炭鉱へ出発
私たちが腕相撲大会の話で盛り上がっている最中もレジェク殿下は終始無言で、お城に戻った時にようやく少し言葉を発したのだった。
「では、私はこれで……明日の朝、お迎えに上がります」
やっぱり笑顔がぎこちない。レジェク殿下ってあまり隠し事が出来ないタイプかもしれない。
建国祭の時もすぐに感情をあらわにした事を思い出す。
私はそんな殿下に、楽しみにしているといわんばかりに満面の笑みで応えた。
「感謝いたします。お待ちしておりますわ」
部屋に戻り、その夜は皆で私の部屋でまったり過ごす事になった。
昼間は観光に腕相撲大会ととても体力を使ったし、暑かったので体力を消耗してしまったものね。
そう思っていたのに……マリアやソフィアはまたカードゲームで盛り上がっているし、そこにイザベルやマリーまで加わって、皆とても元気だ。
私が体力なさすぎるだけ?
とにかくこの国は暑くて部屋も盛り上がって熱気があるので、涼むためにバルコニーに移動する事にしたのだった。
「はぁ…………涼しい。あ、ヴィル。ここにいたのね」
そういえばヴィルの姿が見えないと今気付いたけれど、あまり気にしていなかったとは言えない。
「オリビア、涼みにきたのかい?」
「ええ、この国は本当に暑くて。慣れない者には辛いわね。夜だと涼しくて外の空気が気持ちいい」
日本のようにエアコンがあるわけではないし、もちろん涼しくなる魔法とかもないから……夜風が肌を掠めていくのがとても心地良くて、髪の隙間を通り過ぎる風を感じながら、夜の王城からの景色を堪能する。
「ここからもドルレアン国の景色がよく見えるわね」
「そうだな……」
こうやって夜景を見ていると、普通の国にしか見えないし、ただ旅行に来たという気分に浸る事が出来る。
でもこの闇に隠れてしまっている事があるのも、ハミルトン王国の聖ジェノヴァ教会との事で嫌と言うほど分かっているから、綺麗なだけではないのよね。
「明日は炭鉱に行くが、ソフィアは置いていくだろう?」
ヴィルからの言葉に一瞬返答を忘れ、目を瞬かせる。
そういえばそうよね、炭鉱は安全な場所とは言い難いし、ソフィアは連れて行けないわ。
「もちろん置いていく事になるわ。それに今日観光をしていて何となく感じたのだけど」
「子連れが少ないという事?」
やっぱり気付いていたのね。
そうなのよね、沢山のお祭りが催されているにも関わらず、子供たちが走り回ったり家族連れで賑わっている姿があまり見られなかった。
大人の屈強な人々は沢山いたし、労働者は沢山いたものの、子供はこんなに少ないもの?
私の気のせいかとも思ったけれど、ヴィルも感じていたからちょっと安心する。
「ええ、お祭りって大人のためのものなのかと思ってしまうくらい、少なかったわよね。何となくソフィアに対する視線も気になったし」
「歩いている子供も金持ち風の子供しかいなかったな。あまりソフィアを連れて王都には行かない方がいいかもしれない。王都の外なら大丈夫かと思うが」
どうして少ないのかは分からないけれど……そこまで考えてふと嫌な考えが頭をかすめる。
「まさか、平民の子供って労働者として扱われているの?」
私の言葉にさすがのヴィルも目を見開いてこちらを見ている。
まさか、よね?
でも我が国から連れて来られた子供たちがどこに連れて行かれていたのかも不明で、ここの子供たちの地位も高くないと王妃殿下は仰っていたし、胸がザワザワしてくる。
「明日の炭鉱ではそういった部分も垣間見れるかもしれない……」
「でもきっと私たちには見せたくないわよね。何か手を打ってくるかもしれないわ」
気持ちは急くけれど、とにかく明日、しっかりこの目で見て来なくては。
ソフィアの事はマリーやゼフにお願いして行こう。
ゼフがいれば大抵の事は何とかしてくれるはず。
「ヴィル、顔色が良くないわよ」
「……人身売買の件は幼い頃から取り組んでいた事案だったが、聖ジェノヴァ教会の事が解決し、ひと段落ついたものだと思ってしまっていた」
「そんなの……!」
ヴィルだけじゃない、私も同じだわ。
聖ジェノヴァ教会がなくなり、これから人身売買で連れ去られる子供はいなくなるかもしれない。
でも攫われていった子供たちは?
「明日、炭鉱を見たあとにレジェク殿下に聞いてみましょう。子供たちの行方なんかを……」
国の内情なんかは言いにくいでしょうけれど、ハミルトン王国から連れて来られた子供たちの事は、このままにしてはいけない。
「そうだな。そうしよう」
力なく笑うヴィルの背中をさすってあげた。
彼の肩には多くの民の人生がかかっているのよね。
私も隣で生きる決意を固めたのだから、覚悟を決めて動かなくては。
夜空に浮かぶ星々を見上げながら、子供たちが健やかに育つ世界に想いを馳せ、夜は更けていったのだった。
~・~・~・~・~
翌朝、ソフィアをマリーとゼフに任せ、私とヴィル、イザベルはレジェク殿下の案内のもと、炭鉱へと向かった。
ラスはソフィア達の方が通訳が必要だろうという事でこちらに同行はせず、マリアはビシエラ山について調べたいという事もあって別行動となった。
「炭鉱へは王都からどのくらいかかるのです?」
「少し時間がかかります。3時間ほどでしょうか……あまり長居をしては帰りが夜になってしまいますので、気を付けなくてはいけません」
「そうですわね、それは気を付けないと」
長居はしないでねって事ね。
見たらさっさと帰ってほしい雰囲気がプンプンしてきて、笑顔で返事をしつつも早く帰る気はさらさらなかった。
私が意気込んでいると、イザベルが優しい声をかけてくれる。
「坑道の中は危険です。オリビア様は私のそばを離れないでください」
「イザベル、ありがとう。とても心強いわ」
私の言葉に少しはにかむイザベルが可愛くて、朝から癒されるわ。
でも腕相撲大会を見ていたら、イザベルのそばにいれば本当に大丈夫のような気持ちになれてしまうわよね。
ヴィルもイザベルに対抗したのか「怖くなったら私の腕を掴んでもいいから」と言ってくれたのだけれど、次の瞬間馬車がガタンと揺れ、隣りに座るイザベルの腕を掴んでしまう。
「オリビア様、私の腕をお使いください」
「ありがとう」
向かいに座るヴィルがあからさまにガックリしているのをレジェク殿下が笑いを堪えていて、私はほんの少し可哀想になりウィンクしてあげると、分かりやすく元気になったのだった。
しょうがない人ね……そう思いながらも、こんなやり取りも悪くはないような気がしている。
そんな馬車の旅もレジェク殿下の言う通り3時間ほど過ぎると、目的地のカンウェイ炭鉱が目の前に現れたのだった。
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オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。
彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。
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