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エルランドの隠居生活①

【エルランドの隠居生活①】15歳春~


 エルランドは毎月の十分な生活費と

 領のはずれに適度な住まい、

 幼い時から仕えてくれているメイド夫婦を与えられた。


 この歳で隠居生活に入る。

 エルランドは顔から一切の輝きが失われた。

 それを支えるのは、メイドのアンヌ夫婦と、

 そして、一匹の飼い犬であった。



 犬の名前はガルム。

 小さいときに森で迷子になっていた子犬を拾った。


 通常、森の野犬は非常に獰猛で危険だ。

 しかし、子供となると話が別になる。

 庇護欲が出てしまうのだ。


 

『わふ!』


『餌あげたら、ずっとついてくるんだけど』


『坊っちゃん、親とかそばにいないんでやすか』


 しばらく様子を見ていたが、親はいないようだった。


『小さいから、ほっとくと危ないね』


『わふわふ!』


 子犬は尻尾を盛大にふって喜びを表している。

 言葉がわかるようだ。

 家に連れて行こうとすると、足元にまとわりついてくる。



『この犬、僕と同じだ』


『ホントでやんすね。右目が青色がかった灰色、左目が澄んだ青色』


『犬だけど僕の兄弟みたいだ』


『青い目だから、魔犬なんですかね』


『魔犬か。名前は……伝説にあるガルムでどう?』


『わふ!』


 またもや、盛大に尻尾を振っている。


『ああ、気に入ってるみたい』



 子犬はガルムと名付けられた。

 漆黒の毛と不完全な青い目の持ち主であった。

 ガルムはエルランドによくなつき、

 ほぼ全生活をエルランドとともに過ごした。


 ある意味、弟や妹よりも親愛なる関係であった。


『兄さんとガルム、僕たちより仲がいいよね』


『お兄様、私達にももっと笑顔をふりまいてほしいですわ』


 そう弟や妹からも冗談を振られるが、

 弟や妹に愛情を注がなかったわけではない。


 だが、ガルムに食事を自ら与え、一緒に遊び、

 風呂で体を洗い、同じ布団で寝る。

 病気になれば徹夜で看病をし、

 エルランドが病気になればずっと添い寝をする。


 家族以上の関係をエルランドとガルムは築いていたのだ。

 それにオッドアイの特徴はエルランドと同じで、

 エルランドは自分の分身のような気さえしたものだ。



 子犬のガルムはまたたく間に大きくなり、

 今では体長2mに及ばんとしていた。


 大きくなるにつれ、姿がどんどん美しくなっていった。

 口吻が長く細面で、垂れ耳。体型は比較的細身で腰が高い。

 全身を絹のような長く美しく漆黒の被毛が覆っている。


 目がオッドアイなのは子犬の時から変わらない。

 全体として、見たことのない優雅な魔犬である。


 ガルムの運動能力は抜群に高かった。

 すぐに、周囲の森にいる魔獣の覇者となった。



 森には魔素が溢れている。

 魔力のないものは棲まうことができない。


 獣は当然のように魔獣となる。

 魔力を帯びた獣が魔獣なのである。

 魔獣は通常の獣よりも遥かに強い。


 もう一つやっかいな存在が森に潜んでいる。

 魔物だ。

 魔物とは、魔素のたまり場で生まれた精霊のような存在だ。

 魔石を核としたある種の生命体である。


 ただ、魔獣は死ぬと死体が残る。

 魔物は死ぬと霧散する。かわりに魔石が残る。


 魔獣も魔物も通常の人間には及びもよらない破壊力を持つ。

 最弱の存在であっても、だ。


 最弱の存在といえば、魔獣では一角うさぎや魔ネズミ。

 魔物ではスライムとかゴブリンとかである。


 一角うさぎや魔ネズミはおそろしくすばしっこい。

 更に一角ウサギはその額に持つ角がナイフのように鋭い。

 これに刺されると、致命傷を負うことが多い。


 ゴブリンは通常の人間以上の力と残忍性を持つ。

 スライムは通常の武器や魔法は効かない。

 うっかりすると、スライムの持つ消化液で骨も残らない。


 もちろん、魔熊、魔猪、魔馬、魔狼……

 魔力を帯びた獣が森を闊歩する。

 森の奥にはオーク、オーガ……

 強大で残忍な魔物が待ち構えている。。



 そんな危険な森でガルムは覇者となった。

 そのお陰で、森のそばのエルランドの家は安全になった。


『坊っちゃま、ガルム様々ですね』


『ホントでさ。あっしも森にいろいろ採取しに行くんですが、ガルムがついてきてくれるおかげで楽々です』


 アンヌ夫婦はいつもガルムに感謝する。

 アンヌは家事全般。夫のハンスは力仕事全般という分担だ。

 アンヌの祝福は料理人、ハンスは狩人だった。

 ちなみに、両者とも魔力が発現している。目が青い。


 ガルムの毛をブラッシングするのはみんなの日課になった。


『みんな、暇さえあればブラッシングしてるよね』


『だって、ガルムが気持ちよさそう』


『ガルムの顔見てるだけで疲れがとれるんでさ』


『わふ!』



 エルランドはしばらくは何のやる気も起こらなかったが、

 ガルムとの交流、そしてアンヌ夫婦の快活な笑顔に

 徐々に元気を取り戻した。

 剣や魔法の修行を再開させ、

 加えてアンヌやハンスの手伝いをするようになった。


『坊っちゃま、そんな下々のことをなさらないでください』


『そうですよ、坊っちゃん。旦那様に申し訳けがたたねえ』


 旦那さまとは父親のエルランド伯爵のことである。


『いや、ぜひやらせてほしい。この家には3人と犬しかいないんだし、僕もなにかしないと腐っていくようで』


『まあ、坊ちゃまの料理への情熱は並じゃありませんからね』


『坊っちゃんの剣と弓の腕があると助かりやすしね』


『わふ』


『ガルム、意欲は買うけど、料理中は静かにしていてね』


 ガルムも料理の手伝いをしたくて、

 エルランドたちの周りではしゃぐのであるが、

 叱られて、自分の食器の前で静かにしているのであった。

 



ブックマーク、ポイント、感想、大変ありがとうございます。

励みになりますm(_ _)m

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