信じて貰えないかなぁ
以前、私はバス通勤していました。
道路一本隔てた向かいに、アパートがあり、ゴミ捨て場が見えました。
それはとある春の、燃えるゴミの日。
私はバスを待ちながら、本でも読むか…と、文庫本を出しました。
早朝なので、他に人もなく、静かな朝…に影。
ふと見やると、燃えるゴミ袋の前に二羽のカラス。
一羽は漆黒の身体がどこかふてぶてしいオーラを放っている感じがしました。対してもう一羽は艶々していて潤いがある感じ。
例えるなら先輩と後輩。
私は本を読むのをやめ、観察する事にしました。
まるで先輩が後輩を案内してるように見えたんです。
後輩カラスが徐ろに、ゴミ袋に嘴を差し入れる。
何が出てくるか…私もドキドキしました。ティッシュ。ティッシュ。ティッシュ。
んん?ティッシュばっかり?
そこでキレた(?)のか、後輩カラス、中身を次々と引っ張り出す。
人間で言うなら、飲み物をこぼした時に、慌ててティッシュをがーっと抜く場合があるでしょ?
あんな感じです。というか、ティッシュしか入ってない?あのゴミ袋。
そして、ヤケを起こした後輩カラスを宥めるように先輩カラスが近寄って…。
そこで、バスが来てしまったんです。
私は何となく名残惜しい気分でバスに乗り込みました。
帰り道、ゴミは綺麗に片付けられていました。アパートの方が片付けたんでしょう。
次の週。燃えるゴミの日。
私はいつも通り、バス停に立ちました。文庫本を読もうと取り出し、ふと…カラスが二羽、いたんです。
既視感。めっちゃ既視感。
私は文庫本を鞄にしまい、真剣に眺める事にしました。
先週と同じ組み合わせに見えました。
と、先輩カラスが後輩カラスにまるで指し示すように、嘴でひとつのゴミ袋をちょんちょんしました。
後輩カラスが嘴を差し入れると…果たして、生ゴミ!
と、そこでバスが定刻よりも早く来たのです。
見たかったのに…。
次の週の燃えるゴミの日、私は休みでした。
あのカラスたちはどうしたかな?
後輩は(と勝手に決めつけている)独り立ち出来たかな?と、歯磨きしながら考えました。
それ以降、カラスたちの姿は見ていません。
面白い光景だったのですが、いかんせん証拠がない為、信じて貰えるかどうか…。
後輩を指導するカラス。
面白かったな。
でも、ゴミの片付けするのは大変だったろうな…。
ああやって、脈々と餌場を教えて、繋いで行くんだろうなぁ。