魔石回復薬
【魔石回復薬】
『こんにちは。こちらが薬師の長だとお伺いしたんですが』
『はい、私がこの村の薬師の取りまとめをしております』
この村には薬師ギルドというようなものはない。
そのかわり、定期的に薬師が集まって会合を開いている。
その名目上のトップが、今回訪問した薬師のアニエスだ。
『私はエルランドと申します。この度薬師を開局するつもりですので、お伺いに上がりました』
『ああ、ブラックハウンド様にご随行されてる方ですね。そうですか、それはご丁寧に』
『そこで、少しご相談がありまして』
『はい、なんでしょうか』
『私の提供する薬は、ブラックハウンド様のご加護を得ておりまして』
魔石回復薬はガルムの加護を得ているわけではない。
そのほうが話が通りやすそうと思い、
ブラックハウンドの名前を出している。
『お犬様の!それは素晴らしい薬なんでしょうね』
『はい、ご覧になってください』
エルランドは、魔石回復薬を渡し、効能を見てもらう。
アニエスは自分の古傷跡にふりかけてみる。
白い霧が立ち込めたかと思うと、
傷跡はみるみるうちに治癒していく。
『おお、なんと素晴らしい!人族を含めてあらゆる薬を試したんですが、この傷跡は治りませんでした。今も季節が変わる頃になると痛みがでます』
『はい。おそらく、伝説のエリクサーに準ずるような効能がありそうです。でも、そんな薬は簡単には販売できませんよね』
『ええ、高額にすれば買えないし、安くすればお客さんが殺到しますね』
『そのとおりです。人族に目をつけられますし。私としては儲けるつもりはないのですが、かといって市場を破壊するようなことになっても困るのです』
『なるほど』
『そこで、私は薬師の皆さんに薬を提供しようと思っています。数は多くありませんが』
『ああ、卸をされるわけですか』
『はい。それと、この回復薬を研究して既存の薬と調合してはどうかと』
『ああ、素晴らしい薬が低価格で実現するということですね』
『はい。それでご相談にあがりました』
『承知いたしました。たいへん有り難いお申し出、さっそく薬師仲間を集めて相談することにします。明日、朝10時ごろにここへお越し願えませんか』
次の日の会合は有意義なものになった。
魔石回復薬の素晴らしさに皆が平伏する勢いであった。
ブラックハウンドの加護付きという触れ込みもあるからだ。
『魔石回復薬は価格は抑えてもらっても結構です。お金を持っている人だけが使える、というふうにはなってもらいたくないです。ただ、本当の緊急用ですね。まさかとは思いますが、転売する人も出てくるかもしれません。そういうのは極力避けたいですね』
『魔石回復薬の管理は徹底しましょう。流出はまずいです。金銭的なものもそうですが、権力が近寄ってくるのは間違いないです』
『確かに。人族には知られたくないですね』
『しかし、このような大きな魔石をどこで入手されるんでしょうか』
『詳細は申し上げられませんが、それはブラック・ハウンド様のご加護と申し上げておきます』
『ああ、なるほど。それなら当然のご加護ですな』
『ワフウ?』
もちろん、それはエルランドのスキルによるものである。
だが、流石にそれを口外するわけにはいかない
どう話が伝わっていくかわからないのだ。
もっとも、ガルムは地中から顔を出し、
相変わらず不思議そうな顔をするのであった。
魔石回復薬の管理方法について話し合ってから、
魔石回復薬を使った普及品の議題に移った。
しばらくの話し合いのあと、
『魔石回復薬を各自の研究として持ち帰りましょうか』
『ああ、そうですね。研究結果は次回の会合に持ち寄り、検討するということで宜しいでしょうか』
『特に、感染症により有効な薬ができるといいですね』
魔石回復薬は外傷に対しては強い効能がある。
しかし、感染症に対しての効果はそれほどではない。
『了解しました』
獣人族の村人は金儲けを考えない。
日々の暮らしに十分な糧が得られれば満足であり、
各自の能力に見合った貢献を周りに施そうとする。
次回会合時には結果発表が行われた。
その結果、
痛み止め
咳止め
解熱剤
胃薬
などといった初歩的な薬、
感冒薬
外傷薬
化膿止
対感染症薬
など、様々な薬のレシピが発表された。
『魔石回復薬のお陰で、希少な薬草が不要になりました』
『ああ、わざわざ危険なところへいかなくてもいいですね』
『ほんの少量混ぜるだけですが、効果も凄いです』
『あとは、この村には様々な種族が同居しております。種族別の特有病や用法の違いには留意したいです』
『確かに。薬の開発は継続するとして、今後も経験を積み重ねていきましょう』
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