エメリの毎日
【エメリの毎日】
当初、エメリはガリガリの栄養失調気味だった。
しばらくしっかり歩けないほど衰弱していた。
しかし、特にアンヌがしっかりと介護をした。
そのためもあってしばらくすると回復に向かい、
一ヶ月後には以前と見違えるように元気になった。
真っ白だった顔色にも紅が指し始めた。
エメリが一番驚いたのは食事だった。
アンヌの作る料理はその辺のレストランを凌駕する。
『こんなおいしいパンやおにくははじめて!』
エメリがこの家で初めて笑顔を見せたのが食卓だった。
食事の美味しさはアンヌの腕だけではない。
パンにしろ、熟成肉にしろ、
エルランドやハンスの材料への取り組みが活きている。
パンは白いフカフカパンだ。
まさしく、王族や大貴族、富裕層レベルである。
熟成肉は、臭みのない、肉が分解して深い味わいのものだ。
これほどの肉はこの国では味わえない。
そこに新鮮な水牛乳、森の恵み(果実)を添える。
今では当たり前のようにガルムも食卓に並ぶ。
自分の席で、まるで人間のようにテーブルから食べる。
残念ながらナイフやフォークを使うわけではなく、
いわゆる犬食いではあるが。
その食卓にエメリが加わった。
エメリは食事の時間はニコニコだ。
『わたしもおてつだいをします』
『エメリ、いいのよ、気を使わなくても』
『でも、やりたいんです』
そのうち、エメリはアンヌの手伝いをするようになった。
最初は料理からだった。
エメリは聞き分けがよく素直であった。
次々と料理の仕方を吸収していた。
料理だけではない。
積極的に洗濯や掃除もするようになった。
エメリの手はアカギレだらけであった。
過去の過酷な生活が想像できた。
しかし、洗濯・掃除はしなくてもいいと言っても、
聞き入れなかった。
エルランドたちに恩義を返したいようだ。
そのうち毎日4人で掃除・洗濯をするようになった。
みんなでやると結構楽しい。
料理は、もとより3人で行っていた。
大事なところはアンヌが行うことが多いが、
準備するのはエルランドやハンスが行う。
エメリも料理の仕方を覚えてはいくのだが、
いかんせん背が小さく、非力であった。
台所は大人サイズに調節されている。
しかも、4人分の料理となるとかなりの肉体労働になる。
だから、4人分の料理となるとまだ難しかった。
『はい、おちゃいれました』
『エメリのお茶は美味しいね』
『アンヌと同じぐらい上手になったでやんすね』
『えへへ』
エメリは、お茶の入れ方とかをアンヌにならい、
休憩時間にエルランドたちに給仕することになった。
彼女はなかなか筋が良かった。
すぐに、紅茶はアンヌと遜色のないレベルになった。
以前から、お茶の経験があったようだ。
少なくとも、エルランドやハンスよりもずっと上手だ。
紅茶というのは香りが命である。
香りをだすために、カップやお湯は熱くする。
かといって、お湯は沸騰させすぎると、味が固くなる。
微妙な差であるが、汲み置きの水もダメ。
水よりも大切なことがある。
茶葉の選別・管理だ。
良い茶葉を購入し、乾燥した冷暗場所で保存する。
◇
◇
食卓に並んだ果実を食していたときのこと。
『わたし、アンヌさんのジャムだいすき』
『ありがとう。欲言えば砂糖があるともっと美味しくなるんだけどね』
『あまいしょくぶつならしってます。アンマーヌといいます』
『えっ、そんなのがあるの?』
『もりでとれます。あんないしますよ』
『わふ!』
掘る必要があるということで、スコップなどを持ち、
エメリの案内で森に向かった。
『このしょくぶつのねがあまいんです』
地上部はツルからできた植物だ。
掘っていくと、山芋のような根茎があらわれた。
『おらないように気をつけてくださいね』
エメリが言うには傷つけると風化が早いらしい。
家に戻り、洗ってなめてみる。
確かに、甘い。
『ブドウしぼりきでしぼって、火でねっして、さますといいです』
『誰から教わったの?』
『おとうさん』
『そう……じゃあ、ブドウ絞り器を買ってこなくっちゃね』
言われた通り、ブドウ絞り器を手に入れた。
アンマーヌ糖の結晶は僅かではあったが、
比較的容易に取り出すことができた。
ただ、初めて糖の結晶を作ったときは、
エメリは父親を思い出したのだろうか、
泣きながら糖をなめていた。
砂糖は市場にあるにはあったが、非常に高価だ。
滅多に手に入れられるものではない。
アンヌは大喜びでジャムとお菓子づくりに精を出し始めた。
最初に取り掛かったものは、スフェール。
元々は外国原産のお菓子だ。
小麦粉・卵・砂糖を混ぜて団子状にし、油で揚げたもの。
この地方の特産品で、城にも献上される素朴なお菓子だ。
アンヌは日常的にこのお菓子を作るようになった。
アンヌはビスケット作りも上手だった。
ビスケットの材料は、小麦粉・卵・砂糖にバターだ。
バターは水牛からハンスが作った。
水牛の乳を瓶につめ、生クリームを分離させる。
この生クリームをひたすら振ってバターを作る。
体力を使うし、水牛が漏れるので手がネチャネチャになる。
できあがったバターは非常にさっぱりとした味わいだ。
ビスケット作りのポイントはこね方だという。
ざっくりとこねて、粘りを出さないこと。
簡単そうだが、エルランドたちとアンヌとでは
出来上がりに大きな差が出る。
もっとも、お菓子づくりは専らアンヌとエメリが担当した。
特にエメリはお菓子に大興奮で、アンヌ指導のもと、
一緒にお菓子づくりに励んでいる。
そんなこんなで1年が過ぎた。
エメリは一回り大きく美しい少女に成長した。
以前の虚弱ぶりはすっかり影を潜めた。
エメリの誕生日には大きなケーキで祝った。
プレゼントはネックレス。
エメリは宝物だといって、大喜びだった。
4人と1頭は家族としての日常にすっかり満足していた。
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