叫び
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、出来事などとは一切関係ありません。
おめでとう、日本は滅ぶんだ。
突如山口県の砂浜に現れた赤い何か。
それは何もかもを腐食させる菌糸であった。それこそ金属も、水も、人間も。
それは人がその地を踏むことで広がった。靴の裏に付いた菌糸は他の土地へと運ばれた。更に質の悪いことにその菌糸は根付いてから腐食を始めるまで時間があり、その間は無色透明で見分けるのが困難であった。
さて、そんなものが蔓延ってしまっては困るということで政府には早急な対応が求められた訳だが……
政府は何もしなかった。
否、この表現には誤謬があるか。
しかし政府はその危険性を分かっていながら不十分な対策で良しとした。
野党や分科会からは十分な対策とやらの最低ラインが提示されていたのに。
政府は大規模な地質検査をしなかった。
どこで侵食が起きているか分かればそこを封鎖することができ、侵食を遅らせることもできただろうに。
政府は菌糸に土地が侵食され職も居も金も何もかもを失った者に何も用意しようとしなかった。
生活保護は、親族がいればその親族に養ってもらうこととなっているのでそれを受けることができず、またその親族にも頼ることが出来なかった者で溢れた。
これらの根底にあった政府の考え曰く、金が無かったそうな。
海外選手を招致して大規模な赤字の世界大会を政府主導で開催したにも拘らず。
核兵器を持っている国に対抗しようとして揃えた一般兵器の軍事費を削ることもせず。
何千万円と貰っている自分達の給料を削ることも考えず。
わざわざ組んだ特別対策予算を二十兆円と余らせた。
その他にもこの政府は公文書改竄やら“自衛”隊の集団的自衛権行使を認める法整備やら消費税を増税した上で法人税減税やらと中々やらかしているのだが、その態度がこの菌糸パニックまで影響を及ぼしていた。
まあそれでも国民も馬鹿じゃない。
政府の支持率はどんどん下がり、とうとう三割を切る。
これはいかんと政府は対策をする……訳ではなくなんと身内の総裁選を始めた。
総裁が決まればすぐに衆議院選挙と洒落込んだ。
まあそれでも国民も馬鹿じゃない。
ここで手にしたのは政府を選ぶ権利……生活環境を変える権利だ。
これまでやってきた行い全てが仇となり政府の言葉には重みの欠片も無かった。
そして、それこそ野党は政府の悪い箇所全てを指摘し、これを改善することを公約とした。
いよいよ投開票日である。
そして開票が終わり、翌日。
渋谷は投票権の無い青少年達で溢れた。
「おい!!おい!!!しっかりしてくれよ!!」
「大人ってなんだーー!!」
「俺達の生活なんだと思ってんだ!!」
彼らは口々に叫んだ。
そう、何も変わらなかったのである。
何も変わらなかったのである!!
残念ながら国民は馬鹿であったらしい。
すると渋谷は赤く染まっていった。菌糸だ。
ざわざわと大人達が困惑した。
地面が赤くなり、壁が赤くなる。窓は暗くなり、人は慌てふためく。
それは世紀末かのように美しい光景であった。
バタバタギャーギャー阿鼻叫喚な渋谷のなんとあはれなことか。これが大人(笑)が選んだ道だったのだ。
菌糸は変異を起こしているのか忽ち建造物を腐敗させていき、終いには崩してしまった。
いと素晴らしき大人達が選んだこの未来を青少年達は呆然と眺める。
そして誰かが言った。
「おめでとう、日本は滅ぶんだ」
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第二作『叫び』 かいじ藍太郎 2021.11.1