ドルレアン国二日目
「絶好の観光日和ね!」
翌日、私たちはレジェク殿下の案内のもと、ドルレアン国の王都にやってきていた。
建国祭も近いので王都はとても賑わっている。そこかしこに装飾が施されていて、どこの国もお祭りの時は派手になっていくものね。
歩いているだけでも楽しくなってきちゃう。
それにくわえ、天気は雲1つない快晴。
「いいお天気ですね~」
「ですね~」
マリーの言葉をソフィアが復唱している。
可愛い……。
私の隣りにはイザベルが立っていて、私を護衛してくれているのだろうけど、ほんの少しウキウキしているのが表情に出てしまっている。
こちらも可愛い……っ!
ハミルトン王国の国王陛下からも国内を見てきてほしいと言われているし、観光を楽しみながらよく観察しなきゃね。
今日は沢山歩いてもいいように、服装は軽装。
ボディスでウェストを絞り、ショートスカートにブーツといった装いにした。
ソフィアはショートドレスを着ている。
「それにしても暖かいわね。ハミルトン王国は今は秋だから寒くなってきていたのに真夏のように暖かいわ」
「きっとビシエラ山のおかげよね。物凄くエネルギーを感じるから」
マリアがそう言った瞬間、また地面に小さめの振動が起きた。
ソフィアは私の手をギュッと握り締めたので、私も彼女の手を握り返す。
「オリビア……!」
一瞬ヴィルの声が聞こえた気がして振り向くと、イザベルがスッと私の肩を支えてくれたのだった。
「ありがとう、イザベル」
「いえ、私の役目ですから」
私を安心させるように、ほんの少し口角を上げて笑ってくれる。
その後ろで、ヴィルがしょんぼりしていた事に私はまったく気付いていなかった。
ふとレジェク殿下の方を見ると、ビシエラ山の方を向きながら手を組んで、祈りのポーズをしている……周りの民も皆祈っているわ。
それほど信仰が深い国なのね。
私が関心していると、祈りを終えたレジェク殿下がマリアの方へと歩み寄っていく。
「あなたがビシエラ山からエネルギーを感じると言った途端、火の神の鼓動を感じるとは……やはりあなたは聖女なのですね」
「え…………なんで知ってるの?」
レジェク殿下がうっとりとしながらマリアにそう言うけれど、言わない方がいいと言われていたマリアが驚いて聞き返す。
どうして知っているのかしら。
「僕が言っちゃったんですよ~~温泉の時に。もう知ってるものだとばかり思っていたので……すみません」
「あんたね……ま、仕方ないか。私の魅力は隠しきれないしね」
「………………」
マリアの言葉にラスが笑顔で固まっているわ……王族にも臆さないラスをフリーズさせるなんてマリア、恐るべしね。
得意げになったマリアは、さらにラスに絡んでいく。
「あんたも、何か困った事があったら私の聖力で助けてあげなくもないわよ」
「…………大きなお世話です」
「何よ、赤くなっちゃって~~」
何、この2人……姉弟みたいじゃない。
なんだかんだマリアの言葉に嬉しそうに見えるラスの姿に、年相応の面が垣間見られてホッコリしたのだった。
でもラスにマリアが聖女って教えたかしら……少し思い返してみたけれど心当たりはない。暑くて頭も回らなくなってきたので、ひとまずどこかで休もうと皆に声をかけてみる。
「ねえ、暑くて喉が渇いたから、どこかで休まない?ソフィアも休ませたいし」
皆で王都を散策していたけれど、そろそろソフィアに水分補給が必要かもと思った私は、皆にカフェに入ろうと提案する。
「そうですね。それでしたら少し歩いたところにお店がありますので、もう少し歩けますか?」
「ええ、それは大丈夫よ」
レジェク殿下がこちらを気遣うように優しい言葉をかけてくれるので、建国祭の時はとても意地悪なイメージだったのに好感度が上がってくる。
そしてソフィアを休ませたいという私の言葉に、ゼフがソフィアを抱き上げてくれたのだった。
「ありがとう」
ソフィアの言葉にゼフは無言で頷いた。
