流れ星に願いを~フランソワとミシェルの物語3
今年も姉妹のもとへ会いに来てくださってありがとうございます。
さあ、フランソワとミシェルはこの冬をどう過ごしているんでしょう?
そして、姉妹の願いは叶うのか?
そっと見守ってあげてくださいね☆彡
――フランソワとミシェルはとても仲の良い姉妹です。姉妹は、王から寵愛を受ける母マリアと一緒に、王宮で人々から愛され幸せに暮らしていました。
しかし、長らく子供に恵まれなかった王妃との間に娘が生まれると、王はマリアを自分から遠ざけました。そして、その子供たちである姉妹の存在も「不潔なもの」とされ、だんだんと邪魔者として扱われるようになったのです。
そんな日々が続いたある日、とつぜん母マリアが王宮から姿を消しました。
フランソワは、母が大魔法『ジャーン』が満ちる国へ旅立ったのはないかと考えました。そして、母の後を追う決心をすると、ミシェルを連れて船に潜り込み長い長い旅路につきました。
途中、時々不安になることもありましたが、船は無事にジャーンの国へ着き、姉妹はジャーンの大魔法を浴びることが出来たのです。
その後の二年間、ジャーンの国で出会った親切な人々に助けられながら、幼い姉妹は健やかに日々を過ごすことが出来ました。
けれど、姉妹がジャーンの国へやってきた本来の目的、母マリアと巡り合うことは、まだ叶えられていませんでした――
「お姉さま、眠いわ」
ミシェルが小さなあくびをしながら目をこすります。
「がんばって、おじいさんとミカちゃんが楽しそうにしているし、私たちだけが先に眠ってしまっては失礼だわ」
そう言いながら、フランソワ自身もまぶたが下りてくるのを必死に我慢していました。
今は夜中で、外は暗く冷たい北風が吹いています。
けれど、姉妹は優しいおじいさんと出会えたおかげで、暖かい室内でご馳走を頂きながら過ごすことが出来ていました。おじいさんが姉妹に振る舞ってくれるニヴォシは、香ばしく歯応えがあり、ここに来てからの姉妹の心と体を豊かにしてくれました。
おじいさんと一緒に、孫で金髪の大魔法使いミカちゃんもいます。二人はコタツという、ふかふかした布を被せて暖かくしたテーブルのようなものに半身を潜り込ませていました。姉妹はそのコタツの上に座り、仲良くニヴォシを頂いているところでした。
おじいさんとミカちゃんは、様々な景色が映る四角くて薄いテレビというものを眺めて楽しそうに笑っています。何日か前までは、ミカちゃんのお母さんとお父さんもいたのですが、「ショーガツをオンセンで過ごす」といって出かけたまま戻っていません。しきりにミカちゃんが羨ましがっていたので、おそらくショーガツと言うのは舞踏会のような華やかな催し物で、オンセンと言うのは宮殿のような場所なのでしょう。フランソワは、普段優しくしてくれるミカちゃんを楽しませてあげられるような事を何か出来ないかと考えました。
『お姉さま、むずかしいお顔をしてどうしたの?ニヴォシをもっと頂きましょうか?』
黙り込んだフランソワを心配して、ミシェルが話しかけてきました。
『違うのよ、ミシェル。あのね、私たちでミカちゃんを楽しませて差し上げる事が出来ないかしら、と考えていたの』
『私たちで、ミカちゃんを?』
ミシェルがつぶらな瞳を丸くして首をかしげます。
『ええ、ミカちゃんのお父様とお母様がショーガツに行かれたでしょ?ミカちゃんにもショーガツをオンセンで過ごすような気分を味あわせて差し上げる事が出来ないかしらと思ったの』
『ショーガツをオンセンで……きっと華やかでご馳走もたくさんあって、着飾った方々が音楽に合わせて踊るのでしょうね』
『ええ。吟遊詩人の面白いお話や遠い国からの贈り物とか、楽しくて美しいものがたくさん集まるのだと思うわ』
『でも、お姉さま……私たちには集めることは出来ないわよね?』
『そうね……やはり無理よね……』
フランソワがふうっとため息をつくと、小首をかしげて考えていたミシェルがパッと表情を明るくしました。
『ねぇ、お姉さま、私たちでダンスをご披露するのはどうかしら?!』
『え、ダンスを?』
『ええ。私たちのダンス、王女様が産まれるまでは、お城の人たちからもとても喜ばれていたでしょ?』
『……ええ、そうね』
『おじいさんとミカちゃんには、まだ観て頂いたことないし、きっと喜んでいただけるんじゃないかと思うの!』
そう言ってぴょんと跳び跳ねると、ミシェルはその場で優雅にお辞儀をしてから、ワルツのメロディを口ずさみだしました。体をリズムに合わせて揺らします。その姿を見ているうちに、フランソワも自然と体が揺れていました。もうすっかり忘れてしまっていたと思ったのに、メロディを聴けば自然とステップも出てきます。
