潰れていく甘い旅行計画と天使のような通訳 ~王太子Side~
皆で船に乗り、船内を隅々までチェックをして回っていると、王宮のサロンのような一室を見つけ、真っ先にオリビアに見せようと思い立った。
天窓もついているし、きっとオリビアなら「綺麗!」と目を輝かせて喜ぶに違いない。
船長を務めるガイアス卿とドルレアン国への航海の時間や天候など、色々な打ち合わせを済ませると、船は目的地へと出港した。
今こそオリビアにあの部屋を見せる時だ、と思い、「オリビア……」と声をかけようとすると、下の船内からマリアの大きな呼び声が聞こえてくる。
「みんなー!こっちに来て――!」
「? 今の声、マリアよね」
「あの扉……階段室だ。下の階にいるのか?」
まさか……あの部屋にいるわけではないだろうな、という嫌な予感が頭を過ぎる。
そんな私の杞憂などどこ吹く風と言わんばかりに、マリアの我々を呼ぶ声が大きくなった。
「早く――!」
……もはや嫌な予感しかしない。
そして皆で声のする方へと向かっていくと、案の定マリアが待っていた場所は、私がオリビアに真っ先に見せたいと思っていた部屋だった。
なんて事だ…………私が一番に紹介したかった。
マリアにこの部屋を紹介されたオリビアは、実に良い顔で喜んでいる。その表情は私が引き出したかったというのに……!
「ふふっ……分かったわ。あなた、自分がオリビアに紹介出来なかったから苛立っているんでしょ?お子ちゃまね~~」
「なっ!…………っ誰のおかげで船に乗れたと思っている!」
「オリビアのおかげね。それとも陛下のおかげかしら?」
……手柄を取られたような気持ちになった私は、売り言葉に買い言葉でどんどんヒートアップしてしまう。
結局マリアとやり合ってるうちに船旅を終えてしまい、オリビアとの甘い旅行を目論んでいた私の思惑は、まるで聖女(聖なる女性)には見えないマリアによって打ち砕かれてしまうのだった。
~・~・~・~・~
ドルレアン国の港へと停泊し、タラップではオリビアの手を引きながら降りていくと、レジェク殿下やその他の家臣たちがズラリと並びながら私たちの訪れを待っていた。
ここまで仰々しいのも何やら怪しげな雰囲気を感じてしまう。
レジェク殿下が我が国へやって来た時はここまでの出迎えはしなかったので、我が国へのあてつけなのではとすら思えてしまうな。
「オリビア様、建国祭ではご無礼を働き、大変申し訳ございません。その後、御手の痕は消えましたか?」
「はい、もうすっかり」
実に白々しい。
痕だなどと言っているが、あれはオリビアを傷つけようとしたものではないか。
相変わらずレジェクの挨拶は、オリビアに対してだけ粘着質なものを感じる……国賓として招かれていなければ、私のオリビアに触るなと言ってしまいそうになる。
国を代表して来ているのでひとまず大人しくしておくか、とさり気なくオリビアの手をレジェクから引き離すに止めた。
そしてドルレアン国のムンターニャという宰相が、この国に似つかわしくないような美しい見た目の通訳を我々に紹介してきた。
「初めまして、ご紹介にあずかりました通訳を務めさせていただきます、ラスクルといいます。ラスとお呼びください」
ラスクルと自己紹介をしたその美少年は、虫も殺せないような見た目をしていて、髪もふんわりとした色素の薄い髪に白い肌……どこを取って見ても人畜無害な可愛い少年と言った感じだ。
ソフィアと話が合いそうだな……この国に来て、彼女に良い話し相手が出来るかもしれないと微笑ましく思い、さっそく挨拶をする。
「よろしく頼む」
「はい!」
ラスは元気に返事をし、天使と見間違えそうなほどにこやかに笑った。
目の前の少年の周りだけ空気が違うようだな……私がそんな事を考えながらラスと握手をした瞬間、背筋がぞわぞわと粟立っていくのを感じる。
何だ?
