アレクシオス陛下からの、親書…?
「こちらは我が国の国王陛下からの親書にございます」
国王陛下は恐る恐る手にし、ゆっくりと開いた。
役目を終えたニコライ様は立ち上がり、イザベルの横に立って控えている。
私には何が書かれているのかまるで見当もつかないけれど、陛下の様子をジッと観察していると、読み進めている内にどんどん顔色が悪くなり、最終的に親書をハラリと落としてしまわれたのだった。
(ねぇ、何が書かれているの?)
(さぁ……でもこの国にとって気持ちのいい事ではないのは確かだ)
小声で聞いてみたものの、ヴィルはこの状況を楽しんでいるようにも見えて、私は国王陛下の様子をさらに観察する事にした。
落とした親書を次は王妃殿下が読み、横からレジェク殿下も盗み見ながら、王族の方々が顔を青くしていくので気になって仕方ない。
「父上は何と仰っておりますか?」
「………………」
国王陛下が黙ったままなので、代わりにレジェク殿下が答え始める。
「此度の石炭の件、誠に遺憾である。レジストリックにも調査団を派遣したとの事。我が国にも調査団を派遣し、もし事実ならドルレアン国への支援、並びに和平条約も白紙。ハミルトン王国の領海を我が国の船が通過する事も禁ずる、と……」
「そうですか……父上がそのように仰るのなら、もし我が国の領海を通る貴国の船があれば容赦なく砲撃されてしまうでしょう。同盟国にもこの話は知られる事となるでしょうし、船での輸送はなかなか厳しくなるでしょうね」
ひえ……そんな内容が書かれているとは…………アレクシオス陛下って、見た目はとても優しそうなのにやる事はとても優しくないのよね。
ヴィルをここに派遣したのも何かしらの事実(弱味)を突き止めてくれるだろう、と考えての事だと思ってしまう。
「陸路での輸送にはナヴァーロ王国を通る必要がありますし……まさかナヴァーロ王国まで関係しているわけではありませんわよね?」
私がナヴァーロ王国の名を出すと、国王陛下はさらに顔を青くし、息も絶え絶えの様子になる。
「それはない!ナヴァーロは……あの女王は…………」
ナヴァーロ王国の女王は、とても野性味溢れる女性だというのは聞いた事があるけれど、オリビアの記憶にお会いした記憶はない。
「では女王に確認をしてみた方が良さそうですね」
後ろからニコライ様がそう言うと、陛下は「ひぃぃぃぃいいやめてくれ!!!あの女王に知られたら!!」と死刑宣告を受けた囚人のように取り乱してしまったのだった。
この様子ではナヴァーロは関係なさそうね。
ナヴァーロとしてもこそこそとレジストリックと取引をしていたというのは、面白くない情報になる。
大国二つに睨まれるような事になれば、この国にとっては死活問題だ。
「伯父上、親戚のよしみでまたお願いしますが、炭鉱で見つけた我が国の民を連れて帰らせていただきますね」
「あ、ああ……分かった…………連れて行くがよい」
良かった……!これで堂々と連れて帰る事が出来るわ!
