女湯Side / 男湯Side
温泉は綺麗に整備されているというより、天然の岩を利用して湯を溜めている、露天風呂のような造りだった。
王城は標高も少し高めの場所に建てられている事もあり、温泉からは王都の街並みやドルレアン国全体を眺められるようになっている。
「これは絶景ね……商売にしたらとても儲かりそうな気がするわ」
「確かに!こんな景色のホテルがあったら旅行に来ちゃうかも!」
「ホテル?」
マリアが日本での言葉を使うと、イザベルがすかさず反応を示した。
「ホテルはね、沢山の人が泊まる事が出来て~」
マリアはイザベルに丁寧に説明し、イザベルはまるで素晴らしい知識を教えてもらっているかのようにふんふんと真剣に聞き入っている。
可愛い。
そして私の隣りにはさらに可愛いソフィアが、すっかり景色に夢中になりながらも時折私の方を見て、ニッコリ笑いかけてくれる。
可愛いっっ。
イザベルとひとしきり話を終えたマリアは、先ほどのレジェク殿下の話を聞いて、自身の考えを述べてきた。
「レジェク殿下の言っていた火の神の鼓動って、普通に火山性の微動とか言うものじゃない?」
「私もそう思うんだけど……この国の人々にとってはそうなのかなって」
「うーん、やっぱり世界は広いのね。色々な文化があるんだ」
私はマリアの話を聞きながら、転生前の世界を思い出していた……確かに日本以外の国にも色んな文化があって、全く違う言葉、習慣、信仰等色々あるものね。
そう考えるとこの国の信仰も否定してはいけない気もする。
するとマリアが真剣な表情で、この微動に疑問を投げかけた。
「私はこの微動、神の鼓動で終わらせていいのかなって思うんだ」
「どういう事?」
「うーん、まだ何かって聞かれると説明出来ないんだけど……この山から感じる力……滞在期間もまだあるし、合間にビシエラ山について調べてみる。私としても興味があるから」
マリアはそう話しながら鼻歌を歌い出した。
ビシエラ山について興味深々なのね。外国語科を選んでいたくらいだし、他国の色々な事を学ぶのが本当に好きなんだわ。
素晴らしい事だと思いながらも、滞在期間中にあまり神の鼓動は感じたくはないなと思ってしまう。
よくよく考えると火山のすぐそばで生活って、なかなか危険のような気がしてくる。
微動があるって事は地中のマグマが動いているのだろうか……温かいお湯に浸かっているのに背筋がゾクリと粟立ってしまった。
建国祭が終わったらすぐに帰国した方が良さそうね。
「それにしてもオリビアの胸、大きい~~イザベルのもマリーのも大きいけど。誰が一番大きいかな」
突然話を振られて何かと思ったら、マリアが私の胸をまじまじと見てくる。
転生してみて私も感じていたけれど、確かにオリビアの胸は小さくはないと思う。でも……
「マリアだって大きいじゃない!マリーは言わずもがなだけど、私のは……うーん、イザベルの形の良さには敵わないわね」
「恐れ入ります。皆様に比べれば私など……触り心地も硬いでしょうし」
「張りがあって素晴らしいわよ~~」
私はイザベルの胸をまじまじと見ながら感嘆した。
鍛えられているからか、とても形が良いわ。そんな話で盛り上がっていると、私の前にソフィアがやってきて、すっかり上手に出来るようになったタオル風船を見せてくれる。
「上手よ、ソフィア!ソフィアもあと十年もすればマリアやイザベルのような美しい女性に成長するのよね。楽しみだわ」
最初に出会った時、背中は痣だらけで痛々しくて見ていられなかった。
そのお肌も今はもう綺麗になって、白いモチモチの肌は温泉の熱によりほんのり赤みを帯びている。
良かったわ……痕が残ったらどうしようと思っていたから。
私がそんな事を思いながら笑っていると、マリアが何かを見つけたかのようにソフィアに近付いてきた。
「あら、ここ、虫刺され?痣のようなものがあるけど……」
「どこ?」
マリアがソフィアの左のうなじあたりを指差していたので、4人で覗き込んでみると、痣のような痕があるのを発見する。
「最初に髪を切った時には気付きませんでしたが……」
確かに一番最初にマリーがソフィアの髪を整えてくれた時は、全くそんな話は出なかったものね。
「首元だから分かりにくかったのかも?でもちょっと形が可愛い!」
マリアが褒めてくれるのでソフィアは嬉しそうにはにかんだ。
これから髪ものびてくるし、気にならなくなっていくわよね。あまり女の子に痣は残ってほしくはないと思いつつも、気にならない部位で良かったと胸を撫でおろした。
ちなみにマリアもタオル風船に挑戦してみたものの、あまりにも上手く出来なくて温泉でも撃沈してしまったのだった。
――――その頃の男湯――――
「うふふ、温泉気持ちいいですね!」
「……………………」
「………………どうしてお前も一緒に入っているのだ、ラス。それにレジェク殿下まで」
「いいじゃないですか、ここは私の城なのですから。皆で仲良く入りましょう」
ゼフは相変わらず無言でお湯に浸かっているのはいいとして、いつの間にか合流していたレジェク殿下とラスも一緒に入ってきたのだった。
殿下はまだいいとして……この少年は我々が警戒しているのを分かっていながら、こちらを警戒する素振りが全くない。
あの殺気は只者ではない感じがしたのだが、気のせいなのか?それとも全て分かっていてこのような天真爛漫な態度をしているのだろうか。
ラスの目的が全く読めず、その事も私の頭を悩ませていた。
特にオリビアやソフィア達に危害が加わるような事になるのだけは避けなくてはいけない……のに動きが予測不能だ。
「まぁ、細かい事は気にせず温泉を楽しみましょう」
「気にするなと言う方が無理な話だ。港でのお前の……」
「シッ、オリビア様に聞かれちゃいますよ」
私と一気に距離を詰めたラスは耳元でそう言うと、ニヤリと笑ってまた無邪気な顔に戻る。
動きが速い……!
