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ドタバタな出港


 「え……イザベル?!どうしてイザベルがここに?」



 閉じかけた扉をもう一度開き、驚いて問いかけると、私とイザベルの間に立っていた黒髪の男性が、呆れたような口調で話し始めた。



 「お嬢さん達、お知り合いかい……ここはご令嬢の遊び場じゃないんだ。これから王太子殿下がいらっしゃるというのに、さっさと船を下りてくれないか」


 「無礼な。目の前のお方こそ、王太子殿下の婚約者であらせられるオリビア様だと知らないのか?」


 「なっ!これは失礼をいたしました!」



 黒髪の男性は深々と頭を下げてきて、私に謝罪をし始めた。


 特に無礼だとも何とも思っていないのだけれど、あんまり深々と頭を下げるので私の方が申し訳ない気持ちになってしまう。



 「まぁ、そんなに頭を下げなくても。むしろ業務の邪魔をしてしまったのではと思っていたわ。ごめんなさいね」


 「いえ!勿体ないお言葉……」


 「ところで、どうしてここにイザベルが?」



 私は疑問に思っていた事を率直に聞いてみる事にした。


 しかし私の問いに答えたのはイザベルではなく、黒髪の男性の方だったのだ。



 「オリビア様、このお嬢さんはご自分が操舵手になると言い出しまして、我々としても困っていたところなのです。オリビア様から何とか説得してください!」



 私は目の前の男性の訴えに目を丸くしてしまう……操舵手って、イザベルが出来るの?


 確かにイザベルは騎士の家系だし肉体派だから、色々な事が貴族のご令嬢とは違うけれど。

 


 「今の話は本当なの?イザベル」


 「はい、私は操船術を持っておりますので、オリビア様が乗る船ならば私が操舵手をした方が安全かと判断いたしました。先ほどまでそれをこちらの男性にお話していたところなのです」



 あー……それは船長が激高するのも分からなくもないわね。


 王族を乗せる船を貴族のご令嬢が……だなんて、誰がどう聞いてもあり得ない話だもの。



 イザベルは当然の事のようにキリリとした表情で話しているけれど、現場の者が許可を出すわけはないでしょうし。


 ちょっとこの男性に同情してしまう……でもきっとイザベルの事だから、私の事を考えてくれたからこその行動でしょうし、ひとまずここは説得しなければ。



 「操舵手の話は一旦おいといて、どうしてここにイザベルがいるの?」


 「兄から今日オリビア様がドルレアン国へと出港なさるというお話を伺い、居ても立っても居られずに来てしまいました。オリビア様をお守りするのはこのイザベルの役目ですから」



 そう言いながら、相変わらず美しく凛々しい表情をこちらに向けてくるイザベル。


 彼女はいつも真っすぐなのよね。



 きっと本心から言ってくれているのでしょうけれど、私としてはお友達を護衛にするつもりはなかった。



 「イザベル、私たちは友達なのだから、護衛のような役割をあなたにさせる事は出来ないわ」


 「オリビア様、私がしたくてしてる事なのです!ボゾン子爵邸であなた様をお守り出来なかった不甲斐ない私ではダメでしょうか……」


 「うっ…………」



 私は思わず言葉に詰まってしまう。


 ズルいわ……そんな子犬みたいな目を向けられたら、ダメとは言えないじゃない!



 いつでも私の事を考えてくれるイザベルのお願いを無下にする事など私に出来るはずもなく、了承するしかなかったのだった。



 「分かったわ、一緒に行きましょう。イザベル、その代わり……」


 「はい、なんでしょう」


 「操舵手を務めるのは諦めてね」


 「………………っ……承知いたしました」


 

 「「よし!」」



 私たちのやり取りをひとしきり見守っていた船員達は、ガッツポーズしながら喜び、イザベルは何が起きているのか分からないと言った表情をしている。


 良かった……私もホッと胸をなでおろし、長い黒髪の男性に改めて話しかけた。



 「あの、あなたが船長さんよね?」


 「はい、いかにも私がこのロイヤル・ハミルトン号の船長、ガイアス・ブライトです。ご挨拶が遅れて申し訳ございません、オリビア様」


 

 そう言って頭を下げてくれた船長は、先ほどの喧嘩腰だった時とは打って変わって紳士の挨拶をしてくれたのだった。

 

 この人はブライト家の人間ね……オリビアは王太子妃教育が完璧だったから、貴族の名前を一通り覚えている。



 その中で、ブライト家というのはこの辺りを治めている諸侯で、王族派だったはず。


 ブライト家の次男、ガイアス卿――――この船の船長を務めるという事は、彼の主はヴィルという事なのかしら。



 年齢はガイアス卿の方が上だし学園で会う事もなく、私とは面識がないので分からなかったのかもしれない。



 これからお世話になるのだから、仲良くしておいた方がいいわね。



 「ガイアス卿、私も含め皆がお世話になります。よろしくお願いしますわ」


 「ああ、オリビア様は話が通じそうで安心しました」



 ガイアス卿の言葉に私は苦笑いするしかなかった。貴族の令嬢が操舵手をすると言い出すなんて、前代未聞だものね。


 私は船長と握手を交わすと、イザベルとソフィア、私の3人で船長室を後にする事にした。



 扉を開けて出ようとした瞬間、船首の方から大きな音が聞こえてくる。



 ――――ガタガターンッ!!――――



 船長室にいた皆が驚き、急いで音のした方を見ると、船首の方にある貨物室へ行く階段の手前で大きな荷物の上にぐったりとしているマリーがいたのだった。



 「マリー!!」



 私が駆けつけた時、マリーの顔は真っ青で、物凄く体調が悪い事だけは伝わってくる。



 「マリー!どうしたの?何かあった?!」


 「お嬢様……申し訳ございません~…………気持ち悪くて……」


 「え、それって……」


 

 「ちょっと退けてくれ」



 マリーの心配をしていた私の横に船長のガイアス卿がやってきて、マリーの様子を一通り見た後、彼女をヒョイと抱き上げた。



 「きゃっ、な、何をするのです……!」


 「大人しくしててくれ。船首の方は揺れやすいんだ。船酔いしたのだろうから、休めるところへ連れて行く」


 「私にはお勤めが……」



 具合が悪くても自分の勤めを果たそうとする姿が、前世での自分と重なってしまうわ。


 マリーが具合悪いのに無理してそのまま帰らぬ人に……なんて事態になったら私の方が立ち直れないし、この世界に転生した意味がなくなってしまう。



 公爵家を、彼女を失いたくなくて頑張ったのだから、マリーにはちゃんと休んでもらわないと。



 「マリー、頑張り過ぎないで。荷物くらい皆でやればいいんだし、心配しないで休むのよ」


 「お嬢様……申し訳ございません~……こんな少し乗っただけで…………うっ」


 「話はまとまったようだし、下の船室に行くぞ」



 今にも吐きそうなマリーを颯爽と連れて行ってしまうガイアス卿……うーん、男前だわ。


 違う意味でマリーが心配になってしまう。



 マリーを休ませてきたガイアス卿はヴィルと少し話し込んだ後、いよいよ出港の時間になったので、私たちを乗せた船はゆっくりとドルレアン国に向けて出港したのだった。

 

こちらWeb版になります!


もし続きが気になったり、気に入って下されば、ブクマ、★応援、いいねなど頂けましたら励みになります(*´ω`*)

皆さまのお目に留まる機会が増えれば嬉しいです^^


オリビアとヴィルヘルムや登場キャラクターが成長していく姿をじっくり書いていきたいと思っております。

彼らが歩む道を見守っていただければ幸いです。

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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