エルランドの隠居生活③
【エルランドの隠居生活③】15歳春~
さて、パンは日々素晴らしくなっていく。
次は、肉だ。
肉は森に行けば取り放題だ。
なんなら、ガルムが毎日狩ってくるぐらいだ。
みんなの一致した意見は、
一番美味しいのは、魔鹿。
次に一角ウサギ。
いずれも淡白な味わいで癖がなかった。
新鮮なのは特に美味しかった。
だが、新鮮な肉はどの獣でも固い。
そして、腐食肉には新鮮な肉にはない美味しさがある。
『これは、あっしのオヤジの故郷の話なんでやすが』
アンヌの夫、狩人のハンスはある時こんな話をしてくれた。
『オヤジは北の生まれなんでやすがね、そこでは肉の保存方法として、乾燥させる、塩漬けする、ということの他に、血抜きを十分して洞穴の奥で寝かせる、ということをしてたそうでやす。味に深みが出て、しかも臭みがない肉になるそうでやんすよ』
『僕たちもやってみようか、その洞窟の奥で寝かせるっての』
『坊っちゃん、洞窟よりも地下室を作ったらどうでやすか』
『ああ、確かに』
というわけで、数日かけて地下室を造成した。
そこに、血抜きを十分にした肉を寝かせてみた。
季節は冬。
さすがに夏とかはすぐに腐って臭い。
『臭いのもあるけど、上手くやると味に深みが出て柔らかくなるよね』
『そうでやすな、坊っちゃん。温度の他に風通しとかも大事かもでやすね』
『わふ!』
ガルムもそう勢いよく返事する。
ガルムは人間の言葉を理解しているふしがある。
まあ、ガルムは肉よりも内臓が大好物なんだが。
僕とハンスは肉を寝かせる方法を試行錯誤していった。
『お坊ちゃま、何ですかこのお肉。美味しくて柔らかい!臭みもないですし。一角ウサギみたいですけど、何の肉なんですか?』
『いや、一角うさぎだよ』
『アッシと坊ちゃんの合作さ』
一角うさぎは二晩寝かせるだけで十分な熟成肉となった。
会心の作を軽くあぶってアンヌに食べてもらった。
絶賛だった。
地下室で、肉を乾燥させず風通しをよくする。
臭みを出さないようにするのがポイントであった。
『ひょっとして、地下室でゴソゴソしてたのってこれですか?』
『正解。上手くいったらアンヌに食べてもらおうと思ってたんだ』
『ワフワフ!』
ガルムもよこせ、と吠えている。
『ガルム、少し待ってね。いろいろ試して見るから』
アンヌは、提供された熟成肉をさらに自分のスキルで焼肉にしてみた。
まず、肉をマッサージする。
厚みを一定に切り分け、筋に包丁を入れる。
水分をとり、塩味をつけて少しだけ寝かしてみる。
表面の水気をとり、フライパンで軽く焦げ目をつける。
その後、弱火でじっくりとあぶって中まで火を通す。
ハーブをまぶし、予熱でしばらく寝かす。
一切れ切ると、見事な紅色に火が通っている。
大量の肉汁がこぼれだす。
『さあ、ガルム。おまたせ』
『ワフ!……』
ガルムは待ちに待った焼肉をほおばると、
そう一声上げ、あまりの美味しさに打ち震えているようだ。
そういえば、目も涙目になっている。
大げさな奴だな。
もっとも、アンヌの焼肉スキルは非常に高い。
エルランドたちが肉を焼いても、パサパサ肉になりがちだ。
その日以来、ガルムは内臓派から熟成肉派に鞍替えした。
内臓自体は美味しいのだが、部位によれば臭いが強烈だ。
内臓は一部を除き新鮮なうちに少し離れた場所に捨てた。
付近の獣に与えるつもりで。
そのうち、肉食獣が待ち構えるようになった。
捨てられる内蔵目当てだ。
内蔵を好む肉食獣は多い。
それなりに強い獣がやってくる。
この穴場を勝ち取ったのだろう。
森で最強はガルムである。
ガルムに次ぐ存在がこの捨て場に来てるのかもしれない。
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