村の料理 焼肉
【村の料理 焼肉】
『この村にはレストランがないんだね』
ある日、エルランドは疑問をジーナにぶつけてみた。
『人族には料理屋とかあるらしいけど、獣人たちは料理は各自のするもの、ていいうのが常識よ』
獣人は、何事も自分でやりたいと思うタイプが多い。
これは料理でも同じだ。
自給自足の食材を自分たちで料理し家族で分け合う。
これが獣人の基本スタイルだ。
だから、料理屋がない。
なんらかの原因で料理を作れない人もいるが、
そういう場合は周りがカバーする。
病気になったときのような場合だ。
裏を返せば、料理が極めてシンプル、
つまり素人料理ですんできた、
ということがある。
肉は焼くか、単に煮るだけ。
穀物は乾燥させてお湯でもどすだけ。
そこに生の果実。
この程度の食卓をずっと続けてきた。
その点に関しては、人族もさほど変わらない。
いや、人族の場合、貴族は肉に偏るし、
庶民は肉を食べられない。
その点を考慮すれば、獣人のほうが
バランスのいい食事をしている、
と言えるだろう。
そういう食事情の獣人村にエルランドたちがやってきた。
これが村の食事情を大きく変えることになった。
まずは、肉の熟成が獣人村に流行し、
全村世帯が熟成室を地下に作ることになった。
その時に、村人に対して熟成講習会を開いたのだが、
村人から他にも何かあるのなら教えて欲しい、と問われ、
講習会、つまり料理教室が常態化した。
参加者が多いから、新たに教室を増設し、
そこで常時数十人に対して、
アンヌが料理を教えることになったのだ。
最初に教えたことは、肉への火の通し方だ。
『皆さん。肉は焼けばいいというものではありません』
どよめく会場。
『ポイントは、肉汁をどうやって封じ込めるか、ということです。火が強すぎると肉汁が飛んでしまい、パサパサになってしまいます』
アンヌは、肉を焼いてみせた。
『肉は均等に切ります。厚さがバラバラですと、火の通り方が違います』
『厚さは最初は指の太さ程度にしましょう。慣れたら厚くしても構いません』
『熟成室は温度が低いので、肉の温度を室温に戻しておきます。火を通りやすくするためです』
『次に、塩を振ってしばらく置いた後、表面を布で拭きます。そのままにすると焦げ目になりますから』
『火加減は、弱火。肉は決して焦がしてはいけません』
『出た油をかけながら、弱火でじっくり火を通していきます。このとき、肉汁が出てくるようだったら、火を通しすぎているかもしれません』
『適度に火を通したら、肉を鉄板から取り出して、大きな葉に包んで休ませてください。火を芯まで通すためです。葉に包むのは、乾燥させないため。葉はお好きな香りのするもので結構です』
『最終的に、強火で表面を焦がします。香ばしさをつけるためです』
『塩とハーブを振って、できあがりました。さて、切ってみましょう』
会場のみんなは驚きの声を上げる。
『アンヌさん。肉が生焼けみたいなんですが』
『みなさん。これがいい火の通り方です。一見生焼け。実は火が通っている。食べてみてください』
獣人は肉にはしっかり火を通す。
生肉が食中毒のもとになったりするからだ。
断面が赤い肉はもってのほかなのだ。
『『『えっ、すっごいジューシーで美味しい!』』』
『いいですか、生肉の赤色と火の通ったピンク色。違いをしっかり頭に刻み込んでください』
そうはいうものの、
なかなか旧来の習慣の抜けない人は多い。
時間もかかる。
だから、いきなり強火で炙ってしまうことになりがちだ。
『今日は鉄板で肉を焼きましたが、レンガ窯でじっくり火を通すやり方もあります』
窯は火の通り方が均一になるので、
料理が美味しくなることが多い。
多くの家庭で自作の窯を組み上げ、焼肉に挑戦し始めた。
窯であろうと鉄板であろうと、
多くの人が肉の新しい焼き方に挑戦した。
焼き方の上手い人は、周囲の人達にコツを伝授しつつ、
ゆっくりと焼肉のノウハウが広まっていった。
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