追放された長男②
【追放された長男②】12歳~15歳春
エルランドが追放されるまでを簡単に述べよう。
12歳の祝福の日から、エルランドは更なる精進を重ねた。
祝福を授けられると、次のようなメニューが
視界の端に浮かび上がることができるようになる。
氏 名 エルランド・アベニクス
年 齢 12歳
祝 福 魔石
スキル なし
『魔石』がどういう祝福なのかはさっぱりわからない。
全国の著名な学者や魔道士などに調べてもらった。
古代書もあさった。
それでもわからない。
だが、少なくとも金色に包まれた祝福だ。
特別なものに違いない。
彼は、武術系、特に剣の修行と魔力を扱う訓練を続けた。
にも関わらず、なんのスキルも発現しない。
体内に魔力はあるようだが、制御できない。
武術系の祝福を授けられれば、
即座にそれに見合った武術系のスキルが生じる。
魔力も発現し、瞳が青く変色し、
容易に魔力を制御できるようになる。
魔法系の祝福であれば、
膨大な魔力に魔力酔を起こすほどになる。
しかし、一切の変化が訪れなかった。
瞳はオッドアイのままだった。
その間に、一つ下の弟には『剣聖』の祝福が授けられた。
3つ下の妹には『魔道士』の祝福が授けられた。
3年の修業の末、エルランドには覚悟ができていた。
魔力が全く発現しない。
いや、魔力はあるようだが、制御できない。
それは、貴族社会からの追放を意味する。
父も母も弟も妹も彼に厳しい言葉を投げかける訳では無い。
むしろ、日々焦燥した顔でエルランドと顔を合わせる。
15歳の誕生日、つまり成人の日が近づく。
アベニウス家の食卓は暗く沈んだものになっていった。
皆が来たる日を想像するからだ。
陰鬱な気分にならざるをえない。
『廃嫡する』
そう告げる父親の顔をエルランドは直視できなかった。
父親のアベニウス伯爵の声にも苦渋の決断が滲んでいる。
しかし、伯爵は決断せざるを得なかった。
カルマール国建国神話。
元来、人族は亜人や獣人に比べて劣る存在であった。
体力、知力、スキル、あらゆる場面において、
人族は劣等とみなされ、実際そうだった。
森の周辺でひっそりと潜み、亜人や獣人の目を避けつつ、
日々を暮らした。
そうした屈辱の日々を打破したのが、
賢者カルマールとその仲間達であった。
彼らは、人族に『祝福』をもたらした。
彼の愛用する祝福の杖を振ると、
人族はみるみるうちに能力を強化していった。
人族は、亜人や獣人に対抗しうる能力を獲得した。
人族特有の集団能力をもって、人族の居住地を拡大。
やがては、亜人や獣人を圧倒する存在として、
この世界に君臨したのだ。
『祝福』はシステムとして国の隆盛に組み込まれた。
祝福による魔力は建国の礎ともいうべき存在になった。
魔力は武力・頭脳面、両面において発展の要因となった。
魔力がこの国の支配において必要不可欠なものになった。
もっとも、それはこの社会に格差社会をもたらした。
魔力を持つものと持たないもの。
それは、亜人・獣人差別よりもひどくなった。
亜人・獣人には祝福システムはない。
生まれつき、種族特有のステータスや能力を授かる。
彼らは魔力のない人族よりも明らかに強者であったのだ。
魔力を持たない者に対する差別意識は、
年をおうごとに激しくなった。
それは貴族社会においては顕著であった。
魔力の発現しないエルランドには非常に厳しい。
その象徴が、エルランドの中途半端な青色オッドアイであった。
魔力の発現したものは、目が青くなる。
これに例外はない。
たとえ魔物であろうとも。
エルランドのオッドアイは
魔力の発現が中途半端であることを示していた。
アベニクス家としても、そういう存在はまずい。
伯爵家のような家柄では正統性を失う。
対外的に、貴族の根幹に疑問を生じさせるのだ。
完全なる青目。
それこそが、王国貴族としての正統性を担保する。
青目至上主義。
王国に通底する思想であった。
その目を持たない貴族家長男の存在。
伯爵家は様々な嫌がらせ・差別を受けるのみならず、
貴族籍を失う恐れさえあった。
『今までありがとうございました』
下を向いたまま、絞り出すようにエルランドは返答をした。
床に水滴が落ちていくが、エルランドは気が付かない。
そもそも床に目の焦点が合わない。
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