私の婚約者は今日もカッコいい ~王太子Side~
ドルレアン国に着いて一番初めにしたのは、国王夫妻への謁見だった。
この国の国王は私の母上の兄……伯父にあたる人物だが、全く世話になった記憶もないし、母上の事も疎んじているのか会う度に虫けらを見るかのような目を向けてくるので、伯父と思った事などほぼない。
案の定挨拶をしても快い言葉などかけてくる事はなく、むしろ態度は悪化していた。
何よりオリビアにすり寄っている姿に、私の中では嫌悪感が頂点に達し、その場で切り刻んでやろうかと思ってしまう。
しかしオリビアが何語か分からない言語でまくし立て、伯父上があっけなく下がっていった姿が見られたので、溜飲が下がったのだった。
さすがオリビアだ……彼女がカッコよくて眩しい。
それに私の為に言い返してくれたのだと思うと、胸が喜びで満ちてくる。
しかし彼女が使った言語は何語なのだろう?
全く聞いた事のない言語だったので、今度一緒に学んでおく必要があるな。
王太子が婚約者が使う言語を知らないというのは、情けない話だ。
そんな事を考えながら、その日は温泉にも浸かり、翌日はドルレアン国の王都を観光する事になった。
その観光中での事。
腕相撲大会に参加する事になった私とゼフ、レジェクは、大会の待合場に行くと、参加する巨漢たちが我々を見て笑い飛ばしてくる。
「兄ちゃん、そんな細腕で俺らと勝負するつもりなのか?」
「はっはっはっ、やめとけ、やめとけ!怪我して終わりだぞ!」
確かに見た目だけなら誰も我々が勝つなどと思わないだろうが、特にゼフは絶対に負ける事はないと思っているので、勝負は最後まで分からない。
「そうやって笑っていられるのも今の内だな」
私の言葉にゼフが頷く。
すると笑っていた大男たちは鋭い眼光で我々を睨み、殺気を放ってきた。
ここで受けて立ってもいいのだが、それではただ騒ぎを起こしただけの人間になってしまう。
そしてオリビアに呆れられて終わるだろうから堪えなければ。
呆れ顔のオリビアもまたいいのだが、絶対に優勝して惚れ直させたい。
トーナメント方式で行われ、ゼフは予想通りあっという間に勝ち、いよいよ自分の番になったのでステージに上がった。
先ほど大笑いしてきた大男が対戦相手だ。
「よお、さっき威勢のいい事を言ってくれた兄ちゃんじゃねぇか。オレと対戦なんて運がねぇな」
「それはどうかな」
「強気な態度だけは褒めてやるよ。怪我をしない内にやめとけと言いたいところだが……」
「あいにく、棄権という文字は私の辞書にはないんだ。諦めてくれ」
私の全く引かない態度に大男がわなわなと戦慄き、またしても殺気を放ってくる。
「後悔しても遅いぞ……!!」
「後悔などした事はない」
私の人生で後悔したのは1つだけ、オリビアに対してだけだ。
彼女に対して以外で後悔する事などあり得ない。
そのオリビアの美しい声が、ギャラリーの中から聞こえてくる。
「ヴィル――――!!頑張って――!!!」
女神の声が聞こえる。
彼女の怒声も最高だが、これもまた最高だ……よし、一瞬でキメる。
レフェリーが私と大男の手を組ませ、始まりの合図と共に勝負が開始され――――勝負は私の勝利で呆気なく決まる。
赤子の手を捻るような、瞬殺だった。
「フッ、他愛もない」
「ぐっ……くそぉぉぉおお!!」
私が負けるなど(ゼフ以外に)あってはならないからな。
日々の鍛錬が実を結んでいるという事か。
そんな事を考えていると、後ろから先ほど対戦した大男がドシドシとやってきて、目の前に膝をついた。
「な、なんだ?」
「ア、アニキィィィ!!アニキと呼ばせてくだせぇ!!!」
「なに?!」
突然の展開に驚き固まっていると、後ろからゼフに肩をポンとされて哀れまれてしまう。
何が起こっているんだ…………男にモテたいという願望はない……!
結局その大男は私とゼフの決勝戦が終わったあともくっついてくるので、優勝したゼフに全て任せて何とかかわす事が出来たのだった。
ゼフにはその他にも大会に参加した鉱員たちと色々話してきてくれと伝えている。
この大会に参加した者の多くが炭鉱で働く者で、ドルレアン国でこれほどまでに石炭の採掘が盛んであったとは思ってもいなかった。
父上は、このきな臭い動きを嗅ぎつけていたのか?
