料理教室
【料理教室】
『ねえ、アンヌさん。料理教えてくれないかしら』
そう切り出したのは、隣に住んでいる獣人だった。
『ええ、いいですよ』
『あの、習いたい人が結構いるんだけど』
獣人族の食文化は人族とたいして違いはない。
肉を焼く。雑穀を煮る。
そのぐらいだ。
人族よりも多少劣る程度である。
肉や果実が豊富な分、人族の庶民よりは立派ではある。
エルランドたちはさすがに村の食生活には馴染めなかった。
極力アベニクス領時代の食糧事情を再現していたのだが、
隣人や訪問者等に振る舞っていたら、料理を教えてくれ、 という要望が増えた。
なので、村人相手に料理教室を開くことにした。
まずは、肉の保存方法。
これはエルランドとハンスの担当だ。
パンの焼き方。
担当はアンヌとエメリ。
ビスケットの作り方。
担当はアンヌとエメリ。
【肉の保存方法】
村長さんに許可をもらい、
借家の地下に地下室を造成することにした。
村長さんに頼んで人を回してもらった。
獣人族は身体が強い。
あっという間に広い地下室が出来上がった。
地下室で行うことは肉の熟成である。
この国はたいてい肉の処理は、
内臓は新鮮なうちに食べ、肉は塩漬けか干し肉である。
血抜きもあまりしっかり行われない。
それはこの獣人村でも同様だ。
だから、エルランドとハンスの肉の熟成技術には皆驚いた。
『寝かせて何日かたっているのに、味に深みがあり、臭みがない』
獣人族にも腐った肉を食べる種族がいるが、
たいていはその臭みを敬遠するし、
そもそも食中毒に弱い。
ところが、エルランドたちの熟成肉は、
臭みがあまりない。
そして、柔らかくて味のしっかりついたものになっている。
ただ、夏場はどうしても地下室の温度が上がってしまうし、
冬場は乾燥しすぎる。
氷魔法や風魔法の使える獣人がいると便利なのだが、
獣人は基本的に魔法が使えない。
エルランドとハンスはこの熟成技術を請われるまま、
獣人に伝授した。
技術を取得した獣人は地下室を設け、
さらにその技術を他の獣人に伝えた。
数ヶ月もすると、村の殆どの獣人が
地下室で肉の熟成を行うようになった。
獣人村はこのように技術の水平展開が早い。
ただし、主に自分の或いは家族の使う分の肉を
熟成するだけだ。
余剰を作っても、村の共同倉庫に充填するためであり、
それで儲けようという考えにはいたらない。
【パン】
獣人村で食される穀物は、麦系の雑草だ。
森の周囲に密集している。
秋に一斉に収穫して、実を保存する。
食べ方は、乾燥させた実を砕いて、粥にするのが多い。
少し気の利く獣人はパンにする。
いずれもさして美味しい物ではないが、栄養は豊富だ。
アンヌとエメリはパンづくりの講習を開いた。
実の選別。小石やゴミ、未成熟の実を取り除く。
実を砕く。石臼で。
篩にかける。表皮を吹き飛ばす。
専用の酵母菌の作り方。
注意点は上記4点だ。
小麦の栽培を行っているものも数名いる。
アンヌは彼らと肥料を研究することにした。
栄養は与えればよいと言うものではない。
肥料と栽培する植物との相性もある。
アンヌ・チームはとりあえず小麦栽培にむく肥料を作った。
小麦の栽培に向いている肥料の知識は獣人たちにもあった。
森の腐葉土、水辺の腐植土、家畜の糞、貝殻の粉など。
そこにエルランドの魔石回復薬を加えてみた。
すると、半分の時期で小麦は結実した。
しかも、量が多く、味も良い。
獣人たちは栽培面積を増やしていった。
獣人の主食となる穀物が小麦となるのは自然であった。
【ビスケット】
ビスケットは長い間エメリが待ち望んでいたものだ。
旅にでてからは、満足なお菓子を探し出せなかった。
アンヌの作り出すビスケットは、
カルマール王国でも群を抜いていた。
ただ、それにはアンヌのお菓子技術も貢献しているのだが、
もう一つ、素材の良さがあった。
アベニクス領にいたころはいい素材が手に入ったが、
旅行中ではそれは難しかった。
ビスケットの素材は、小麦粉、牛乳、バター、卵、砂糖。
■小麦粉
上記の通り。
■水牛乳
水牛はこの国では普通に見られる家畜だ。
主に耕作用及び水牛乳用の家畜として飼われている。
この村では獣人の力が強く、耕作に水牛を使う必要がない。
だから、水牛は飼われていない。
野良水牛を水牛乳用専門の水牛として飼育することにした。
野良水牛は攻撃しなければおとなしい。
ガルムに頼んで、水牛を牧場に誘導した。
魔石回復薬やアンマーヌを混ぜた飼料を与えたところ、
水牛たちは大変気に入ってくれたようで、
村の牧場で大人しく飼われている。
※アンマーヌ 根の甘い植物。
■バター
水牛乳をおいておくと、クリームが分離する。
そのクリームを密閉容器にいれてひたすら振るだけである。
できたバターはさっぱりとした味わいとなった。
■卵
ポッロ鳥の卵が有名だ。
ポッロ鳥は気性が荒く、飼育するには注意が必要だ。
餌は乾燥させた麦系の雑草がメインである。
そこに魔石回復薬やアンマーヌを混ぜたものを与えている。
■砂糖
アンヌマーク糖が一番村民に喜ばれたものかもしれない。
この国では砂糖は一般的なものではなく、超高級品だ。
甘さは果物でとることが多いが、
あんまり甘くないものばかりだ。
そこに純粋な糖分が出現した。
アンマーヌはアベニクス領同様、
森で見つけることができるのだ。
驚くなというほうがおかしい。
ブックマーク、ポイント、感想、大変ありがとうございます。
励みになりますm(_ _)m