『ラララ~ラララ~♪』
ミシェルも一緒にステップをきざみ出しています。フランソワも目を閉じて一緒にメロディを口ずさみました。
今はもう遠く懐かしい、ステキで楽しい日々……あの頃は、お母様もいつも笑顔で姉妹のそばに居てくれました。
母マリアのことを思い出して、急に悲しくなってしまったフランソワは、ステップをやめて目を開きました。
すると、さっきまでテレビを見ていたはずのおじいさんとミカちゃんが、姉妹の方へ向き直って目をまん丸くして見つめてるではありませんか。ミカちゃんの手には、ジャーンの大魔法を使う時の四角い板が握られています。
『え、あ、あの…』
そうフランソワが焦って声を出した時です。
「やだ、マジすごいじゃーん!おじいちゃん、この子たち踊ってたよね?あれ、さっきの踊ってたよね?」
ミカちゃんが久しぶりにジャーンの大魔法を唱えてくださいました。そして、目をキラキラさせながらおじいさんに話しかけると、おじいさんも大きくうなずきながら「たまげたなぁ」と言っています。
『お姉さま、私たちのダンス変だったのかしら?』
ミカちゃんの声に驚いて、ミシェルも目を開いてキョロキョロとおじいさんたちの様子を伺いだしました。
『わ、わからないわ、でも、ジャーンの大魔法を唱えてくださったから、不愉快とかではないと思うのだけれど……』
フランソワも不安で声が震えます。
けれど、ミカちゃんはニコニコしながら手の中の板をなぞるとおじいさんの方へ向けています。
「みてみて、じいちゃん、良く撮れてるでしょ?」
「ああ、ホントだ。やっぱりこの子達は可愛いなぁ」
おじいさんもニコニコしています。
不思議な気持ちで、ついついフランソワはミカちゃんの手元を覗き込みました。なにしろ、この板は魔法を叶えるための大事な道具だと思っていたので、今まで覗き込むなどという不作法はしたことがありません。そこには、姉妹と同じように可愛らしくダンスのステップをきざむ姿がありました。
『うそっ、この子たちこんな薄い板の中にどうやって入ってるの?!』
思わずフランソワが叫ぶと、その姿を見てミカちゃんが笑います。
「じいちゃん、この子たちビックリしてるよ!」
「ははは、自分達が写ってるってわかるのかな?」
「どうかな~?」
そう言いながらミカちゃんが板の表面を撫でます。すると姉妹のダンスはかき消えて、新たな姿がたくさん現れました。みなそれぞれ、おいしそうなものを食べたり筒の中にもぐったりクルクルと輪の中を走ったりと、おかしな仕草をして見せています。
『まあ、こんなにたくさん!どうやって入ったの?』
いつの間にか横に並んでミシェルも板をのぞき込んでいます。と、その時、入れ替わるたくさんの姿の中に見覚えのある面影が一瞬だけ見えました。
『お母様!!』
思わず板に飛び付くと、ミカちゃんが驚いて指を止めました。
「わ、わ、わどうしたの?なんだろ、何か気になるものでもあったのかな」
ミカちゃんがぶつぶつと呟きながらゆっくりと指を動かします。
すると再びマリアの姿がそこに現れました。
『お母様!お母様っお母様!』
今度はミシェルも一緒に板に飛び付きます。
姉妹の必死な様子に、ミカちゃんがマリアを指でなぞると、板の中でその姿が大きくなりました。マリアも歌いながら目を閉じて踊っています。けれど、彼女が口ずさんでいたメロディはワルツではありません。それは、姉妹が何度も歌ってもらっていた、優しい子守唄でした。
『お母様……お母様……』
フランソワもミシェルも、泣きながらマリアに話しかけましたが、マリアはまるで何も聞こえていないようです。どうやらマリアは板の中に閉じ込められているようでした。
『ミカちゃん、お母様を助けてください!』
『お願い、お母様を助けて!』
姉妹が一生懸命お願いすると、ミカちゃんが首をかしげました。
「何だろう?すっごく反応してるよね?」
「そうだなぁ。なんか見た目もそっくりだし、ひょっとして親子じゃねえかい?」
「えーっ、マジ?そう言えば似てるような」
「踊ってるしよ、これも」
「そうだよね。コメントしてみるかな」
ミカちゃんは、そう呟くと板を手元に引き寄せてしまいました。
「ああっ、お母様が!」
「落ち着いて、ミシェル。ミカちゃんは大魔法遣い、お母様を助けてくださる方法をご存知なのかも知れないわ」
「でも、でも、やっとお母様が見つかったのに」
「信じましょう、ミシェル。ジャーンの大魔法の国の、大魔法遣いミカちゃんの力を」
