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ジョゼフィン・グラナトゥムは決して穏やかな女性ではない。
はっきり言って性格は悪く、プライドは高いし気に入らないものは排除する。
それでいて非常に貴族的だった。
公爵令嬢として、そして未来の王妃として受けた教育がその性格を表に出さず完璧な淑女として振る舞えるようにしたのだ。
おかげでジョゼフィンは完璧な令嬢であり第一王子の妻に相応しい女性であると評価されてきた。
そのためマリアとそれに群がる男の一人に成り下がったノクスに対して批判的な目が多い。
もし我儘三昧の性悪高飛車令嬢であればすぐさま引き摺り下ろされていただろうと思い、心の中で教育係の面々に感謝したこともある。
そして今、ジョゼフィンはその性格の悪さと陰湿さ、更に自身の魔力を最大限に活用しようとしていた。
「さて、あの女を排除しなくてはね」
学園から公爵家へと帰ってきたジョゼフィンはすぐさま自室に行き使用人にしばらく入らない様にと言い含めた。
そして部屋に防音結界を張り、更にはジョゼフィンがただ部屋で読書をしているように見える幻影魔法までかけた。
(王家の影なんかに見られる訳にはいかないもの。念には念を、と)
王妃になると決まった時から自分には王家の影と呼ばれる監視がついている。
こっそりとつけたつもりなのだろうがジョゼフィンにはバレてしまっていた。
決して彼らが無能な訳ではなく、ジョゼフィンが有能すぎたのだ。
しかしジョゼフィンは気が付かないフリをしていた。その方が都合がいいからである。
見破られない程の精巧な幻術魔法を使う事で、彼らにはジョゼフィンが何もやましい事をしていないという証人になってもらう。
「普段から力をひけらかすような真似をしていないお陰でここまで細かい事が出来るとはバレていないのよね。私ってば優秀だわ」
高い魔力を持ちながらそれを貴族としての平均値くらいに見せ、使える呪文も学園で習うレベルのものしか人前では使わない。
そんな芸当ができるくらい彼女は優秀だった。
ジョゼフィンは機嫌良く鼻歌を歌いながら本棚に手をかけ魔力を込める。
すると本棚が一人でに動き、その後ろに隠されていた扉を見せる。
扉の向こうには隠し部屋がある。
部屋といっても広いものではなく、重要な物や秘密にしたい物を置いておける程度だ。
「確かこの辺りにしまっておいたはず……ああ、あった」
表にはあまり置いておけない本をしまっている箱の中から一冊取り出す。
生命を操る魔法について書かれた魔術書だ。
内容が非常に冒涜的であるため禁書とされていたが、祖父がまだこの本が禁書となっていなかった時期に入手しコレクションとして保存していたものをジョゼフィンがくすねたのだ。
既に亡くなっているため形見として貰っておく、と心の中で言い訳をしたとかしないとか。
そんな本を開き、ジョゼフィンは目的の魔術を探す。
魂を枯らす、魂を取り除く、寿命を縮める……物騒な魔術が並んでいるが、ジョゼフィンはマリアを殺すつもりはないため読み飛ばして行く。
殺すよりももっと酷い目に遭わせなければ気が済まないのだから。
「……あったわ。『生命の創造』」
ページを捲る手を止め目的の呪文を読み解く。
「霊峰の浄化された土……肉体の一部と魔力……あとは……赤い魔石に……結構いるのね」
必要なものを指折り数え、手順を頭に入れて行く。
この程度の暗記、国内の貴族全員を頭に入れるより簡単だった。
すっかり全部覚えると、手の中に炎を生み本を燃やし尽くしてしまった。
「証拠はなるべく消しておかないとね。……あら、これはお祖父様の形見のつもりだったわね。ごめんなさいねお祖父様」
全く申し訳ないと感じてはいないが一応の謝罪をし、ジョゼフィンは材料を集めるため指を一つ鳴らし、部屋から転移した。
その後、特に材料集めに苦労する事など無く終わった。
転移という便利な魔術を使えるし、そもそもジョゼフィン程の立場で手に入れられない物などあまりないのだ。
「肉体の一部はまあ……髪の毛でいいでしょう。あとはここに魔力を込めて……」
掌大の魔法陣の上に混ぜた材料を乗せ魔力を込める。
それは蠢き形を変え、やがてまだ数センチ程の胎児となった。
ジョゼフィンは産まれたばかりのそれが死なないように保護魔法をかけると、愛おしいものを見る表情で胎児を掌に乗せる。
「さあ、あとはこれをあの女の胎に移すだけね」
ちゃんと育つのよ、そう彼女が呟くと同時に胎児はそこから消えた。