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【完結】着物は異世界でも素晴らしい  作者: メリアリリー
着物女子のプロローグ
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急にモテモテで大パニック

 お姉様に連れられるまま歩く街並みは、ここが一番の繁華街らしく両側に店が並び、さらには露店も並ぶ。タープの下ではサンドイッチらしきものやジュースらしきものも販売されていて心も腹も鳴るが、そもそも持ち合わせがない。

「この街にはこの店しかないわね」指を刺されたのは、連れてきてもらわなければ絶対探せないような陰気で薄暗い木戸。「ここのオヤジはがめついドワーフだからね」

「ドワーフ?」

 白雪姫の?

 質問が終わらないうちにお姉さんが戸を開いた。

 最奥の、カウンターのギラリと目が光るおじさんと目があった。なるほど、とても小柄でテレビで見た小人症の人とよく似ている。

 しかし白雪姫に出てきたかわいい小人とは全く違う、街ですれ違ったら絶対目を合わせたくないようないかつい顔をしていた。

「何かね?」

「あのっ、かっ買い取って欲しい物がっ……!」

 私は帯が崩れないように帯締(おびじ)めを回した。


 帯締めはその名の通り帯の上に締めてある紐で、細さの割には強度が強く帯をしっかりと固定する重要な役目がある。

 帯締めを慎重に解いてい帯留(おびど)めを外し、またきつく結ぶ。


 帯留めは帯締めにつけるアクセサリーで、あってもなくてもいいうえに自由度も高い。

 私はコーディネートに物足りないときはよく付ける。素材は宝石からサンゴ、ガラスに木工、昨今ではレジンやレースやビーズなど多種多様で、コレクターズアイテムとしても有名だ。


 今日の帯留めは祖母の遺品の一つで七宝焼の高価な品だ。美しいマーブルな色合いに蝶の形が可愛いので気に入っていたが、現状では先立つもののほうが優先だ。おばあちゃん、ごめん。

「これ……どうでしょうか?」

「ふん……ブローチではないな。」

「こうして紐を通して使う飾りです。金具を付け替えればブローチにもなりますが……」

「見たことない宝石だね。貝かな?」

「金属の焼き物です」

「焼き物でこんな色は見たことがないね……!」

 おじさんはかなり入念に帯留めを眺めていた。様子では手応えがありそうだったが、急に顔をあげた。

「それよりあんた、その髪飾りを手放す気はないか?」

「……えぇっ!? これですか!?」

 思わずすっとんきょうな声が出てしまった。

「大事なものか?」


 そうじゃない。むしろ全くの逆。このリボン型ボンネットは百均ショップの材料で手作りした激安商品だ。

 百円のリボンを二重にしたところに百円のビジュウ、さらに百円のパールビーズをなんとなくのインスピレーションで木工用ボンドで組み合わせて作っただけの総額三百円の超お手軽。


「これなら是非!」

と髪に手をかけたところで

「ちょっと待って!」

背後で大きな声が響いた。道案内のお姉さんが目が爛々としている。

「渡せないわ! それは私が先に目をつけてたの!」

「えーっ!?」

 初耳なんだけど!

「先に目をつけてた? お前さんに何の権利がある?」

「私がいたからここにこの娘を連れて来れたなんじゃないの!」

「そりゃそっちの都合だ。お嬢さん、その飾りとセットなら色をつけるよ! どうだい?」

「えっ……えぇっ!?」急にモテモテで大パニックである。「わかりました、お姉様」

 お金がほしいからおじさんの心象を悪くしたくないが、お姉さんの義理も欠きたくない。

「お姉様?」

「ここに来れたのはお姉様のおかげですから、先に交渉権があるべきです」

「そうよ! それよっ!」

「ちょっとお嬢さん!」

 慌てるおじさんを制する。

「ご亭主、代わりにこちらはいかがですか?」

 一昨日買ったばかりのノンホールピアスを取り外した。それにはお姉さんが目を見張る。

「えっ? 今なんで一瞬で外せたの!?」

「耳に穴を開けているわけではないからです」

「この細い透明な樹脂……クリップで挟むだけです」

「ふむ……すごく軽いな。それにこれも見たことない金属だ」正しくは樹脂を小さい凸レンズを使ってまでじっくりと眺める。「わかった。じゃあ二つで大金貨一枚だ」

「えっ」驚いたのはお姉さん。「ケチなおやっさんが随分太っ腹じゃないの」

「初回だし奮発だ」あとで聞いたところ、大金貨一枚で一ヶ月暮らせるそうだ。「そのかわりまた珍しい商品があったら持ってきておくれよ。今度は一番先にな」

おじさんはすぐ五百円玉大はある金貨を差し出してきた。とりあえずこれで無一文は脱出だ。

「あの、これで表で売っていたサンドイッチは買えますか」

「変なことを聞くな。千個は買えるぞ」

「そうじゃなくて……露店に支払うのにこの硬貨は大きすぎませんか?」

「両替かい? いいよ」


 そう言って目の前の大金貨が再び消え今度は一回り小さい金貨一枚と銀貨がたくさん出てきた。

 これこれ。要するに露店で一万円は煙たがられるだろうし、金持ちそうに見えても困る。しかしこうなるともう一つ別の問題がある。


「これを入れる小さいバックはありますか? できるだけ安いの」

「質流れ品の皮袋ならあるね。だいぶ古いから安くするよ」

「じゃあそれをください」

 後ろでお姉様が

「えーっ!? ここで買わなくったって」

とつぶやいたが、そもそも財布がないのだ。現ナマを持って歩くわけにもいくまい。どうやら大金のようだし。

 確かにあまり綺麗とも言えないし第一まったく可愛くない皮袋が出てきたが、吟味する余裕は今はない。手ぶらでなくなったことも大きい。

 袋代を引かれると金貨と銀貨の他にいくぶんかの銅貨も出てきた。

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