幸せな時間と聖女の反撃 ~王太子Side~
私に聞かれて相当恥ずかしかったのか、顔を引きつらせたまま固まっているオリビアが可愛い。
もっと今の言葉を聞く為にどこかに隠れていれば良かったと、今更ながら後悔している自分がいる。
「ねえ、ねえ、おうじさま。オリビア様っておうじさまが大好きなんだって!」
「さっきも大きい声でいってたもんねー!」
そんな私に子供たちが嬉しい事を言ってくれて、私の心が喜びで満たされていった。
やはり子供はいいな……素直で思惑や駆け引きなどない。
オリビアとの子供か…………一人で想像し、顔が緩んでしまいそうになる自分を何とか自制した。
子供たちが健やかに育つ世にしていかなくてはな。
まずはここに来た目的をオリビアに話し、私たちは公爵邸へと移動する事にしたのだった。
公爵邸では彼女の父であるクラレンス公爵がいて、オリビアのドルレアン国行きを告げるとあからさまに嫌な顔をされたのだが、オリビアがとても嬉しい言葉を公爵に伝えてくれたおかげで、私の心は一気に晴れやかになっていく。
「お父様、心配してくださって感謝いたします。私はもう彼と生きていく覚悟を決めておりますから、大丈夫ですわ」
オリビア…………そんな風に考えていてくれたとは。私とて覚悟などとうに決まっている。
これは挙式を早めた方がいいかもしれない。
クラレンス公爵もオリビアと結婚すれば舅……お義父上か。いい響きだな。
そんな彼女の言葉の余韻に浸っている私に、クラレンス公爵から無言の圧をかけられてしまう。
「オリビア……君がそう言うのなら止めはしない。気を付けて行くんだよ。まぁきっと殿下が君を守ってくださると思っておりますが」
もちろん何があってもオリビアを守る覚悟ではあったが、ニコニコしながらも彼女に傷1つでもつければただでは済まさないと言わんばかりの公爵からの圧に、身が引き締まる思いで公爵邸を後にしたのだった。
未来の舅……お義父上の言葉だからな。しっかりしなくては。
翌日に王宮で母上とオリビアと4人で話した時、父上はクラレンス公爵の態度などお見通しで、そう言うだろうと分かっていたから私を向かわせたと仰った。
母上の母国であるドルレアン国は、我が国と辛うじて国交があるものの、他国とはあまり交流はなく、貧国になりつつある。
そのくせ好戦的なので厄介な国で、公爵領での教会の騒動によって人身売買が明るみになったが、彼の国では今もそんな事が横行しているのも分かっている。
子供たちが連れ去られていった現場でもあるから……オリビアが気にするだろうという事も容易に想像がつく。
そのような場に愛娘を行かせるというのは、親としてすんなりと了承は出来ないだろう。
私を彼女のもとへと向かわせて、オリビアの口から行きますと言わせる事が父上の狙いだったと分かってはいたものの、父上本人の口から聞くと若干呆れてしまうものだ。
父上はのらりくらりとしていながら、いつも先の先を考えているような方なので、父上が私とオリビアをドルレアン国へ向かわせる狙いが何なのかはまだ分からないが、その狙いに乗ってみるかと考えたのは、新婚旅行という言葉に釣られたのではないとだけは弁明しておく。
断じて甘い蜜に飛びついたわけではない。断じて。
王宮から公爵邸への帰り道の馬車で、未だに母上と話す事には慣れずに、上手く会話出来ないでいる私を気遣ってか、オリビアが面白い顔をして笑わせてくれたりもした。
「前はこんな感じの顔だったわよね」
不覚にも本当に似ていて、吹き出してしまうのだった。
女性の顔を見て吹き出すなど失礼極まりないのだが、オリビアはそんな私を見て「そうやって笑っていると、小さい頃のあなたに戻ったみたいね」とホッとした表情を見せた。
彼女なりの励ましのつもりだったのかもしれない。
そんな優しさが何より嬉しくて、母上との関係での悩みなどちっぽけな事のように思えてくる。
公爵邸に着き、馬車の扉を開こうとするオリビアの手を止め、彼女に触れるだけのキスをした……領地での私ではきっと嫌がられていただろう。
今は自然と受け入れてくれる。
それだけで酷く幸せだと思えるのだから、私も大概単純な男だ。
彼女を公爵のもとへ送り届け、その日は気分よく王宮へと戻って行ったのだった。
~・~・~・~・~
そうこうしているうちにドルレアン国へと出発の日になり、颯爽と公爵邸へオリビアを迎えに行った。
しかし、いざ出発する日になると、すっかり記憶から消していた人物が公爵邸まで追いかけてきて、私たちの新婚旅行……ではなく仕事について来ると言って騒ぎ出したのだった。
「オリビア~~久しぶり!聞いてよぉぉぉヴィルが……」
「うるさい」
私はマリアの存在をすっかり忘れていて、この頭が痛くなる声を聞いて嫌な予感が頭を過ぎっていく。
早くこの場から退散させなくては……私たちの新婚旅行……ではなく大事な仕事が妨害されてしまう。
「ちょっとヴィル……なんで私を置いていくわけ?!あんなに私も行くって言ったのに!」
「連れて行けるわけがないだろう」
「日々善行を積んでいる私に対しての仕打ちが酷い!」
「損得入り混じった善行など、善行とは言えん」
「酷ぉぉ!!」
何を言っても帰る気配がない。
マリアとの押収を見兼ねたオリビアが私に上目遣いで、どうする?と聞いてくる。
…………その顔は反則だ……。
オリビアの瞳がマリアを置いていくのは可哀想だと言っている。
「ん゙ん゙っ!ゴホンッ……仕方ないな…………」
せっかくのオリビアとの旅行が……公爵からもマリアを連れて行ってほしいと言われ、私にはマリアを置いて行くという選択肢が完全になくなってしまい、了承するしかなくなってしまったのだった。
一緒に行く事が出来るようになってマリアは大喜びし、馬車ではオリビアの隣までも奪われてしまう。
そこは私の定位置だというのに……!
私の気持ちをよそに、オリビアとマリア、そしてソフィアは、私の向かいで終始ご機嫌にお喋りをしながら、馬車はゆっくりとディーガン港へと向かっていったのだった。
~・~・~・~・~
相変わらず暴走気味なヴィルとトホホなヴィルです(;'∀')
次回は日曜日更新になります~~そこでヴィルSideは一旦終わりになります!
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オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。
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