ドルレアン国四日目は水遊び
ヴィルとマリアが出ていった後、少ししてから扉の外から誰かの声が聞こえてくる。
「なんだろう……外で誰かが喋ってる?」
「少々お待ちください」
イザベルが扉の近くに寄って行き、耳を欹てると、シンと静まり返る室内にレジェク殿下の声が聞こえてくる。
どうやらビシエラ山についてマリアやヴィルがレジェク殿下に伝えているような話だった。
私たちにはエネルギーを少し鎮めたという話だったけれど、この火山はゆくゆくは危険だという話をしているようね。
「我々に聞かせたくはない話なのでしょうけど、筒抜けになっちゃってますね」
ラスがこの状況を面白がって笑っている。
マリアは、この部屋にはソフィアもいるし、きっと皆を怖がらせたくなかったのよね。
「まぁ聞いていないフリをしてあげましょう。レジェク殿下は当事者だから知らなくてはならないわけだし」
マリアは自然の力を感じるから、放っておけないでしょうね。
優しい子だし……なんとかしてあげたいんだと思う。
まだ建国祭まで数日あるから、明日は何か気晴らしさせてあげたいな。
「ねぇ、ラス。この国ってすごく暑いから、どこかで水遊び出来る場所はない?」
私の質問に少し考えたあと、ラスは思いついたのか良さそうな場所を教えてくれる。
「水遊び出来る場所、ありますよ!海側へ行くのに少し移動の時間がかかりますけど、川も近くて涼しい場所が。家族連れも多いですし」
「いいわね!明日は皆でそこへ行きましょうよ!お昼ご飯も持っていけば、ちょっとしたピクニックみたいで楽しいんじゃないかしら」
「行きたい!」
私の言葉にソフィアが笑顔で応えてくれる。
子供は水遊び、大好きだものね!
イザベルも心なしか頬を染めていて、ウキウキしているように見えるわ。
「じゃあ、私が皆様のお昼ご飯をご用意させていただきますね!」
「ありがとう、マリー!」
明日の朝にでもマリアも誘って、皆で行けば良い旅の思い出になるわよね。
皆で明日の水遊びの事を話しながらワイワイ過ごし、ドルレアン国三日目の夜は更けていったのだった。
~・~・~・~・~
翌日、その日も天気は快晴。
絶好の水遊び日和だった。
マリーは早朝から準備に勤しみ、私たちも着替えやタオル類などの荷物を用意し、準備万端で馬車で出掛けたのだった。
「水遊びなんて楽しみ~~こっちの世界に来て初めて!」
マリアには今朝、水遊びについて伝えると、物凄く目を輝かせて喜びを全身で表し、爆速で準備をしてきた。
本当ならまだ高校生だものね、こういうのが楽しい年ごろよね。
皆の為に聖女としての務めを果たすのもやりがいを感じているだろうけど、もう少しその年齢を楽しむような事をさせてあげたい。
「お昼はマリーが特製のお弁当を作ってくれたから、皆で食べましょう」
「わーい!」
マリアはソフィア以上に楽しそうにしてるかも。
ソフィアもソワソワしていて、とても楽しみにしているのを感じる。
馬車は女性陣と男性陣で分かれ、男性陣の馬車にはヴィルとゼフ、ラスにレジェク殿下が乗っている。
昨日の様子からレジェク殿下が来るとは思わなかったけれど、他国からの要人に何かあったらという事で、付いてきてくれるらしい。
なんだかんだ律儀よね……あの国王より、レジェク殿下が治めた方が国は良くなっていくと思う。
本人は自分に自信がなさそうで、自分なんかが、という姿勢なのよね。
ビシエラ山の事についてもレジェク殿下がトップに立ってくれたら何か対策とか考えてくれそうだけど、今の国王じゃ期待出来なさそうで……いつの時代もトップが無能だと苦労するのは下の者だわ。
そんな事を考えていると、王城から2時間ほどで森の入口付近にある湖の畔に着いたのだった。
「木陰もあるし、水遊びも出来て、素晴らしい場所ね!」
私が感動していると、隣りでラスがこの湖について解説してくれる。
「湖に見えますが、水深はそれほど深くないので小さな子供でも遊べます。ソフィアも楽しめるでしょう」
「うん!」
ラスはちゃんとソフィアの事も考えてここに連れて来てくれたのね……やっぱり警戒したりして悪かったかしら。
ベンチなどもそこかしこにあり、家族連れも沢山来ていて大いに賑わっていた。
祭りにはあまり子供連れの家族は少なかったけれど、王都を離れれば平民の子供たちが遊んでいる姿がある。
私はその光景に心底胸を撫でおろした。
良かった……この国にもちゃんと”日常”がある事が分かって。
「よし!じゃあ遊ぶわよ!!」
私が声を上げると、皆が湖に向かって駆けて行ったのだった。
外の気温は高いけれど、水は冷たくて気持ちいい!!
生き返るようだわ~~この世界には水着はないので水中に浸るわけにはいかないけれど、足だけでも浸けていると体温が下がっていってる感じがする。
ソフィアは近くで遊んでいた子供たちと遊び始め、水をかけ合っていた。
ラスも仲間に入っている姿を見ると、年齢は分からないけれど彼もまだ子供なんだなと思ってしまう。
イザベルは真剣な表情で、珍しい貝を探して集めている。
私はヴィルとマリアと波打ち際で砂の城作りに勤しむ……ていうかヴィルの手先が器用なのか、城の造形が素晴らしくなっていくんですけど?!
「ねぇ、こういうのやった事あるの?」
「いや、初めてだ」
「そうよね……それにしては凄すぎない?」
王太子が砂遊びしているところなんて思い浮かばないから、初めての経験なのだろうと思っていたのに、達人みたいな造りの砂の城を作ってしまい、周りの注目を一気に集めてしまっている。
「ねぇ、見て!私の傑作を!!」
マリアに声をかけられたので目を向けると、ちんまりとした可愛らしい城が作られていたので思わずふき出してしまう。
「すっごく可愛いお城……ふふふっ」
「これはまた……奇妙な城ですね」
いつの間にかレジェク殿下もいて、マリアの城をまじまじと見ている。
「ちょっと――奇妙って何よ!!こんなに可愛らしい城は世界に1つだけなんだから!」
確かに可愛らしいと言えば可愛らしい……でも城と言われなければ、ただのお家というか、ドーム球場みたいな丸っこい感じ。
そんな事を考えていると、レジェク殿下がさらに追い打ちをかけてくる。
「奇妙というか、珍妙?」
マリアは憤慨し、「コラ――!!」と言いながら、言い逃げしたレジェク殿下を追いかけて行った。
私は、他国の王太子を追いかけ回せるのはマリアくらいかもしれない……と遠い目をしながら思ったのだった。
そうやって各々楽しんでいるとあっという間に時間は過ぎ、お昼ご飯の時間がやってくる。
「そろそろお昼にしましょう!」
「「はーい!」」
マリアとソフィア、ラスが声を合わせて返事をする。
すっかり子供の顔をしちゃって、みんな可愛いわね。
「あ~~お腹空いた!マリーさん特製のお弁当、美味しそう!!」
「本当ね!朝から大変だったでしょう」
「いえいえ、皆様の為に張り切って作らせていただきました!」
やっぱりマリーには敵わないわね。
敷物の上に素晴らしいランチを広げ、皆で頬張りながら、穏やかな時間がゆっくりと過ぎていったのだった。
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オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。
彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。
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