だから私に色々見て回ってこいと言ったのだろうかと思ってしまう。
「この国には炭鉱夫が沢山いるようではないですか、レジェク殿下。我が国としても実に興味深い。ぜひ現場を見る機会を設けていただきたいのですが」
「なに?」
やはりレジェクからはいい返事は返ってこない。
追い打ちをかけるようにオリビアからも圧がかけられ、明らかに動揺している状況だった。
我が国と石炭の取引がないにも関わらず、採掘された石炭はどこへ運ばれているのだ?
国王が神と同等とされるこの国では、王太子の立場すらあまり役に立たないように見える。
翌日の炭鉱見学は思いの外スムーズに進み、特に怪しい状況もなく終わった。
子供が働かされている状況を見ずに済み、ホッとする気持ちの反面、ここまで何もないと気持ち悪さもある……しかしその夜、マリアからビシエラ山についての調査報告を受け、私の杞憂は見事に吹き飛ばされてしまったのだった。
「さっきは全部伝えなかったけど、ビシエラ山のエネルギーを全て散らせたわけじゃないから、危険な事には変わりないの。物凄い量のエネルギーだったから、本当に一部分だけ……多分私たちが滞在している間は問題ないとは思うけど」
あまりにもスケールの大きな話に、さすがの私も驚き固まってしまう。
オリビアたちがいる場ではあえてこの話をしなかったという事か。
ビシエラ山の危険を訴えたところで、いたずらに皆を不安にさせるだけと判断したのか……いつも直情的で何も考えていなさそうなのに、とつい思ってしまう。
マリアはマリアで色々と考えているのだな。
誰もが成しえない事を一人の少女がやってのけてしまうのだから、感心するしかない……聖女の力というのはそれほどまでに強力で得がたいものなのだろう。
確かに大司教が人生をかけて召喚したのも頷ける。
聖女のいる国は栄えると言うし、我が国が安定してきたのもマリアのおかげなのだろうな――――私も態度を改めるべきなのかもしれない。
「そうか……それはこの国の人にも伝えるのか?」
「うーん、でもきっと伝えても信じないわよね。レジェク殿下には伝えたいんだけど、あそこまで神の鼓動だと信じてるからなぁ。本当は火山のエネルギーが地中で動いてるだけなんだけど……それも回数が増してきたら危ないのに、うっとりしてるくらいだし」
確かにな。
伝えたところで嘘を振りまく聖女として怪しまれるだけか。
次の瞬間、マリアのすぐ近くからレジェクの声が聞こえてくる。
「何の話です?!ビシエラ山が何だと言うのです」
「あ、いや、その…………」
今の話、すっかり聞かれていたな。
レジェクは半分怒りの表情を見せているし、マリアは言いにくそうなので、私からハッキリと伝える事にした。
どの道内緒にしていたところでドルレアン国の為にはならない。
「マリアが調べてくれたところによると、ビシエラ山はいつ噴火してもおかしくない状態らしいです。速やかに国として対策を練る事をお勧めしますが」
「……それは本当なのですか?マリア」
「うん、本当なの。今日一日、調査してみて……私の聖力で少しは緩和出来たとは思うけど。この地震のような微動は神の鼓動ではなくて、ビシエラ山に溜まったエネルギーが動いているだけ。このまま神の鼓動で放っておいては民が――――」
「もし、あなたの言う事が本当だとして、どうしろと言うのです?!この国ではずっと、そう信じられていたものを……どう説明するのです。聖女がそう言ったからと言えば皆が信じるとでも?」
「それは……」
2人の会話を聞いていて、まぁ、当然の反応だなと冷めた目で見つつ、少しマリアが不憫に思えたのでレジェクには同じ王族としての言葉をかける事にした。
「レジェク殿下、マリアはこの国を心配して伝えただけ。王族としてどうしていくかを決めるのはあなた方だ」
「言われなくとも考えます。あなた方にはこれ以上、我が国の事に口を出さないでいただきたいですね。失礼!」
レジェクとしてもどうする事も出来ない事実と現実に、あのような態度になってしまったのだろう。
マリアも落ち込んでいるが、我々に出来るのはここまでだ。
あとは当事者であるこの国がどうしていくのかを決めるだけ……隣国として、母上の母国でもあるから出来る限りの事はしてやりたいが、それもこの国がその現実を受け入れられなければ、何もしてやる事は出来ない。
それに少しは自分の父親がしている事にも異を唱える事が出来なくては、言われるがまま受け入れている状況ではどの道この国の未来は危うい。
「我々の出来る事は限られている、何かあれば彼らが対応するしかない」
マリアの肩をポンッと軽くたたき、ひとまず彼女を部屋へと送り届けてオリビアのもとへと戻っていったのだった。
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オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。
彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。
何卒宜しくお願い致します<(_ _)>