姉妹はその場にひざまずくと、母マリアとの再会を祈りだしました。
「お、なんか大人しくなったな」
おじいさんが姉妹の背中を優しく撫でてくれます。
「眠くなったんじゃない?あ、そう言えば流星群てそろそろ見頃じゃないっけ?」
「あ、そう言えばそんな時間か。見に出るかい?」
「うん!あ、この子達はどうする?」
「そうだなあ良い感じに丸まってるから抱っこして出るかな?」
「あ、じゃあ、あたし抱っこする!抱っこする!」
「暖かくしてやりなよ?」
「うん。フリースの膝掛けにくるんで行くよ」
ミカちゃんの優しい手が姉妹をそっと持ち上げて、ふわふわした布の中に包んでくれました。
おじいさんとミカちゃんが扉を開けて外に出ます。
冷たい風に、フランソワとミシェルは、ブルッと震えて顔を上げました。
『お姉さま、お外よ』
『寒いわね、どうしたのかしら?どうしてこんなに暗い時間に外に出たのかしら』
フランソワが呟いた、その時です。
スーッと長く尾を引きながら、夜空を星が流れていきました。
「あ、じいちゃん今の見た!?」
『お姉さま、今の見た!?』
ミカちゃんの声とミシェルの声が重なりました。
おじいさんがうなずいています。
フランソワも目を潤ませてうなずきました。
「ああ、でも、願い事は出来なかったなぁ」
ミカちゃんが残念そうに呟きました。
それを聞いてフランソワとミシェルは顔を見合わせました。
『願い事?』
「大丈夫だよ、まだまだどんどん流れてくるからさ」
おじいさんの言葉に、フランソワとミシェルは驚きました。
『流れ星にお願い事をするのですか?!』
「よ~し、じゃあ次は絶対三回願い事唱えるんだ!」
ミカちゃんが姉妹を強く抱き締めながら呟きました。
『はいっ!』
姉妹も空を見つめます。
冷たく澄んだ夜の空気の中に二人と姉妹の吐く息が白く溶けていきます。
と、すーっと星が流れました。
『お母様と無事に会えますように!お母様と無事に会えますように!お母……ああっ』
三回目の途中で見えなくなった星に、思わずフランソワが声を上げます。
『お姉さま、わたしも三回唱えられなかったわ』
ミシェルも悲しげに呟きました。
「あーっやっぱ三回って難しいなー!」
ミカちゃんも何かぶつぶつと口にしていましたが、三回は唱えられなかったようです。
『大魔法遣いミカちゃんさえ、難しいと仰っているのですもの、私たちもがんばらなくちゃ』
フランソワは、気持ちを奮い起たせました。
『がんばるわ、お姉さま!』
ミシェルも深くうなずくと、再び空を見上げました。
星はその後もいくつもいくつも流れました。
姉妹は一生懸命に祈りました。
星が消えるまでにほんの一度か二度は、願い事を三回唱えられたような気もします。
「寒いね、もうそろそろ家の中に戻ろうか」
おじいさんがぶるっと震えてそう言うと、ミカちゃんもハアッと白い息を吐いてからうなずきました。
「あれだけたくさん流れ星があったんだもん、きっと一つくらいは叶うよね?」
どうやらミカちゃんは色んな願い事を唱えていたようです。
『あふ……お姉さま、ふぁむ、私たちのお願いも叶うかしら?』
暖かいフリースに包まれて、すっかり眠そうな表情でミシェルがたずねてきました。
『そうね……きっと、きっとお星さまが叶えてくださるわ。せっかくミカちゃんがチャンスを与えてくださったのだもの』
フランソワは、流れ星への願いの場を設けてくれたミカちゃんを感謝を込めて見上げました。
「可愛いなぁ、小さいほう寝ちゃってる」
ミカちゃんが、やさしくミシェルの背中を撫でながら、えへへと笑います。
フランソワはもう一度、星のきらめく夜空を見上げました。
おじいさんとミカちゃんは、新しく来ると言う『シンネン』について話しています。
きっと素敵な日々になる、と。
お星さまは、お母様をあの薄い板の中から、きっと助け出してくださるはず。
そして、シンネンになれば姉妹にも素敵なことがきっと起こるはず……
希望に胸を膨らませながら、いつしかフランソワも暖かな眠りの中に落ちていきました。
空では大小さまざまな星たちが瞬いています
それはまるで
姉妹の願いをかなえると約束するかのように
とても美しい星空でした
ようやく見つかった母マリアが、実はけっこうご近所さんにいることがわかったり、姉妹のことがご縁となって、ミカちゃんの「素敵な彼氏が出来ますように♪」の願いが叶ったりする、素敵なシンネンのお話は、また別の機会があればご紹介させていただくかもしれせん。
☆姉妹を見守ってくださった皆様のもとに訪れるシンネンが、ステキなものとなりますように☆彡