私がヴィルの方を向くと、横顔だけれどホッとした表情を浮かべていた。
ヴィルとしても緊張していたのよね……国王たちにYesと言わせる為にあの手この手を考えていたに違いない。
私はお疲れ様の意味を込めて、彼の手をぎゅっと握った。
ヴィルも握り返してきたので、気持ちが伝わったと感じて胸が温かくなる。
そんな我々の雰囲気を一変させるような言葉をムンターニャ宰相が言い始めたのだった。
「ヒヒッ、それはそれとして、ヴィルヘルム王太子殿下。そちらにお座りになっているお方、もしや古の伝承に記されている聖女様ではありませぬか?」
「…………何の話だ?」
「いえ、先日そちらの女性が我が城を見学している際、岩壁に話しかけたり、体が突然光り始めたりしておりまして……特殊なお力をお持ちな様子でした」
私たちが炭鉱に行った日の話だわ。
マリアは皆と別行動でビシエラ山について調べてくれていたと話していたけれど、まさかムンターニャ宰相に見られていたとは。
「体の光りがどんどん増していき、それと共にビシエラ山からの神の鼓動もおさまっていきました。この方はビシエラ山に宿る神と交流出来るお方……それは古の聖女様以外おられません!!」
一人で盛り上がるムンターニャ宰相に、当の本人であるマリアが待ったをかける。
「ちょっと待って。勝手に話を進めないでくれない?!」
「は…………ぃ……」
ムンターニャ宰相は、マリアの剣幕に驚き戸惑ったような返事をしたのだった。
マリアの言葉がとても普通の女子高生のような感じね……笑ってはいけないと思いつつ、堪えるのが大変。
納得出来ない彼女は、ムンターニャ宰相に質問を続ける。
「確かに私は聖女って言われているけど、ビシエラ山に宿る神と交流したわけではないし、そもそも古の伝承って何?」
「それは……ここでお伝え出来る事ではありませんので、別室で……ヒヒッ」
宰相はマリアに内々にお話ししたかったようだけど、レジェク殿下はムンターニャ宰相を無視し、マリアにその話をし始めた。
「北の国に伝わる古い言い伝えです」
「殿下!!」
「特に伝えられない内容ではないと思いますが?マリアには知る権利がありますし、ハミルトン王国に身を置いているのですから、この場で話すのは問題ありません」
「…………ッぐ……!」
この宰相、別室で話すって……マリアに何かしようと企んでいたのではと思ってしまう。
彼女が聖女である事実はもはや隠しきれないけれど、こういう良からぬ事を考える輩が湧いてくるのね……。
それにしてもレジェク殿下が……頼もしい……!
それに対して宰相と王妃殿下がまくし立て、レジェク殿下に迫ったのだった。
「殿下……!あなたのなさっている行動は国益に反するものですぞ!我が国の事を考えるなら、勝手な行動は慎むべきです!」
「レジェク、そなたはどちらの味方なのだ?!」
彼らの剣幕にも相変わらず殿下の表情は変わらず、飄々と答える。
「どちらの味方など考えて行動をしておりません。私は私のすべき事の為に動いているだけです、母上。我が国の事を考えるのならば、そなたのような行動も慎むべきですね。ムンターニャ宰相」
「聡明な王太子殿下がおられるようで、ドルレアン国の未来は明るいですな」
ヴィルが嫌味まじりに会話に入ると、王妃殿下と宰相は顔を赤くしながらこちらをジロリと睨んできたのだった。
怖い!!
我が国の国王陛下からも圧力を受けているにも関わらず、そこまで強気に出られるのってある意味凄いわ。
こんなやり取りをしていても時間の無駄なので、私は早々にこの話を切り上げた。
「ゴホンッ。とにかくその話は後々レジェク殿下に聞くとしましょう。よろしいですわよね、殿下」
「もちろんです」
「ではお話はまとまりましたし、我々はこの辺で」
子供たちを連れて帰る交渉も上手くいったし、ハミルトン王国の国王陛下が石炭の件も動いてくれたので、我々としてはこれ以上話す事もないし、話を切り上げた。
ヴィルも頷いてくれたので立ち上がり、去ろうとすると、王妃殿下が声を荒げたのだった。
「待て、あまりにも一方的ではないか!こんな事が許されるわけがない!!」
「…………一方的なのはどちらか、よくお考えください。人身売買を行っていたのも、他国と密かに取引を行っていたのもあなた方です。許す許さないはこちらが決める事……失礼」
ヴィルの言葉にドルレアン国側は何も言い返す事が出来ず、私やマリア、後ろに立っていたニコライ様やイザベル、子供たちも皆ぞろぞろとその場を後にしていく。
そして――
「では、私も失礼いたします」
「なっ、レジェク!待つのだ……っ!」
王妃殿下の言葉が後ろから聞こえていたけれど、レジェク殿下は振り返る事はせず、私たちと共に部屋を退出したのだった。
~・~・~・~・~
ひとまず一件落着~~と思いきや……大きな波があと二波くらいありますので、最後までお付き合いいただければと思います!<(_ _)>
第三部、残り6話程度になります!^^
こちらWeb版になります!
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オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。
彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。
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