言葉は少ないけれど2人の間にはしっかりと信頼関係があるように見えて、ついお母さん目線でホッコリしてしまうわね。
さり気なくヴィルが私の手を引いてくれながら、皆でカフェに入っていったのだった。
~・~・~・~・~
外観はこじんまりとして見えたのに、中に入ってみると以外にも広く、9人で押しかけたにも関わらず席を確保してもらえたという。
女性陣と男性陣で二つの席に分かれて座り、メニュー表を見ながら各々注文を決めていく。
「何にしようかしら……これって冷たいクリーム?」
「そうじゃない?年中暑い国みたいだから冷たいメニューが多いんじゃないかな」
私がマリアとあれこれ話していると、年配の女性店員が注文を取りにきてくれて、レジェク殿下の顔を見て驚きの声をあげた。
「で、殿下?!ようこそいらっしゃいました……!」
「やあ、城の料理人だった君が開いた店を見たくて来てみましたよ。良い店じゃないですか」
「勿体ないお言葉です!本日はこれから行われる腕相撲大会に出られるのですか?」
どうやら知り合いのお店だったらしくて、店員の女性は随分恐縮している様子だった。
ん?腕相撲大会?
「そんな大会があるの?」
「ええ、建国祭までは色々な催しがあるのですが、その一つです」
レジェク殿下の言葉にイザベルが「それは、腕がなりますね」と腕を回し始める。
「もの凄くやる気だわ……」
稀に見るイザベルのワクワクした表情にときめいてしまった。
参加させてあげたい。
「ゼフも参加したいんじゃないか?」
ヴィルがゼフに問いかけると、無言だけれど力強く頷き、こちらもとても参加したい表情に見える。
やっぱり肉体派の2人は参加したくなっちゃうのね。
「ふふっ、決まりじゃない?ヴィルも参加する?」
「もちろんだ」
肉体派じゃないと思うのだけれどなぜか燃えているようなので、一応応援しておこうかしら。
「大会には兵士や炭鉱夫たちも参加するので、強者たちが沢山いますから、毎回とても盛り上がるのです」
レジェク殿下はとても楽しそうに腕相撲大会について話している。
マリアはそんな殿下に素朴な疑問を投げかけた。
「レジェク殿下は参加しないの?」
殿下は彼女の問いに目を丸くした後、「私は肉体派ではありませんので」と慌てて否定し、ヴィルはそんな殿下を挑発するような事を言い始める。
「怖気づいたのですか?」
「バカな……!いいでしょう、私を挑発した事を後悔させてあげましょう」
なぜだかまた無駄な争いが起ころうとしているわね。
そんな雰囲気をスルーするかのようにラスは不参加表明をした。
「僕は参加しませんけどね~」
「大丈夫、誰も参加するとは思ってないと思う」
マリアにツッコまれて口を尖らせていじけるラスが可愛い……すっかり姉弟みたい。
「ゼフ、がんばってね」
ソフィアの応援に無言で頷くゼフ。これは負けられないわね。
それにしてもこの大会に参加する人々に炭鉱夫という言葉を聞き、ドルレアン国に炭鉱があるのを初めて知る。
炭鉱って事は石炭が取れるって事よね。
この国の鉱物資源の中に石炭があったかしら……ちょっと興味が出てしまうわ。
腕相撲大会が終わったらレジェク殿下に聞いてみようかな。
「まずは注文して食べちゃいましょ!」
大会の時間が近い事を知り、各々注文したものを飲食し終えて腕相撲大会に向かう事にした。
大会は私が想像していたよりもかなり大規模で、屈強な人々ばかりがエントリーしている事に驚き、ヴィルやレジェク殿下は参加すると言った事を少し後悔しているように見えたのだった。
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オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。
彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。
何卒宜しくお願い致します<(_ _)>






