ついてこないで、死神さん。(お試し読み切り)
死神。それは、「生」を与える神とは真逆に、「死」を与える邪神である。
死神には幾つかの諸説があり、魂を奪う、目を付けられたら終わり、見えたら終わりなどと、もはやITだろと言いたくなるほど様々である。
が…
…こいつは何なんだろう。ウロウロするかと思えば、滅茶苦茶怖い形相でいないないばぁしたり。
とりあえず声かけてみるか。
「おい、アンタ誰だよ?」
ビクゥゥッ!!
ものすごい勢いで飛び跳ねた。多分ギネス世界記録。
驚くべき跳躍力に、俺は早くもこいつは人間じゃないと断定し、質問を重ねる。
「あなたは誰ですか?」
ビクビクゥゥッッ!!!!
敬語で言えば多少落ち着いた印象になるはずだが、余計刺激したらしい。
というかビビりすぎだろ。
「あんぬゎたぁはどぅゎーれでーすくぁ?」
バチーン!!
脳天ぶち抜かれたかのような激痛を噛み締め、加害者に目を向けた。
「仕事に集中しろ、アホッ!」
「さーせん…」
上司だった。悪ふざけが過ぎたらしい。ちなみに脳天ぶち抜かれたことは無い。
チラッとよくわからん奴に目を向けた。思えばビクビクしてなかった。
「〜〜〜〜〜!!」
ゴロンゴロンガシャーンドドドパリーン。
馬鹿みたいに笑ってるかと思えば、笑いを堪えるあまり被害が出ている。
バカにされたような気もしたが、怒りで静まった…いや、増した。
「この野郎…」
怒りMAXな声色で漏れる声。
ちなみに俺じゃない。つまりどういうことかっていうと…
「佐々木ィ!どうしてくれんだァ!!」
俺が怒られているのである。
ハハッ。クソが。
「部長、俺じゃなくてコイツがやったんすよ。」
よくわからん奴に指先を向ける。中指な。
中指の指す方角を見て、部長の体がプルプル震える。ブルブルの方が良いか。
「貴様ァ!」
元アメフト部、現プロレスラーのタックルが迫ってくる。
タックル勝負で負けたことは無いという無敗最強のタックル。ちなみにタックル勝負が何か俺は分かってない。
その矛先は、よくわからん奴に向けられーーーー
「げぼばぁ!!」
ーーーーず、俺に直撃した。
待て、状況を整理しよう。
俺は今日、よくわからん奴に出会った。そんでよくわからん行動をしたよくわからん奴が、社内の花瓶やらガラスやらを割りまくったおかげで、そいつは部長のタックルで死んだ。と思ったら、俺が死んだ。
…何を言ってるかよくわからんと思うが、俺もよくわからん。
死ぬ前には走馬灯が見えるらしいが、俺の場合全く見えない。そんなことを考えつつ、遠のく意識に身を預け、葬式で家族が泣くことを期待する。
ーーーーそこそこの人生だった。