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第3話 過去へのタイムスリップ

 ポコリンは、久しぶりに会ったひいおばあちゃんとお茶した。


 もともとポコリンは、お母さんに連れられて、都心に住むひいおばあちゃんと何度か会っていたという。

 優しい曾祖母は、いつでもポコリンの言うことを丁寧に聞いてくれる。だから話も弾んで、そのついでで自分の今の悩みを打ち明けることになった。


「食べすぎないようにしているのに、どうしてか太っちゃうんだよね。もう少しスリムになりたいんだけど」


 すると、ひいおばあちゃんはくすくすと笑って言った。


「それは家系だから仕方がないわ。わたしだって子どものころは太っていたのよ」

「えっ、本当?」


 ひいおばあちゃんは太っているようには見えない。


「本当よ。高校生くらいまでは何をしても太ってね、随分ひどいあだ名もつけられたものよ。でもね、大人になって努力したら、気になるほどじゃなくなったの。あなたのおばあちゃんもそうだったのよ。お母さんはそうでもなかったのかな。でも、遺伝があるから、太るのは多分体質。そのうち痩せられるから大丈夫」

「ええっ、信じられない」


 自分ではあまり分からないが、ポコリンは周りからひいおばあちゃんによく似ている、と言われている。体質まで似てしまったのかもしれない。

 それでも、中学生になったばかりのポコリンには、曾祖母の言う未来がまるで見えてこなかった。


「そうかしら。でも、わたしが中学生のときに一番いいと思ったあだ名だって、ポコリンだったのよ。たぬきみたいな感じで太っているって。でも、まだかわいらしいと思ったわね」

「ポコリン……?」


 そんなあだ名が思いがけなくて気になった。そこで、ふと父親の部屋にタイムマシンがあることを思い出したという。



 たまたま同じ愛美の『ポコリン』というあだ名の話を、この未来の少女も聞いていたのかと、拓は不思議な気持ちになった。

 拓には、愛美が未来にポコリンと会話することさえ、うまく想像できなかったのに。


「タイムマシンの使い方は、全部パパから聞いていたの。わたし、これでもすごく優秀なんだから。13歳だからってばかにしないでよね」


 腰に両手をあてて、ポコリンはちょっと突っぱねるようなものの言い方をした。拓にはかえって幼く見えたのだが。ただそれを、顔には表すまいとした。


「中学一年生?」

「そうだよ」


 中二病一歩手前か。


 そう思ったが、黙っておく。

 ポコリンは一度咳払いをして、続けた。


「ひいおばあちゃんが自分と同い年のとき、どんなだったか、見に行ってみようと思っただけだよ」

「まさか、それが動機?」


 拓は声を上げてしまう。タイムマシンという大がかかな道具を使うにしては、随分と小さな理由のような。逆に言えば、この子にとってはそれだけ日常的な物なのかもしれない。


「うん」


 ポコリンは素直に返事をした。しかし、それから俯いて、沈んだ声を出す。


「だけどね……タイムマシンに乗ってみたら、そのあとがうまくいかなかったの」


 タイムマシンで過去や未来に行く研究はだいぶ進んでいるものの、まだまだ解明できないことは多い。

 ポコリンは、まずはひいおばあちゃんに中学時代について質問を繰り返してみた。住んでいるところや家族構成など。間違えずに特定できるように。

 そうして、父親の部屋にあったタイムマシンで、愛美の中学時代に行ってみたのだ。


「そこまでは、すんなりできたんだよ。本当にひいおばあちゃん、かなり太っていたよ。もちろん、タイムパラドックスとか起きないように用心して、こっそり見ただけ。すぐに戻ったの」

「それで?」


 自分の会ったことのない中学生の愛美に会ってきたのか。

 そう思うと、拓は何だか自分だけ置いていかれたような気分になってしまった。


 中学時代が一番太っていた、と愛美から聞いたことがある。今は言われないと太っているなんて思わないくらいなのだが。

 いずれにしても、愛美が痩せすぎなければいいと、拓は思っている。一度、ひどく痩せた愛美の写真を見てしまったから。


 ポコリンは続きを語る。


「戻ったんだけど、それだけじゃつまらなくて、もう一回タイムスリップしてみたの。三十代のひいおばあちゃんは痩せているのか確かめてみたくて。前にひとり暮らしをしていた話を聞いたことがあったから、ちょうどそのときがいいかなと思って」


 そのとき、というのがいつなのか、拓にはほぼ確信できた。


「それって、二日前?」

「そう。今の時点から二日前。正確には五十時間前になるよ。そのときも、ひいおばあちゃんから隠れてこっそり見ようと思っていたの。そのつもりだった」

「そのつもり?」

「うん。でもね、見つかっちゃったの」


「二日前の愛美に気づかれたのか……」


 拓にもある程度想像がつく。

 そうなると、もとの世界と変わってしまう可能性が出てくる。


「うん。それでひいおばあ……愛美さんはわたしに声をかけてくれて」


 ポコリンは改めて愛美さん、と言い換える。


「愛美さんは、わたしをおうちに呼んでくれたの。それで『何かお店でおいしいものを買ってきてあげるから、部屋で待っててね』って出かけたから、慌ててタイムマシンに乗って逃げてきたの。それ以上そこにいたら、過去が変わってしまうと思って」


 タイムマシンで過去に干渉しても、基本的には自浄作用が働き、元の世界とほとんど変わらないほど修正されるという。だから、ポコリンもこのくらいなら平気だと思っていた。


「多分、愛美さんが『そういえば変な女の子に会ったかも。あれは何だったのかしら。夢だったのかな』とか思う程度になると考えていたんだよね。それが、違っちゃったんだ」


 ポコリンは、そこで一旦言葉を切る。

 麦茶を手に取って飲むので、拓も自分のコップを持ち、軽く口に含む。コップをテーブルに置く音が、二つ重なる。

 どうやら、ここからが重要らしい。




 戻ってきてタイムマシンを降り、ポコリンはひいおばあちゃんの様子を見に行った。もちろん、過去を見てきたなんて言うつもりもなかった。


「でもね、ひいおばあちゃんの左手が目に入ってびっくりしたの。大きな火傷の痕があったの。今まで、そんなのはなかったはずなのに」

「……過去が変わったってこと?」


 ポコリンは神妙に頷く。


「ひいおばあちゃんに、その腕どうしたの、ってすぐ訊いたんだ」




「それがね、若いころ火事に遭っちゃってね」

「そんなことがあったの。いつ? それは火傷した痕なの?」


 つい根掘り葉掘り尋ねた。曾祖母の愛美は、それで記憶を手繰り寄せたようだった。


「確か31歳のときだったわ。そのころひとり暮らしをしていたんだけど、家の近くで見かけない女の子がいてね。夕方で普通はもう家に帰っているような時間なのに、一人でいるから何だか不思議で、家に上げたの。でも、出せるようなお菓子もなくて。かといってわたしはその当時はお料理もさっぱりだったから、何か買ってあげようと思って、近くのスーパーに行ったんだけど、そこで火事に遭ってしまって。左腕に大火傷を負って入院したのよ」

「そんなことが……」


 ポコリンは呆然とした。


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