国王との会談
水遊びから無事に王城へと戻り、レジェク殿下に子供たち用の部屋を用意してもらう事にした。
ここには温泉もあるので体を綺麗にしたり衣服を整えたり、マリーにも手伝ってもらって色々とバタバタしていると、あっという間に寝る時間になったのだった。
ベッドにソフィアと寝転がり、彼女を寝かしつけて明日について思いを馳せる。
いよいよ国王と二回目の謁見…………絶対にもっと連れて来られた人達がいるはず。
この国にいる間に大きくなった子達もいるでしょうし。
でも戸籍などがないこの世界で、出身国を見定める事は難しいわよね……その辺は慎重に動かなくては。
どちらにしてもあんな危険な現場で子供たちを働かせているなんて、絶対に間違っているわ。
国王にも直談判しないと。
あちこちから連れてきて自国で働かせているなんて……だんだんと怒りで気分が高揚してくる。
ダメね、夜中に興奮すると眠れなくなりそう。
あれこれ考えておくのも大事だけれど、明日に支障が出ても本末転倒だし、今日はもう寝ましょう。
気持ちを切り替えてベッドに潜り込むと、日中に動き回ったおかげであっという間に眠りに落ちていったのだった。
~・~・~・~・~・~
翌日、マリーとゼフにはソフィアの事を頼んでおいて、準備を済ませた私はヴィルと合流し、マリアとイザベル、炭鉱から連れて来た子供たちも一緒に国王の待つ応接間へと向かう
昨日救出した子供たちは3人。
一番年上で私たちと会話をしたのがレイバン12歳、次に10歳の女の子のビュカ、一番小さい男の子が7歳のバラトだ。
ビュカの可愛い女の子の手が労働によって真っ黒になってしまっていて、昨夜は温泉でしっかりと綺麗にしてあげた。
年ごろの女の子なのに……レイバンは2人の事をとても気にかけていて、ビュカが女の子らしい服装をしているのを見てちょっぴり照れていたので、老婆心を出してしまいそうになるわね。
私がそんな事を考えていると、応接間へと到着し、中から扉が開かれる。
「ちょうどいい頃合いだったようですな。ようこそおいで下さいました……ヒヒッ」
中から扉を開いてくれたのはこの国の宰相であるムンターニャ宰相だった。
相変わらずねっとりとした喋り方と笑い方…………仲良くなれる気がしない。
「ムンターニャ殿、お気遣い感謝する。皆、入ろうか」
「ええ。さぁ、あなたたちも」
私に促されると子供たちはおずおずと室内へと入っていった。
そして中には国王夫妻、隣りにレジェク殿下、そのすぐそばにラスが立ち、彼らの後ろには貴族と思われる人物が数人立っていて、ムンターニャ宰相も合わせて国の要人がズラリと並んでいる。
でもヴィルはさすがに王族といった態度で、臆する事無くソファへと進んで行ったので、私もあとに続いていく。
子供たちは少し怯えている様子だわ……でもレイバンは何とか顔を上げ、瞳には強い意志を湛えているように見えた。
この子は芯の強い子ね。
私も怖気づいてしまうわけにはいかない、落ち着いてこの国と対峙しなくては。
私の隣りにはマリアが座ってくれて、イザベルは子供たちと一緒に後ろに並んでくれていた。
「さっそくだが、ヴィルヘルム。そなたの国が言いがかりを付けていた人身売買について、話があるとレジェクから聞いた」
「言いがかりではありません、事実です」
「たとえ我が国へ連れて来られていたとしても、我々が関わっていたわけではないのに、これが言いがかりではなく何だと言うのだ?のう、妃よ」
「ええ、本当に。全く身に覚えがない事をさも我々が指示していると言わんばかりの態度。ハミルトン王国とは単細胞の集まりなのかもしれませぬ。ほほっ」
あまりにも腹立たしくて何か言い返してやりたいけれど、ヴィルの方を見ると、あまり表情が動いていないので必死に怒りを堪えた。
「今日はそのような話ではなく、昨日炭鉱にて我が国の民を発見したという話をしに来たのです。連れて帰りたいと考えておりますが、了承していただけますか?」
「ダメだ、と言うたら?」
「そのような選択肢はありませんので、了承していただかねば陛下がお困りになるだけかと存じますが」
ヴィルがとても強気な事を言うので、隣りでドキドキしながら見守っていると、国王陛下よりも王妃殿下の方が烈火のごとく怒りを爆発してきたのだった。
「おのれ、ヴィルヘルム……!そなたのような小者が、口の利き方に気を付けよ!!」
「私はいつも気を付けております。王太子として恥ずかしくないように接しているつもりですし、常に暗殺の危機にさらされておりますので、自身の身辺には特段気を配っております……特にそこのラスクルの存在など」
「な……っ!!」
王妃殿下も驚きの表情を見せているけれど、私もヴィルが突然何を言い出したのか信じられず、彼の顔を凝視してしまう。
ヴィルはゆっくりこちらを見て、少し申し訳なさそうな表情をした。
ずっと気付いていて、私に言えなかったのね……私がソフィアから離れられなくなってしまうから。
「いやですね~~そんなとばっちりを向けないでください」
「炭鉱の事故現場で、お前がこの国の者ではない事は分かっている。自身の発言には気を付けるんだ。それにお前が時折見せる言語の訛りがずっと気になっていて、ようやく思い出した……その訛り、レジストリック人のものだな?」
「………………」
レジストリック――――カサンブリア王国から分裂した国の1つだわ。
ハミルトン王国とナヴァーロ王国もレジストリック王国と一緒に、かつてはカサンブリア王国の1つだった。
ヴィルは同盟国の事なので聞いた事があったのね……ヴィルに尋ねられてラスはジッと黙っている。
なぜレジストリックの者であるラスが通訳に来ているの?ヴィルの暗殺の為にわざわざ?
何だか腑に落ちなくて、何か違う理由があるような気がしてならない。
「石炭の主な取引相手がレジストリック王国、なの?」
私がポツリと呟くようにヴィルに尋ねると、目の前の国王夫妻の表情が一変したのだった。
そういう事……ハミルトン王国から援助を受けつつ、影ではレジストリック王国にすり寄り、密かに密な関係を築き始めていたというわけ。
石炭についてはハミルトン王国は全くの蚊帳の外。
こんな事をヴィルのお父様である国王陛下の耳に入ったら、とてつもなくマズい状況になるのではないかしら。
「まぁ、この事はすでに調査済みで、父上の耳に入っておりますがね」
「なんだと?!」
「ヴィルヘルム……なんと恩知らずな……!!」
国王陛下と王妃殿下は驚きと怒りで立ち上がり、ヴィルに対して怒りをぶちまけようとしていた。
そこへ突然ノック音が響き渡る。
――――ゴンゴンッ――――
少し大きめなノック音なので皆が止まり、扉の方へ振り返ると、「失礼します」という声とともに扉が開かれた。
私は声を聞いた瞬間、誰が入ってくるのか分かり、ヴィルの方へ振り向く。
「まさか――――」
「ああ、相変わらずタイミング抜群だな、ニコライ」
「我が国の王太子殿下がとてもお世話になっていらっしゃるので、お土産を片手に馳せ参じました」
ニコライ様はニコニコしながら歩いてきて、国王陛下の下へ行き、膝をついてその手に持っていた手紙のようなものを差し出したのだった。
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オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。
彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。
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