ゼフが警戒している姿を見ると、やはり港での姿は気のせいではないらしい。
「何が目的だ?」
「やだなー目的とかはないんですって。あなた方はとても面白い人達だなと思っているだけで……そこの護衛もだけど、養女に聖女、公爵令嬢に護衛の伯爵令嬢なんて。ふふふっ」
「なぜそれを……!」
ソフィアが公爵家の養女である事も、マリアが聖女である事も全て知っているというのか?
「聖女?」
「おっと、でもこの事は宰相様たちは知らないですから、安心してくださいね。でも今、レジェク殿下に聞かれてしまいましたが」
そう言ってあははと笑うラスの笑みはいつも以上に天使の仮面を被っていて、安心どころの話ではない。
「……ソフィアに近付くな」
珍しく声を発したゼフは、ラスとの距離を一瞬で詰め、彼の腕を掴みながら威嚇するかのようにひと言放った。
睨み合う2人をどうするべきか考えていると、女湯の方からオリビアたちの声が響いてくる。
『それにしてもオリビアの胸、大きい~~イザベルのも大きいけど。誰が一番大きいかな』
『マリアだって大きいじゃない!マリーは言わずもがなだけど、私のは……うーん、イザベルの形の良さには敵わないわね』
『恐れ入ります。皆様に比べれば私など……触り心地も硬いでしょうし』
『張りがあって素晴らしいわよ~~』
………………一体何の話をしているのだ!
「あははっ、本当に面白い人達だ!」
「……………………」
すっかり興ざめのような形でゼフとラスの睨み合いは終わり、それ以降は2人とも大人しく湯に浸かっていたのだった。
そこへレジェク殿下が思い出したかのように、明日の提案をしてくる。
「そういえば明日、私があなた方に王都を案内して差し上げたいと思っているのです」
「それは結構です」
「わぁぁぁそれは楽しそうですね!」
私が断ったにも関わらず、ラスが大きな声で喜びを露わにする。
「ほら、このように幼気な少年の心を無下にしてもよいのですか?まぁ、あなたは来なくても結構です。オリビア様やソフィア様に言えば行きたいと言ってくれるでしょうし、彼女たちに接触した方が良さそうですね」
――ザバァァァァッ――
レジェク殿下の言葉に私とゼフが同時に立ち上がる。
「結構だ、皆には私から言うので」
「そうですか。では決まりですね」
殿下の言葉にまんまと乗せられ、一緒に行動する事になってしまった事に気付く。
しかし私がいないところでオリビアたちに接触されるのは危険だ。
ここは大人しくついていく事にするか…………ここの温泉は女湯と壁一枚しか隔てるものがない為、女性陣の声もよく聞こえてくる。
レジェクにはマリアが聖女だと伝わってしまったと思ったのだが、今のところ殿下の方に動きはなさそうだ。
「はぁ…………」
ラスの怪しい動きもあってバタバタした入浴になってしまったな。
しかし、オリビアの(胸の)話が聞けて、不覚にもほんの少しだけ良い時間になったなと思ってしまう自分がいたのだった。
~・~・~・~・~
まだ正体不明のラスですが、次からドルレアン国二日目になり、徐々に物語が動いていきます~~^^
よろしくお願いいたします!<(_ _)>
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オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。
彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。
何卒宜しくお願い致します<(_ _)>