見た目は少年だが、明らかに少年ではない――――オリビアはもちろん気付いてはいないが、分かる者には分かるように殺気を放っている。
ゼフとイザベル嬢の方にチラリと目線を移すと二人とも気付いているようで、イザベル嬢は短剣に、ゼフも戦闘体勢に入ろうとしているかのようだった。
握手をしている手から汗が滲み、じわじわと侵食されていくかのような感覚が襲ってきた。
頭の中が冷え切っていく……そして少年の笑みはほんの一瞬、天使から悪魔のように変わり、私に半歩近づくと小声で「よろしくお願いしますね、王太子殿下」と囁いた。
驚き固まる私に再度天使の微笑みをすると、颯爽とオリビアの方へと移動していったのだった。
もう殺気は放ってはいないようだが――――いや、しかしこの少年が何であれ、国の要人が集まるここで騒ぎを起こすような事はするまい。
我々がどの程度なのか、試されていたのか?
ひとまずゼフとイザベル嬢には動くなと手で制した……2人は私の動きを察してすぐに冷静に挨拶に徹してくれる。
イザベル嬢は女性だが護衛としてもとても優秀である事は間違いないな。オリビアは自身の友人を護衛にする事は嫌だろうが、正直オリビアの傍に彼女のような鍛えられた女性がいてくれるのは心強い。
ラスは先ほどまでの殺気は跡形もなく消し去り、オリビアに爽やかに挨拶をした後、ソフィアに目線を合わせて挨拶をしていった。
2人は何も分からないだろうから彼を歓迎し、嬉しそうに話している。
さっきまでのは気のせいだったのかと思えるほどに――――この少年には最大限の注意を払わなくてはならないな。
スムーズに挨拶を終えた私たちは用意されていた馬車に乗り、王都の大通りを通りながら王城へと向かった。王族を乗せた馬車と知っているのか、馬車に向かって民が皆手を振っている。
その様子を見る限り国がそれほど廃れているようには見えず、民の暮らしには活気があるようにも思える。
「母上が話していたような様子には見受けられないが……」
「同じことを思っていたわ。むしろ賑わっているようにも思えるのが不自然に感じるの」
「…………やはり街中を歩いてみない事には分からない、か」
オリビアも私と同じ事を考えていたようで、優秀な彼女らしい見解に少し嬉しくなる。国としても体裁があるだろうし、本来の姿をそう簡単に見せるはずがないか。
「ひとまず国王夫妻にご挨拶しなくていけないわね」
その国王は妹である母上の事を良く思っておらず、父上の事はそれ以上に良く思っていないので、私たちに対してもいい反応をしてくるとは思えない。
ドルレアン国は我が国との国交のおかげで、長年の戦いで疲弊した国力を保っているようなものだ……妹の嫁ぎ先に世話になっている状況というのは、国王としても屈辱的だろう。
自身の体たらくのせいであるにもかかわらず……それに加えて人身売買の取引先でもあったのだから、父上からの圧もかかっている。
国王は私の顔を見るのも嫌だろうな。さっさと挨拶を済ませてしまいたい。
そんな憂鬱な気持ちをすっかりすっ飛ばすようなマリアの声が、馬車に響き渡る。
「見て……!もの凄い大きい山が近付いてきた!あの山の麓に王城が建てられているのよね?」
「ええ、そうよ。わぁ……凄い迫力……!」
幼い頃に一度見たきりだが、相変わらず迫力だけは凄い。王城としても優秀のはずだが、主が阿呆なせいか活かしきれず、国力を削ってばかりいる。
そろそろ見切りをつけてもいいように感じるのだが……この国に何かがあるのだろうか。
父上が私とオリビアをここへ向かわせた意味を考えながら、馬車はゆっくりと王城の門前に停車したのだった。
~・~・~・~・~
第七章はここまでで、次から第八章に入っていきます^^
ヴィルに対して怪しかったラスですが、基本的に天使ちゃんなので可愛い少年です(;'∀')
彼の目的は何なのかは最後の方で出せればと思ってます~~謎に満ちた少年って事で!
引き続きよろしくお願いいたします~~<(_ _)>
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オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。
彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。
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