰囲気に恐れを抱いているのか、彼女が近づくと後退っていった。
そして私の隣に立ち、こっそり耳打ちしていく。
(今から力を使ってデカい事をするから。私を信じて)
マリアの言葉を聞き、彼女の顔を見つめた。
瞳には自信と覚悟、そして怒りがにじみ出ていたので、私も腹を決め、ヴィルと共に頷いた。
私たちの反応に満足したマリアは国王の方へ振り向き、大きな声を上げる。
『この国はフィラメル国王が王座に就いている限り、国は廃れていくばかりだと神がお怒りです!!!!』
彼女の声が神殿全体に響き渡り、辺りはシンと静まり返った。
少し間があった後、小さな微動がしてきたかと思うと、先ほどとは比べ物にならない衝撃が神殿に響き渡る。
「さぁ、ショーの始まりよ」
こちらWeb版になります!
もし続きが気になったり、気に入って下されば、ブクマ、★応援、いいねなど頂けましたら励みになります(*´ω`*)
皆さまのお目に留まる機会が増えれば嬉しいです^^
オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。
彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。
何卒宜しくお願い致します<(_ _)>






