真夜中の訪問者
「ソフィア、マリー!ゼフも、ただいま!」
「「おかえりなさい!」」
2人が笑顔で駆け寄ってくれて、ゼフは私たちの姿を確認して頷いている。
ゼフがいれば大丈夫と分かってはいるけれど、無事な姿を見るとホッとするわね。
ソフィアを抱き上げると、ぎゅうっと抱きついてくれるので、きっと不安にさせていたに違いないと背中をさすってあげたのだった。
「お話、終わり?」
「ええ、これで明日の建国祭の式典や祝宴に参加すれば帰る事が出来るわ」
私の言葉にソフィアが満面の笑みを見せた。
そしてどこからともなくニコライ様の不穏な言葉がヴィルに浴びせられる。
「もちろん殿下も建国祭が終わればすぐに帰ってきますよね?」
「あ、ああ。もちろん……」
「帰ってきたらたっぷりとお仕事溜めてありますので、すぐに取り掛かっていただけますよね?人使いの荒い上司のせいで仕事が溜まってるんですよねぇぇ」
だんだんとニコライ様の顔がヴィルに近付いていき、ヴィルがその圧に後ずさりしている。
「あ、ああ……大変だったようだな、ニコライ」
「おかげ様で!新婚旅行だと浮かれて何日も休みを取った人は誰だったでしょうか……!!」
ヴィルの余計なひと言で、ついにニコライ様が激高なさり、ヴィルがシュンとしてしまったのだった。
やっぱりこの中ではニコライ様が最強なのではないかしら。
「ドルレアン国に来たからには私も建国祭の式典に出席しますので、必ず一緒に連れて帰りますよ」
「そこまでしなくともちゃんと帰るぞ」
「まぁ殿下が心配なのもありますが、私のパートナーも心配なのでね」
そう言いながらイザベルの方へ歩いていくニコライ様。
2人って、もうそういう仲なの?
「な……っ!誤解を招くような言葉は慎むべきです、ニコライ卿!!」
イザベルはニコライ様の言葉に顔を真っ赤にしている。
普段は何があっても表情が動かないイザベルだけれど、こんなに乱れる事もあるのね……凄く可愛い。
その様子がニコライ様を意識してるって言ってるようなものなのに、本人は全く無自覚なんだろうな。
「なかなか素直になってくださらないものですから、この後2人で親睦を深めたいと思いますが、皆様よろしいでしょうか」
「な、な、なにを……!!」
ニコライ様は有無を言わさず、イザベルをひょいと抱き上げて連れて行ってしまったのだった。
イザベルの断末魔が聞こえる……頑張って……!
「止めなくて良かったのだろうか」
ヴィルが少し心配そうに言ってきた。
彼女は常に冷静沈着、誰を相手にしていても氷のように表情が動かないし、並みの男性では敵うわけもない。
そんな彼女をサラリと連れて行ってしまうのだから、ニコライ様も色んな意味で只者ではないとは思うけど。
「きっと大丈夫よ。イザベルが本気で嫌なら戦闘態勢になっているでしょうし」
「そういうものか」
「そうそう」
一応女性として乙女心を教えつつ、気を取り直してレジェク殿下に先ほどの伝承について伺う事にした。
聖女に関してはどうやら北の国に古い文献が残されているのだとか。
聖ジェノヴァ教会もそこから召喚の術を研究したのかしら……デラフィネも北の地域に咲く花。
いずれ訪れてみたいなと思ってしまう。
私は、マリアをどうにかして戻してあげたいなという気持ちが強くて、諦められずにいる。
本人はもうこだわっていないとは言うけれど……ご両親だって心配しているに違いないもの。
私は命が尽きてこの世界に来た人間だけど、マリアは違う。
本来なら日本で生きる人生があったはずなのに、無理矢理連れて来られたのだから……帰れる場所があるのなら帰してあげたい。
そう思うのに、当の本人は「へー、でも北の国まで行くのはちょっと面倒くさいかも。寒いの苦手」とあっけらかんとしている。
そこまで帰りたいわけじゃない……とは思えないけれど、今度じっくり話をしてみよう。
「そうだ、イザベルとニコライ様も建国祭に出るんだし、マリアも出ましょうよ」
「私?!でもドレスとか持ってきてないし無理だよ~」
「私の予備とかなかったかしら」
「それなら、私がご用意します」
そう言ってくれたのはレジェク殿下で、マリアの方へ歩み寄り、彼女の手を取った。
「私にはパートナーがいませんのでマリアがパートナーになっていただけませんか?」
「いいけど……本当にいないの?」
「はい」
「仕方ないな~~ドレスは可愛いのでお願いね」
「承知いたしました」
レジェク殿下はニコニコしながらマリアの要求を聞き入れている。
可愛いところあるじゃない。
「明日は朝が早いし、夜は早めに寝ましょうか」
皆が頷き、その日はゆっくりした後、早めの就寝となったのだった。
ソフィアを横に寝かせ、彼女が眠った事を確認し、私も布団に潜り込む…………その日は気が張って疲れていた事もあって、すぐに眠りに落ちていった。
もうすぐハミルトン王国に帰る事が出来る。
この国に来る前は何が起きるのやらと思っていたけれど、色々な事実が明らかになり、国としても大きな収穫があったと思う。
充実感に包まれて、いつもより心地よい眠りを貪っていた。
その時、不意にギシッという音がしてハッと目が覚める。
隣にはソフィアがスヤスヤと寝息を立てて眠って……いない?なぜ?!
咄嗟に動こうとするも何か違和感を感じ、首にヒヤリとした感覚がある事に気付く。
本能的に動いてはいけないと警鐘が鳴っている気がする。
出来る限り体を動かさずに視線だけを上に動かしていくと、枕元にいたのは驚くべき人物だった。
「…………ラス……」
「動かないでくださいね。血が吹き出ちゃいますから」
天使のような笑みで恐ろしい事を言ってくる。
私の首にある冷たい感覚……それは彼が小剣を突き立てていたのだ。
月明りに照らされ、ラスのふわふわとした髪が光り、異様な光景に見えた。
そして片腕には眠っているソフィアが抱かれている。
「あなた……ソフィアをどうする気?」
私が質問をすると、グッと小剣が首に食い込む感覚がする。
「…………っ」
「それはあなたに答える必要はないかと思います。彼女と血の繋がりもないのに」
この子はどこまで知っているのだろう。
まさか最初から知っていて私たちに近付いているの?彼の目的をドルレアン国も分かっていて私たちに近付けたの?
いえ、ソフィアを連れて行く事はドルレアン国に伝えていないのだからこの国が関わっているとは考えられない。
じゃあ、なぜ……首に剣を突き付けられている恐怖と、ラスの不可解な行動に頭が混乱して考えがまとまらない。
ただ1つ言えるのは、ソフィアの事は命に代えても守る、ただそれだけよ……!
血の繋がりがないから何だって言うの。
私はこの世界に転生してこの子に出会い、自分の子供を失った私にとって、彼女の存在にどれだけ救われてきたか。
「ソフィアを返して」
「ふふっ、おかしな事を言うなぁ。それはこちらのセリフ」
息がかかるほどの距離まで顔を近付け、嬉しそうに笑うラスをただ見つめるしか出来ない。
そして彼のニッコリと笑う口が驚くべき言葉を放った。
「僕のお姫様を返してね」
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オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。
彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。
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